魔鋼騎戦記フェアリア第3章双璧の魔女Ep1闇の魔鋼騎Act43相討つ魂
暗黒魔鋼騎がスピードを上げる。
「何だとっ!?あいつ正気か?ミハル撃てっ!撃つんだっ!」
ラミルの絶叫が車内を震わせる。
「ミハルっ早くっ!奴は体当たりする気だぞっ!」
キャミーも叫ぶ。
その瞳を恐怖に染めて。
「うそっ!何をする気なの?」
リーンも我が目を疑ってしまう。
そう、暗黒魔鋼騎はミハルの予想を覆して、真一文字に突っ込んで来たのだ。
「くっ!」
トリガーに指を掛けミハルは戸惑った。
ー どうして?避けないの?
ミハルが一瞬の戸惑いで射撃が遅れた。
((ズドムッ))
先に暗黒魔鋼騎が撃った。
MMT-6のキャタピラを狙って。
((グオオオォムッ))
ほんの僅かな差で・・・傍から見れば同時に思える程、
僅かな差が命取りとなる事を誰よりもよく知るミハルが、
ー そんな!突っ込んでくるなんて!?
臍を噛む。
((ガッ ガガーンッ ガラガラガラガラッ>))
左キャタピラが切られた衝撃がラミルに伝わる。
「しまった、左動力系を切られた。キャタピラが切られましたっ!」
ラミルの叫びが車内を震わせる。
その時、
ミハルの放った弾が軽戦車の前面装甲を喰い破った。
ー やった!これで・・・
88ミリ魔鋼弾で正面装甲を破られた軽戦車のスピードが落ちる。
「えっ!?」
リーンの瞳もミハルの瞳も、次の瞬間信じられない物を見るように大きく見開かれた。
((グロロッ ゴゥンッ))
確かに一撃を受けた筈の軽戦車が再び走り始めたからだ。
「そんな!?まだ生きてるの?」
リーンの叫びが耳を打つ。
ー そうだ、エレニアでもそうだった!
あの時、アルミーアの弾を受けてキャタピラを切られた駆逐戦車は勝手に直していたんだった。
忘れていた。
完全に撃破しない限り、修復してしまう事を!
ミハルが思い出し照準器に写る暗黒魔鋼騎へ再度撃ち込むべく、
狙いをつけ直した時には既にその距離は50メートルを切っていた。
「奴は体当たりする気なのか?」
キャミーがペリスコープから目を離し、何かを悟った様な瞳で歯を食い縛る。
「くっ!全員衝撃に備えて!」
リーンが暗黒魔鋼騎を睨んで覚悟を決める。
自らの力を振り絞って盾の力と化す為に。
ー 違う!体当たりなんてしない。
<大蛇の紋章>を掲げた奴は私達に勝とうとしている。
相討ちなんて考えていない。
だとしたら、当然?!
ミハルは叫ぶ、自らの考えの元に。
「リーン、ミリア!手伝って。
手動旋回用意!ラミルさん残った右キャタピラで動かせるだけ動かせてください。
奴がすり抜ける方向に!」
ミハルの叫びに皆が気付く。
まだ勝負は着いていない事を。
リーンが車長席の補助旋回ハンドルを握る。
ミリアが次発魔鋼弾を装填装置に載せてからハンドルを握る。
ー そう、あの車体の特徴。
走行中には砲塔を横に向けることが出来ない。
前方にしか砲を向けられない。
私達の側面を撃つには正面をこちらに向けねば狙う事さえ出来ない筈。
つまり一度停まるか、急ターンしなければ撃てない!
ミハルは昨日闘った軽戦車が走行中砲塔を旋回させずに逃げた事を思い出し、
接近戦を挑んでくる暗黒魔鋼騎の戦法を予測した。
ラミルが正面を向け続けている限り、敵の弾は貫通されずに済むと考えての行動だった。
((ズドムッ))
至近距離で暗黒魔鋼騎が発砲した。
((ガッ ギュウイイインッ))
正面装甲はそれでも何とか耐え、弾き返す。
ー よしっ、どれだけ近付かれても正面は貫かれない。
側面か後面に撃たれない限りは私達が有利だわ!
リーンが歯を食い縛り衝撃に耐えて考える。
だが、その側面に暗黒魔鋼騎は廻り込もうとする。
「ミハル!左だ奴は左にすり抜けようと舵を切ったぞ!」
キャミーの叫びがミハルの判断を肯定する。
「今です。全力で砲塔旋回!奴がこちらを向く前に撃ちますっ!」
ミハルがミリアとリーンに手動旋回を命じる。
「ゆくぞマモルっ!奴のケツにぶち込んでやれっ。
キャタピラが切れても直すからなっ!」
マリーが叫ぶ最期の一撃を放つ為に。
「ああ、マリー。勝利の為に」
赤黒く澱み切った瞳でマモルが答える。
目の前に迫った重戦車を右に僅かに交わし、側面にすり抜けようと機動するマリー。
その距離僅かに20メートル。
ー この至近距離なら砲塔旋回も間に合わんだろう。
私の勝ちだ<双璧の魔女>!
機械と一体になったマリーが薄く笑う。
ー さあ!決着をつけてやる。くたばれ<双璧の魔女>よ!
マリーが右走行レバーを引き、走行中急ターンを掛ける。
その狙いは・・・MMT-6の後部!
MMT-6に迫る暗黒魔鋼騎。
その狙いは装甲の薄い後部装甲板だった。
ミハルはその時何を想うのか?
次回 撃破
君は戦いの中で何を想うのか?