魔鋼騎戦記フェアリア第3章双璧の魔女Ep2姉弟Act8二つの国の魔女
震える声が耳に残る。
自分に答えを求める瞳には哀願にも等しい悲しみが映っているようにも見えた。
「ミハル・・・」
自分を見詰めて答えを求めているミハルに声を詰まらせるリーン。
「マモルが乗っているのが解ってしまった、あの暗黒魔鋼騎に・・・
撃つ事が出来るのか・・・
殺してしまう事が出来るのか・・・
私には自信が無いんだ。
闘う事が出来るのか、自信が無いの・・・」
暗黒魔鋼騎に乗る弟との闘いに戸惑うミハル。
「ミハル・・・それでも私達は闘わねばならない。
そう、それが運命なら・・・。
でも、決して弟君を殺すとは限らない。
殺さない方法がある筈だから・・・」
そんなミハルにリーンは諭す。
「方法?」
ミハルが思わず聞き返す。
「そう、それが弟君を取り戻すチャンスでもあるのだから」
リーンがきっぱりとミハルに教える。
「マモルを・・・取り戻す・・・チャンス?」
ミハルの瞳が大きく見開く。
「そうよ、ミハル。これは弟君を取り戻すチャンスでもあるのよ。
あの暗黒魔鋼騎に勝つ事で弟君を取り戻すの、ミハル手に!」
リーンが決然とミハルに教える。
「私の手に?」
「そう。奴に勝って弟君を奪い返す方法。
それはあの暗黒魔鋼騎を動けなくさせる。
修復不能なまでダメージを負わせる。
そして弟君を脱出させるの。
難しいのは解っているけどやってやれない事は無いと思うんだ。
ミハルの射撃術ならきっと出来るわ!」
リーンがミハルの肩を抱いて教えた。
どうすればマモルを取り戻せるかを。
「そっ・・・か。マモルを取り返す・・チャンスでもあるんだね」
「そうよ。何処に行ったか判らなくなるより、
この方がずっとチャンスがあるんだから。
私達で弟君を取り戻すのよ、ミハル!」
リーンに教えられてミハルの瞳が希望を持つ。
「そうなんだ。そうなんだよね、リーン。
私がマモルを助けなきゃ!
マモルを取り戻さなければいけないんだものね!」
希望を抱いたミハルの瞳に光が戻る。
「そうよ、その粋!」
リーンが微笑んで頷いた。
「それには新車両の慣熟訓練が必要なの、我々が奴に勝つ為には!」
瞳に光を取り戻し、運命に抗う力を持ったミハルに、
リーンが戦車乗りとしての勤めを命じる。
「うん!絶対負けられないもの。
絶対マモルを取り戻さなきゃいけないんだから」
求めに応じるミハルが言った。
「私が納得するまで訓練させて、リーン!」
ミハルの答えに頷いて、
「ええ、勿論。
ミハルが納得出来るまで何度でも繰り返し、訓練しましょう。
ビシバシいくわよ!ミハルっ!」
2人は戦車兵に戻っていた。
暗黒魔鋼騎と再び闘う為に。
今度こそ倒して、大切な人を取り戻す為に。
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ロッソアとフェアリアが対峙している間も、雪は降り続き、強烈な寒波の為に両軍の動きは鈍かった。
そのロッソア軍の中でも特に最前線に位置している部隊に、
特殊な装置を持つ隊があった。
「なぜ、トドメを差さなかったのだ。なぜ殺してしまわなかったのだ?」
一人の将官が車両に尋問する。
「・・・」
将官に答える声は無い。
「まさか、情けを掛けたのではあるまいな?」
将官が続ける。
「<大蛇の紋章>を掲げるロッソアの魔女たるお前が宿敵フェアリアの魔女に対して、
その様な甘い事をする訳は無いと思うのだが・・・真実はどうなのだ?
答えによっては考え直さねばならん。
さあ答えよ、<大蛇の紋章>の魔女、マリーよ!」
将官の尋問に軽戦車から声が聴こえた。
「将軍。私が答える前に聞かせて欲しい。
あなたは私の同乗者とフェアリアの魔女が姉弟で合った事を知っていたのか?
知っていて私の中へ乗り込ませたのか?」
マリーの声が低く響いた。
「何故その様な事を訊くのだ、魔女よ」
将軍の口が歪む。
「マモルの姉がフェアリアの魔女と知っていて私の砲手にしたのかと訊いたのだ、将軍!」
マリーの声が苛立って訊く。
「知っていた・・・いや、選んで乗せたと言ったら、どうすると言うのだマリー少尉?」
まだ人の形をしていた時の階級で呼ぶ将軍。
「将軍、それはどう言う意味なのだ?
単に魔法力が強い少年だと聞いていたのだが・・・私は。
闇の力で魔砲力を引き出した少年だとしか、私は知らされて居なかった」
マリーが砲手として乗り込んできた少年について、知らされていなかった事を訊く。
「マリー少尉よ、お前は紋章を受け継ぐ者として闘って来た筈だ。
そして憎み、恨み、闇の力を蓄えてきた。
<双璧の魔女>を倒す為に。
その手助けをしたまでだ・・・我々は・・・な」
将軍の口元が醜く歪む。
「私が闇の力を欲したのは、私の戦友を殺した憎い奴を倒す為だ。
・・・それ以上でも以下でもない」
軽戦車の中でマリーが反抗する。
「その相手を倒すのがお前の願いだった筈ではないのか・・・
友の仇を討つのが全てだった筈ではないのか?
・・・何故殺さなかったのだ?」
将軍が軽戦車を見て問う。
「確かにそのつもりだった。
奴の・・・<双璧の魔女>の紋章を掲げて闘う敵を。
だが、その乗員の顔を見て、話す言葉を聞いたときに思い出した。
あの少女を・・・
私が始めて魔鋼騎乗りとして闘ったあの戦いを」
「あの闘い?何の事だマリー少尉」
将軍の問い掛けにマリーは黙ってしまった・・・
ロッソアの魔女、マリー。
彼女は一体何を見てきたのか?
次回 マリー少尉
君は宿敵の魔法少女と出合ったいたのか・・・?
次回からマリーのターンが始まります。
彼女はどうして闇に堕ちる事となったのか・・・
さあ、これからが紋章を持つ者の宿命のお話がシリアスに紡がれていきます。





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