魔鋼騎戦記フェアリア第3章双璧の魔女Ep1闇の魔鋼騎Act42マリー
<双璧の魔女>を狙う暗黒魔鋼騎。
その乗員は<大蛇の紋章>を掲げるミハルとは因縁の戦車兵。
その名は・・・
走り続ける軽戦車の中で・・・
ー くっくっくっ。
やっと捉えたぞ<双璧の魔女>。
我が宿願を叶える時だ!
黒い闇の中で、邪な声が少女の魂に告げる。
「そう、それが私の望みでもある。
私の身体・・・私の友を奪い去った、
あの憎き紋章を浮かばせている敵戦車を倒すのがたった一つの願いなのだから」
黒い軽戦車は赤黒く光る<大蛇の紋章>をくっきりと浮かせて走る。
<双璧の魔女>と呼ばれるフェアリアの戦車へ向って。
「くっくっくっ、2度も私を倒してくれたわね。
2度も大切な友を奪ってくれたわね。許せない、許すものですか!」
少女の魂は怒りに震え、悪しき色に染まる。
マリーの魂は機械の一部と化していた。
暗闇の中で幾つもの触手に絡まれ、その魂を闇へと堕としていた。
脳波を直接奪うかのように妖しく輝く細い管が刺さり、
背中と胸には、グロテスクにも思える太い蛇腹のような管が刺さっている。
< そうだマリー、お前の怒り、苦しみを全て奴に叩きつけろ。
我が呪いを全て奴に返してやるんだ。1000年の呪いと共に! >
邪な魂がマリーを染める、堕とす。
マリーはその赤黒く澱んだ瞳を開けて睨む。
機械の一部となった魂で。
「さあ、終らせてやる、こんな闘いを。
私の恨みを憎しみを全て返してやる。
思い知るがいい、この身体を闇に堕としてまで呪った者の想いを!」
黒い軽戦車の一部と化したマリーの魂が叫ぶ。
そして、
「いくぞ、フェアリアの魔女共を倒して終らせてやろう。私の砲手よ!」
マリーの声が車内に響く。
その声に赤黒く瞳を澱ませた少年砲手が頷いた。
その右手には黒く澱んだ光を放つ宝珠が着けられている。
「ああ、解っているよマリーさん。それで君の魂が休まるというのなら」
少年が赤黒く輝く中央のブラウン管に答えた。
「ふっ、ではお前の力を貸してくれ、マモル!」
マリーの魂が砲手の名を呼び、魔鋼の力を求めた。
赤黒い瞳でマモルは宝珠を掲げた。
騎士の魔法衣が揺れていた。
ミハルの心を表わすかのように。
「暗黒魔鋼騎は再装填を終えたようね」
リーンが呟き全員に命じる。
「攻撃開始っ!ミハルっ撃てっ!」
リーンの命令にミハルが射撃諸元を復唱する。
「目標、敵魔鋼騎。動標的につき見込み照準。魔鋼弾装填、射撃用意!」
砲手席の先任搭乗員であるミハルの命令に全員が素早く応じる。
「撃てっ!」
ミハルの右人差し指がトリガーを引き絞った。
((グオオォームッ))
長砲身88(アハトアハト)ミリ砲が火を噴く。
ミリアが次弾を装填機に載せボタンを押す。
開いた尾栓に魔鋼弾が装填され、
「次発装填完了!」
マイクロフォンを押して次弾装填が終わった事を告げる。
ー 奴の足を止めれなくともダメージを与える事が出来ればいいんだ!
照準器の中で黒い車体に弾が飛んでいく。
だが・・・
「くっ!奴の動きは並じゃない!」
思わず歯を食い縛り、次の照準に掛かる。
ミハルの腕でも避けられてしまった初弾が、軽戦車の側面後方に着弾した。
「敵暗黒魔鋼騎、突っ込んで来ます!」
キャミーがペリスコープを睨んで報告する。
ー 奴は知っているんだ、私達の前面装甲の厚さが自分の砲では破れない事を!
リーンが突っ込んで来る車体を睨んで考える。
ー あいつはオートローダー。再装填されて5発を撃てる。
その5発を耐えれれば私達の勝ちが見えるんだけど・・・
そしてラミルに命じた。
「敵に正面を向け続けて。奴の砲では撃ち抜けない筈だから!」
「了解!」
ラミルが前進を止め、軽戦車の動きに合わせて車体を傾ける。
「ミハルっ、奴を近づけさせないで!」
軽戦車に機動戦を挑まれない様に、射撃命令を下す。
たが・・・
((グオオオォンッ))
軽戦車の方が先に発砲した。
「なっ、何!?」
リーンが驚く間こそあれ、
((ガッガガーーンッ))
強烈な衝撃が車体を震わす。
車体前面装甲を削り跳弾したその威力は、側面か後面に撃ち込まれればどうなるのかを教えていた。
「くっ、砲も並じゃないのね?!」
ミハルは突っ込んで来る敵の砲力を咄嗟に理解した。
「これであの魔鋼騎も解った筈。
私達の正面装甲が破れない事を・・・どうすれば倒せるかと言う事をね」
その考えた結論は・・・
「リーン!奴は必ず側面か後面に廻る込もうとする筈。
そこが狙い目だよ。敵が廻り込む為には横腹を見せるから、そこで決着をつけてみせるよ!」
ミハルは敵が装甲の薄い側面か後面を狙ってくると考えた。
「うん、そうだね。ミハルの言う通り、あの時の逆だわ。注意して!」
リーンが言ったあの時・・・。
つまりエレニアでの闘いを指している。
あの時はミハルが機動戦で勝った。
しかし、今は・・・
「今の私達は砲塔がある。側面にだって砲を向けられる。だから二の舞になんてならない!」
ミハルはそう思い、突っ込んで来る暗黒魔鋼騎を睨んだ。
「そう・・・エレニアの逆だ<双璧の魔女>。私を倒した時とそっくり逆なんだよ!勝者もな!」
マリーが機械の中で叫ぶ。
「くっくっくっ。さあ、最期の祈りを唱えていろ!
お前の断末魔の声を聴かせてくれ!」
嘲笑うマリーの叫びが、マモルの脳裏を翳める。
「マリー、決着の時だ。さあ、行こう」
マモルが指をトリガーに掛けて言う。
「ああ。解っている、後4発で全てを終らせてくれ、マモル!」
マリーの求めに澱んだ瞳のマモルが頷いた。
「マリー」はマモルに命じた。
<双璧の魔女>を倒すのだと・・・
突撃を開始する暗黒魔鋼騎。
ミハルはその行為の訳を知る。
次回 相討つ魂
君は闘う、想いを込めて。唯一つの想いを果すその為に・・・