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魔鋼騎戦記フェアリア  作者: さば・ノーブ
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魔鋼騎戦記フェアリア第3章双璧の魔女Ep1闇の魔鋼騎Act45血塗られた瞳

挿絵(By みてみん)


撃破されたMMT-6。

その姿は単なる中戦車。

ミハルはリーンと共に脱出する。

そして出会う事になる・・・その人に。

ミハルは魔砲力を停め、姿をフェアリア軍陸戦騎ユニフォームへと戻していた。

脱出するリーンも魔砲力を解除している。


戦い終えた・・・敗れ去って。

撃破された魔鋼騎の姿は、黒煙に霞む。


魔法力の有る者がまだ乗っていようと関係が無かった。

姿を元のVK30-02Mへと戻し紋章の輝きを失った、只の中戦車が破壊された姿。


後部から炎と黒煙を噴き出し斯座したMMT-6から、

ミリアをリーンと担ぎ出したミハルは地上へ降り立ち、操縦手席から脱出したラミルと合流する。


「敵は?あの軽戦車はどうしている?」


ラミルが血走った眼で、ミハルに訊く。


黒煙で後部が見えず、また心の余裕も無かったミハルがラミルの声で気付き、


「見てきますっ!」


ミリアをラミルに託して車体後部を廻り、暗黒魔鋼騎の姿を求めた。


その姿は・・・



急ターンをした時に、はずれたキャタピラを徐々に直す黒い車体の軽戦車。

その右半分は手ひどく装甲が破れ車内が露出していた。


ー  あ・・・当っていたんだ。私の弾が・・・


薄く煙を吐き出しながらも、その魔鋼騎が尚も生きている事はキャタピラを直しつつある事からも判る。


ー  相討ちではないけれど、それ相応のダメージは与えられたんだ・・・


思わずミハルが軽戦車の前へ姿を晒してしまった。


ミハルの姿に気付いたのか、砲塔ハッチが開いて敵の乗員が出てくる。

手に拳銃を持って。


ー  えっ?!


拳銃を持ったその乗員を見たミハルが立ち竦んでその姿を見上げる。


((スッ))


無表情なその乗員が、拳銃をミハルに突きつける。


ー  うそ・・・でしょ。こんなの・・・悪い冗談でしょ?


ミハルの瞳が大きく見開かれ、その乗員の顔を見詰める。


「マ・・・モ・・・・ル・・・?」


ミハルの手がそっとその乗員に指し伸ばされる。


「マモルなの?・・・マモルなんだね?

 私だよ、ミハルだよ。

 あなたのお姉ちゃんの・・・ミハルだよ!」


か細い声で呼びかける。

喜びと戸惑いの混じった声で。


だが、返事は一発の銃声にかき消された。


((シュウウゥ・・・・))


挿絵(By みてみん)


少年の握った拳銃の銃口から硝煙が、棚引いた。


「うっ、あっ・・・・」


左腕から血を流し、破れた服を掴んでミハルがよろける。


「なぜ?・・・マモル?」


瞳を涙で霞ませたミハルが訊く。


軽戦車に立つ少年の顔を見て、ミハルは泣く。

とめど無く溢れる涙を拭こうともせずに。


その少年の拳銃が次第にミハルの胸に狙いをつけてゆく。

その瞳を赤黒く澱ませたまま。


ー  ああ・・・やっと逢えたと言うのに。

   あなたともう一度逢う為に生き残って来たと言うのに。

   あなたに殺されるなんて・・・

   あなたを救う事も出来ないなんて・・・


涙に暮れた瞳で弟を見詰めるミハルが、走馬灯の様に想いを巡らせる。




「「姉ちゃん!ミハル姉ちゃん!」」


小さな少年が私に呼びかけてくる。

人懐っこい瞳で。

可愛い笑顔。

優しい瞳。

風にそよぐ黒髪。

・・・どれをとっても懐かしい想い出。


私の手を握って父母と共に見知らぬ街を興味深げに見て笑い掛けてくる。

2つだけ歳下の弟。

この国へ来て、慣れない私を何時も心配して励ましてくれる心優しい弟。


「姉ちゃんはさ。もっと友達を作らないといけないよ。

 父さん母さんに頼ってばかりじゃ駄目だよぉ?」


私が軍の幼年学校へ転校する時も心配して校門まで見送りに来て励ましてくれた。

そして、父母が居なくなっても気丈に私に言った。

軍隊に入る最期の日にも。


「ミハル姉ちゃん、必ず戻って来て僕の元に。約束して、僕と。

 きっときっと生きて戻ると。

 また2人で懐かしい日の本の大地を踏むまで死なないと!」


そう言って小指を差し出して来た・・・マモル。


私は約束を交わした。

必ず約束を果すと。

マモルの元へ還り、2人で懐かしい祖国の地へ還ると・・・



記憶はそこで途切れた。

想いはそこで終わった。


「マモル・・・」


涙でぼやけた瞳を、銃を構える少年に向け手を伸ばす。


まるで自分を失う事で大切な人を取り戻そうとするが如く。

そして気付く、マモルの瞳が別人の様に赤黒く澱んでいる事を。


<もういい継承者!ミハルっ!私の槍は闇の中へ堕ちてしまった。

 お前の弟は闇へ堕とされてしまっている。

 今は取り戻せない。

 死ぬな!死ぬんじゃないっ!

 お前は忘れたのか?大切な友との約束を、想いを!>


ミコトの叫びがミハルを気付かせる。


「大切な約束・・・想い・・・?・・・そう。

 私はリーンを、皆を護って・・・いかなければならないんだよね」


<そうだミハル!お前は生きなければならない。

 譬えどんな苦しくとも、辛くても。

 今は耐えろ、耐えて見せるんだ!いいな、解ったな!>


ミコトがミハルの心に語り掛ける。

そして・・・


「すまんなミハル。少し、身体を借りるぞ!」


ミハルの身体を乗っ取り、額に紋章を浮かばせた。


<ミコトさんっ、何をする気ですか!?>


身体を取られたミハルが叫ぶ。


「ミハルよ、見ておれ。私が私の力を封じてやる。

 弟の魔法力を封じてやる。

 そうすれば弟は魔法力を使えなくなる。

 あの機械も力を失うだろうからな!」


ミハルの顔をしたミコトが微笑んだ。

そして額の紋章に手を翳し、


「聖なる槍よ、我が求めに応えよ!我が力と共に一時の休息をっ!」


額の紋章を手に納める。

握られた右手の中から碧き光が満ち溢れ、


「槍よ!聖なる輝きを取り戻せ!」


その輝きをマモルに放った。

赤黒く澱んだ瞳のマモルが碧き光に包まれる。

その黒い軽戦車と共に。


「うわああぁっ!」


少年の絶叫が辺りに響く。


―  マ、マモルっ?!


ミハルは願いを込めて祈る。

マモルが元の優しさを取り戻す事を願って。


だが・・・


「うっ・・・くっ!」


赤黒い瞳は変らず、片手で顔半分を隠したマモルがミコトを狙い直してトリガーに指を掛ける。


「くっ、奴の呪いを封じ切れないのか?」


ミコトが身構えて舌打ちした。


「ぐっ、死ねえぇっ!」


マモルの口から呪われし言葉が吐き出される。


そして指が引き絞る。

狂気の弾を放つ為に。


((ズギュンッ))


異なる声が呼ぶ。


「ミハルっ!!」


銃声と声が重なる。

ミコトを突き飛ばしたのは。


「ちっ!邪魔するな!」


マモルの口から邪な気が放たれる。

突き飛ばされたミコトの瞳が大きく見開き、ミコトの魂を乗り越えてミハルが叫ぶ。


「キャ・・・ミー・・・キャミー?」


突き飛ばしてミハルを庇ったのは?


「ふふっ、ミハルらしくねーぞ。そんな声出すなんて・・・な」


そう言ったキャミーがふらりとミハルにもたれ掛かる。


「キャミー?」


倒れ掛かって来たキャミーを抱きとめたミハルの手にべたりと血が付く。


「キャ、キャミー!?」


キャミーのわき腹に穴が開き、そこから血が流れ出ている。


「い、嫌っ、キャミー!キャミー!」


叫ぶミハルにキャミーが言う。


「ミハル、弟を助けてやれよ。諦めるんじゃないぞ、約束だぞ・・・」


そう告げると静かに眼を閉じた。


「嫌、嫌ああぁっ。キャミーキャミーっ!」


ガクガクとキャミーの身体を揺さ振り続けて、目を醒まそうと必死に呼び掛けるミハル。

闇の瞳に戻った再少年が、再び銃を構えた。


「どうして?どうしてなのよ、マモルっ!」


キャミーを撃ったマモルにミハルの怒りが向けられ、その瞳を澱ませる。


「<双璧の魔女>を倒すのが僕の使命。我が主の命令!」


マモルがミハルの問いに応える。

その銃口を向ける事によって。


「マモル?そうなんだ。マモルも邪な者に魂を奪われちゃったんだね・・・」


怒りで瞳を更に澱ませたミハルが呟く。

そして気付く、その赤黒い瞳の中に微かに光る輝きを。


ー  ミコトさんが放った聖なる輝きがあるんだ。

   まだ、望みはあるのかもしれない・・・


ミハルの心は微かな希望を抱く。


「マモル!聴こえるなら答えて!

 私をお姉ちゃんと呼んで。

 もう一度あの優しい声でミハルお姉ちゃんと呼んで!

     ・・・お願いだからっ!」


ミハルが必死の想いで叫ぶと、軽戦車から女性の声が聴こえた。


「マモルっ、マモルっ、もう戻りなさい。新たな敵がこっちに来るわ。

 もういいから還りましょう!」


呼び掛けられたマモルの手が下る。


「解ったマリー・・・還ろう」


サッと身を翻し、砲塔ハッチへ身を潜らせるマモルに、


「あっ!待ってマモルっ。お願い、お願いだから行かないで!」


右手をさし伸ばすミハルの前で再び暗黒魔鋼騎のエンジン音が響く。

キャタピラを直し、穿口はこうを直しつつある暗黒魔鋼騎が動き出す。


「待って!私の弟を返して!」


ミハルはそっとキャミーを横たえてから暗黒魔鋼騎を追って走り出す。


挿絵(By みてみん)


進路を元来た山頂に向けた軽戦車がスピードを増し、ミハルから遠のく。


「待ってマモル!

 マモルを返して!

 お願い弟を、マモルを私に返してっ!」


遠のく軽戦車に手を指し伸ばして叫ぶミハルは、

 力尽きた様に両膝を雪に着けて泣き続ける。


辺りは吹雪で霞み、もう黒い軽戦車の姿もその白い雪で見えなくなった。

吹雪の中に消えていった暗黒魔鋼騎。

傷付いた身体を雪の中に晒して泣くミハル。

その瞳は闇に堕ちた弟の姿を追い求めていた・・・

次回 エピロローグ 雪

君は生き残った事を悔やむのか?

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