魔鋼騎戦記フェアリア第3章双璧の魔女Ep2姉弟 Act2願掛け
ミハルは未だに目覚めぬキャミーに付き添っていた。
どうしても眼を開けてくれないキャミーに一つの決心をする。
それは神に願いを起てる事・・・
「スー ハー スー ハー 」
酸素マスクを着けたままのキャミー。
呼吸の音だけが生きている証。
「キャミー・・・」
虚ろな瞳でミハルが呼び掛ける。
「もう一週間になるね。私を救ってくれてから・・・」
ミハルはキャミーの手を取って語り掛ける。
「こんなに眠って・・・こんなに眼を開けてくれないのって・・・
私の力じゃどうにも出来ないのかな?」
この一週間ずっと傍に着いて魔法力を酷使し、
キャミーの回復に努めてきたミハルは、既に限界を超えた力を注ぎ込んでいた。
「私にはもう力が残ってないよ、キャミー。
キャミーを元へ戻す力が無くなっちゃったよ。
・・・ごめんね、キャミー」
虚ろな瞳で酸素マスクを着けたキャミーを見詰める。
「もし、キャミーを救えるなら・・・神様。
私の命を救う為に傷付いたキャミーを救えるなら・・・」
ミハルの心は神に願う、大切な人を救って欲しいと。
虚ろな瞳で辺りを見回す・・・そこにバスケットが目に入る。
つと立ち上がったミハルはそこにあるナイフを手に取る。
そしてそのナイフを胸元へ当てて、
「神様、キャミーを助けて下さい。
キャミーを私の元へ返して下さい。
・・・これが、代償です!」
ミハルがナイフを持ち替える。
ー 継承者よ!ミハルよ!お前は何をしようとしているのだ!?
ミコトが止める。
「ミコトさん。死ぬ訳ではありませんから。これを神様へ捧げて、願を掛けるだけですから」
ミハルは結った髪をイキナリ掴み、
((ブチッ ブチブチブチブチッ))
胸元で切裂く。
ー ミハルっ!お前っ?!
((バサッ))
ミハルの髪は肩口の辺りで斬りおとされた。
その切った髪をキャミーの傷口の辺りに載せて、
「どうか神様、キャミーの目を開かせて下さい。
もう一度あの笑顔を私に帰して下さい・・・」
神に祈りを捧げた。
結った赤いリボンを着けたままの髪をキャミーの布団の上に載せたまま祈るミハルに・・・
「ミハルっ!?あなた・・・?」
部屋に入って来たリーン中尉がミハルの姿を見て戸惑った様に声を掛けた。
「あ・・・リーン?」
虚ろな瞳をリーンに向けるミハルに訊ねる。
「あなた・・・髪を?」
キャミーの布団に載せられた髪とミハルの姿に言葉を詰まらせるリーン。
「あ、これ?・・・神様に願掛けしたの。
キャミーを起こしてくれる様にって・・・」
キャミーに視線を戻したミハルが、か細い声で答えた。
「違うわよ、ミハル・・・気が付いていないのね。鏡を見てみなさい」
リーンは髪を切った事ではなくミハルの変化の事を言っているみたいだった。
「え?」
リーンに言われて顔をあげたミハルが、病室の窓に映る自分を見る。
そこには青い瞳と青い髪をした姿の自分が・・・
「え?何で・・・青いの?魔鋼状態でもないのに・・・何故?」
思わず右手に填めた宝珠を見る。
その宝珠は輝きを放ってはいなかった。
「ミコトさん?どう言う事なのですか?」
聖巫女に訳を訊くが、
<・・・・>
ミコトの声は聴こえてこない。
「え?ミコトさん?ミコトさん?」
宝珠の中に居る魂を呼ぶが、返事が返ってこない。
「さっきまで、髪を切る前まで喋っていたのに?」
どうして黙ってしまったのか判らなくて、ミハルが戸惑う。
「リーン?リインさんに聞いてみて。ミコトさんが話してくれないの!」
戸惑ったミハルがリーンに助けを求める。
「うん、解った!」
リーンがミハルの青い瞳を見て頷き、
「聖王女様、これは一体?」
<リーンよ。それはミコトの事か?それともミハルの髪の事か?>
「どちらもです!」
<うむ。まずミコトが喋らなくなった理由は一つ。
ミハルが切った髪に居るからだ。
ミハルの想いを叶えさせてやりたいミコトが、その娘に力を与え続けているからだ。
心配する必要はあるまい>
リインがリーンの中で微笑む。
そして、
<ミコトの継承者の髪色の件だが・・・>
「はい?」
<不思議な事もあるものだ。ミコトの力が無いというのに・・・
魔法力は少しも衰えていない。
いや、むしろ魔法力があること事態が信じられん?!>
リインがミコトの継承者に力がある事を不思議がる。
「え?ミハル自体に元々魔法力が備わっているのですか?」
リーンが自分の姿を戸惑っているミハルに視線を戻し、魂に訊く。
<うーむ、そうとしか考えられない。
この娘は生まれながら魔法力を持っている。
その力はミコト同様かなり強力なのだろう。
その力が今、目覚め様としているのではないのか?
・・・詳しくは解らないのだが・・・>
「そうなのですか・・・ミハルはもともとの魔砲使いだったと。
継承者としてではなく、新たな力を持って生まれてきたと。
・・・そうなのですね、リインさん?」
<まあ、そう言う事だな。珍しい事だが・・・>
リインに教えられたリーンがミハルを見詰める。
「あの・・・リーン?私、どうなっちゃたのかな?」
窓に映る自分に戸惑ったミハルが訊く。
「うん、リインさん曰く、
ミハルは元々魔砲の力が備わっていて今、それが目覚め様としているらしいの。
何か変化に気付かない?」
「え?ミコトさんの力以外に・・なの?」
益々戸惑うミハルが右手の宝珠に力を込める。
が、何も起きない。
「あの・・・何も、起きないし、変化も無いよ。
そんな力があるのなら、私に魔法の力があると言うのならキャミーを治してあげたい」
ミハルはキャミーに右手を翳し、昔母から教わった呪文を唱える。
「キャミー、早く善くなって・・・もう一度眼を開いて・・・お願い・・・」
そう呟き、呪文を唱え続ける。
「ミハル・・・」
リインもリーンも、そんなミハルに掛ける言葉が見つけられずに、
只傍に立ち尽くしていた。
目覚めぬキャミーの元に一人の看護婦が現れる。
その不思議な看護婦はミハルに退出を命じた。
ミハルの魔法力を必要としないその看護婦の正体とは?
次回 看護婦 キュリア
君はこの世界に存在する力に眼を見張る事となる・・・