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魔鋼騎戦記フェアリア  作者: さば・ノーブ
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魔鋼騎戦記フェアリア第3章双璧の魔女Ep2姉弟Act10それは戦場という地獄

マリーの前に一人の脱出者が現れた。

その黒髪の脱出者に歩兵隊が発砲する。

マリーはその一人の為に決断した。

遊弋するKG-1の中で・・・


「マリー車長!大変です。

 あの脱出者を歩兵隊の奴等が見つけてしまいました!」


カラム上等兵が振り返って叫ぶ。


「何だと!あの犯罪者共にか!?」


マリーは砲手席に戻り、照準鏡でその様子を確認する。


脱出した女性と思われる戦車兵に歩兵隊が気付いて、銃を放っている。


その近くには味方中戦車M3の一個中隊程の車両がいた。


ー  なんてこった!たった一人の戦車兵をも、殺そうとするのか?

   それが誇りあるロッソア陸軍のする事なのかっ!


マリーの瞳が怒りに燃える。


「ロナ!同軸機銃の用意!カラムっ前方機銃の射撃準備!」


マリーの命令で3人は固まってしまう。

マリーがあの脱出者を射殺しようとしていると想い込んで。


だが。


「いいかカラム。あの脱出者を狙え。

 狙って当てるな。

 私も同軸機銃であの女性を撃つ様にみせて、誰も近寄らせなくしてやる。

 あのフェアリアの戦車兵を生き延びさせてやろう。

 私達の手で!」


マリーの命令で沈み込んだ車内の雰囲気が一気に変わる。

マリーの命令で3人が甦った様に命令に従った。


「マリーベル、マリー少尉。

 私はあなたの部下で良かった。

 私はあなたの命令ならどんな辛い事だってききます。

 感謝します、少尉!」


ロナが瞳に涙を湛えてそう叫んだ。

3人がマリーに感謝の眼差しを向けてくるのに頷き、


「では行くぞ、みんな!」


マリーが命令を下す。


「はいっ!」


KG-1が黒髪を靡かせて走るフェアリアの戦車兵へと向う。


((キュラキュラキュラ))


キャタピラが不整地をゆっくりと進み、


「カラムっ撃てっ!歩兵隊の奴等を邪魔してやれっ!」


((ダッ ダッ ダッ))


カラムは命じられるまま、その少女を狙う様に機銃を放つ。


((バッ  バババッ))


砂塵が舞い上がり、少女の足元を機銃弾が襲う。


((ドドドドドッ))


マリーが同軸機銃を連射する。

その軸線は、歩兵隊の頭上をぎる。


戦車の軸線に入っていると気付いた歩兵達が慌てて逃げ出した。


ー  よし、これであの犯罪者共はあの戦車兵を追う事はないだろう。

   これでいい・・・これで良かったのだ!


マリーは同軸機銃を放ちつつ照準鏡で逃げる少女を見て思った。


その時、機銃弾に追われる黒髪の少女が振り返った。


恐怖に染まる顔を向けたと思ったマリーが気付く。

黒髪の戦車兵が自分よりも年下の少女である事を。

その顔は何かを耐えているかの様に、悲痛で涙を流している事に。


ー  泣いているのか・・・それ程恐いのか?

   ・・・いや違う。

   あの少女の視線は私達を見てはいない。

   彼女は自分の乗っていた軽戦車を見て泣いているのだ!


挿絵(By みてみん)


マリーは同軸機銃を撃つのをやめて、黒髪の少女の顔を目に焼き付けた。


ー  たった一人で逃げていくのはどんな気持ちなのだろう。

   同乗者を見捨てて逃げるのはどんな想いなのだろう。

   今の私には解らない・・・判りたくもない・・・



その少女は走り続ける。

自軍の陣地の方に。


挿絵(By みてみん)


「よし、もういいだろう。カラム射撃中止。

 ダリマ帰るぞ、反転180度、味方陣地へ!」


マリーが黒髪の少女へ一瞥を与えてから命じる。


「よーそろ。還ります!」


ダリマ伍長が車体の向きを変え、帰還の途に付く。

前方にあの少女が脱出した軽戦車と、その周りにいる数名の味方兵士達が目に入る。


ー  何をしているのだ?あいつらは?


軽戦車の横に停止しているM3中戦車と、

その乗員らしい数人が見ている前で、歩兵隊の数名が睨み合っているのが見えた。


「何をしているのでしょうか、奴等は?」


カラム上等兵がマリーに訊く。


その時、歩兵隊員の足元に横たわっている金髪の戦車兵に気付いたダリマ伍長が叫んだ。


「奴等!奴等は何をしたんだ!?あの女性戦車兵に!?」


ダリマの叫びでマリーが照準鏡を覗き込んで、その光景に瞳を曇らせた。


「何て事を・・・どうしてそこまで卑劣になれるのだ?

 これがロッソアの軍隊がする事なのか!?」


横たわる金髪の戦車兵の衣服の乱れに何があったのかを知り叫んだ。


「ちくしょう共め!犯罪者共め!」


カラムが叫ぶ。


「マリー少尉?」


ロナが怒りに震えるマリーに呼びかける。


マリーが見詰める照準鏡の中で、

その特務歩兵隊の将校が仲間達と共に別の車両へと向う姿が目に入る。


「ダリマ!奴等を追え!追うんだ!」


怒りに震えるマリーが操縦手に命じる。


「は?・・はいっ!」


KG-1を、その将校達が行く別の車両へと向わせるマリーに、ロナが訊く。


「マリー少尉?何をなさるつもりなのです?」


その問いに答えずマリーが呟く。


「許さんぞ!これ以上の残虐行為は。断じて許さない!」


ロナが気付く、マリーの瞳が赤黒く澱んでいる事に。


「マリー少尉・・・」


ロナは心配そうな顔でマリーを見詰めた。


別の車両に近付いた特務隊員達が脱出したフェアリア戦車兵を見つけて銃を構えている姿が目に入る。


「また奴等が!」


カラムが叫ぶ。


「少尉!どうするんですか?」


マリーに命令を求めるダリマは、スピードを上げて特務隊員達の行動を見詰める。


フェアリアの生存者は2人の少年兵達だった。

一人は身体に傷を負っているのか身動きせず手を挙げ、

もう一人はその傷付いた少年を庇う様に特務隊員の前に身を晒している。


「まさか、無抵抗の敵兵を?」


カラムの叫びは一発の銃声にかき消された。


((パンッ))


銃声と共に手を挙げた少年が倒れる。


ー  ! 何て事をっ!


4人の戦車兵は、一様に声に出せない叫びをあげる。


倒れた少年兵に手を差し出したもう一人の傷を負った栗毛の少年兵に対して、

特務隊の将校が銃を突き付けて笑っている。


「やめろっ!撃つなっ撃つんじゃないっ!」


マリーの叫びは虚しく車内に響いただけだった。

将校の銃が放たれ、その少年兵も前のめりに倒れた。


「ちくしょうめ!」


一部始終を見てしまった4人が声を詰まらせる。


「ダリマ・・・そのまま近付け!」


マリーが低い声で命じる。


「マリー少尉?」


操縦手がマリーに振り返り、訳を訊こうとすると、


「ロナ、榴弾を装填しろ!」


怒りに我を忘れたマリーが命じる。


「マリー少尉?まさか・・・奴等を?」


ロナはマリーがこの後何をするのかが解って躊躇すると、


「ロナ!私の命令が聴こえなかったのか!

 弾を込めろと言ったのだ!」


ロナに振り返ったマリーの瞳は赤黒く澱み、吊り上がっていた。


「奴等は人間の皮を被った悪魔だ。

 我々人間の敵だ。敵は殺さねばならん。

 いいか、奴等は誇りあるロッソア兵ではない。

 只の畜生だ!」


マリーが叫び、照準を特務隊の将校に向ける。

ロナはマリーの命令に戸惑いながらも榴弾を込めて、


「マリー少尉、私はあなたの命令に従います。

 この後、どんな罰を受けるにしろマリー少尉に従います」


ロナがマリーへ言うと、ダリマもカラムも頷き、


「私達もマリー少尉に従います。少尉の決断に反対しません」


3人がマリーに従う事を認めて見詰める。


「よし、それならば私と共に奴等を、あの畜生共を駆逐してやろう。いくぞ!」


ダリマが停車する、カラムが機銃を構える、ロナが次弾を持つ。

そしてマリーが発射杷弊を握り、


「消え去れっ、悪魔共!」


その赤黒く澱んだ瞳で歩兵隊に撃った。


((ボムッ))


悪逆の限りを行う数名の男達は何が起きたのか解る術もなく、


((グワンッ))


砲弾の炸裂と共に宙に舞った。


ー  これで私も悪鬼共と同罪だ。

   だが、譬え悪鬼に堕ちるとしても、私は構わない。

   戦う術を持たない者を殺すより遥かに私は・・・私の心は人なのだから・・・


数名居た特務隊員は一人残らずマリーの砲撃で倒れていた。


「これでいい・・・これでいいんだ」


マリーが呟く。

赤黒く染まった瞳で自らが行った虐殺の後を見ながら。


「車長・・・帰りましょう?」


ロナがマリーの心を知るかの様に命令を求める。


「そうだな。帰るとするか。

 悪魔を倒した事だからな!」


我に返ったマリーが命じる。


「車長、我々が倒したのは人の敵。悪魔ですよね?!」


ダリマがハンドルを倒し、帰還の途に着きながら話し掛ける。


「ダリマの言った通りですよね。

 私達が撃ったのは人の皮を被った悪魔。

 ・・・そうですよね?」


カラムも振り返ってマリーに同意を求める。


「ああ、そうだ。私達が倒したのは人間ではない。気にする事もあるまい」


赤黒く澱んだ瞳でマリーは平然と答えた。



あちらこちらでフェアリアの戦車が煙を噴き出し、斯座している中をKG-1は進む。


幾多の死者の魂が、救いを求めるその地獄の中を。


味方の残虐行為に逆上したマリーは、その悪辣な者を抹殺した。

悲劇の戦場から抜け出したマリーに、再び悪夢の戦場が待っていた。

次回 マリーの宿命さだめ

君は己の運命に抗わないのか・・・

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