魔鋼騎戦記フェアリア第3章双璧の魔女Ep1闇の魔鋼騎Act41知る者知らざる者
ミハルは目の前に現れた<大蛇の紋章>を浮かべた軽戦車に想う。
どうして?なのかと・・・・。
心の中で想う。
ー どうして?
どうしてあなたは憎しみを捨てられなかったの?
そんなに魂を穢してしまったの?
悲しみを湛えたミハルの瞳が、軽戦車の紋章を見詰める。
ー 私も一度は堕ちた、あなたと同じ闇へと。
でも私は大切な人達に救われた。
あなたには大切な人達が居なかったの?気付かないの?
(作者注・第2章Ep1街道上の悪魔 参照)
過去の自分を見て居る様でやるせない気分のミハルが想う。
ー だけど、気付いたとしてももう遅いよ、遅すぎるよ。
あなたは今、私の前に立ち塞がってしまったの。
リーンと共に歩む私の前に・・・だから!
ミハルは射撃ハンドルを握る右手の宝珠に問う。
ー ミコトさん、これが私の運命なの?
闘い抗い続けるのが<双璧の魔女>たる私の務めなのですか?
点滅を続けている宝珠の中からミコトの声が聴こえた。
<そう、闇と闘い続けて来た私達の運命。
その継承者たるミハルの運命。
邪な者からこの国を、リインを護るのが私とミハルの勤め>
碧き輝きを放つ宝珠の中から聖巫女の声が、想いが伝わる。
「ミコトさん・・・
それが運命というのなら、私はその運命を変えたい。終らせたい。例えどんなに辛くても!」
ミコトの想いにミハルが答える。
その瞳は、碧き輝きを放っていた。
「リーン中尉の車体が!?」
斜め後方に居るMMT-6の車体が青く輝く紋章を浮かべて大きく変った。
中戦車だった車体が一回り大きくなり、砲塔形状の前盾が窄まり、砲が太く長く伸びる。
「あれは?あれが<双璧の魔女>!?」
パーツ軍曹はレンズ越しに見える魔鋼騎に眼を見張った。
その長大な砲身が敵軽戦車へと向けられてゆく。
「クラメンス少尉!今の内にそいつから離れて下さい!」
パーツ軍曹が黒い軽戦車から逃れる様にクラメンスに向けて叫ぶ。
「駄目だ、振り切れない!」
砲塔を後方に向けた4号の中でクラメンス少尉が叫ぶ。
黒い軽戦車のスピードが増し、その前面に描かれた<大蛇の紋章>が赤黒く輝く。
「くそっ!キャタピラを狙え!撃てっ!」
クラメンスが砲手に叫ぶ。
((グオムッ))
後方に向けた砲から魔鋼弾が放たれる。
だが、発砲と同時に車体を滑らせて回避されてしまう。
「くそっ、ハズしやがった!」
クラメンスの瞳が絶望の色へと変る。
暗黒魔鋼騎はグングンと近寄り続ける。
「奴はまだリロードが終っていない。急停止、落ち着いて狙え。奴の足を止めるんだ!」
クラメンスが停止を命じたのは遅過ぎたのだ。
「何!」
気付いた時にはもう、黒い軽戦車がそのまま体当たりする直前だった。
((ガッ ガガンッ))
中戦車に軽戦車が体当たりを加える。
普通ならば当然車体の軽い軽戦車の方がダメージが大きい筈なのだが・・・
((ババーンッ))
クラメンス少尉の4号が後ろ半分を破壊され炎上した。
そして黒煙の中から軽戦車が何事も無かったかのように走り出てくる。
「馬鹿な。自分から中戦車に体当たりしておいて、何のダメージも受けていないのか?」
パーツ軍曹も漸くその軽戦車がこの世の、いや、この世界のモノでは無い事に気付いた。
「奴は・・・あの軽戦車は悪魔か?バケモノなのか?」
パーツ軍曹は恐怖に満ちた瞳で此方に向って来る暗黒魔鋼騎を見ていた。
「パーツ軍曹、リーン中尉からです。<<後退されたし>>・・・です」
無線手が車長のパーツ軍曹に知らせる。
「いや、しかし。中尉を置いて行く訳には・・・」
そう言ったパーツ軍曹の目に同乗者達の顔色が見えた。
どの顔も青ざめ、震えている様に写る。
恐怖に歪んで見える、自分と同じ様に。
「解った。一時後退しよう。奴が引き上げた後に戻り、生存者の救助をする!」
パーツ軍曹が決断を下し、全速で引き返した。
「リーン中尉、これでとうとう一騎討ちになってしまいましたね」
ミハルがポツリと呟く。
「うん、そうだねミハル。こうなる気はずっとしていたんだ。この作戦を始めた時から」
キューポラから引き返す4号を見てリーンが答えた。
「リインさんも言っていた・・・古からの宿敵だって。
ロッソアの魔女は諦めていなかったんだって・・・」
キューポラの天蓋を閉めたリーンが教える。
ネックレスが青く輝いて力を放っているが、リーンの瞳は悲しげだった。
その顔は何かを堪えているかの様に辛そうだった。
「ミハル・・・気付かない?あの戦車には・・・」
リーンの声が微かに震えている事にミハルが、
「え?リーン。何の事?」
ミハルが照準器を睨んだまま聞き返す。
その時リーンの声が変る、リインへと。
「ミコト気付いているでしょ。何故ミハルに教えないの?どうして止めないのよ」
リインの声に聖巫女はミハルの右手に着けてある宝珠の中で答える。
<知っているよリイン。
でもな、闘いの邪魔になるだろ。
ミハルの心はこれ以上疵付けたくないんだ。それが私の力を失う事になったとしても>
ミコトの魂がリインの呼び掛けに答える。
「え?何?ミコトさん?」
ミコトの話が気になったミハルが宝珠に訊く。
<ミハル、お前は闘わねばならない、一度決心したからには・・・
私はその心を知ったからには止める事はしない>
そしてミコトがリインに伝えた。
<リイン、お願いがある。決着がつくまで黙っていてやってはくれないだろうか・・・頼むよ>
ミコトの願いにリインは、
「それでいいの?本当にそれでも・・・いいのね、ミコト?」
<ああ、譬えどんな結末を迎えたとしても・・・全て私が責任を被るから・・・>
ミコトの想いにそれ以上の言葉を失ったリインが魔宝玉の中へと戻る。
「ミハル・・・私からのお願いを聞いてくれる?」
リーンがミハルに求めてくる。
「ん?リーン?何かな?」
照準を合わせるミハルがリーンの求めを訊く。
「ミハル・・・あの軽戦車に乗っている人を・・・殺さないで」
「・・・それはどう言う意味なの、リーン?」
照準器を睨んだままミハルが訊く。
「私は決着を着ける・・・そう決めたんだよリーン?」
リーンの求めに抗うように告げて、ミハルは振り返った。
ー あ・・・リーン?どうしてそんな顔をしているの?
振り返った先に見えるリーンの顔は酷く辛そうだった。
「リーン、何を悩んでいるの?何が言いたいの?どうしてそんな辛そうな顔をしているの?」
ミハルが訳を訊く。
「ミコトさんっ、これで良いのですか!
知っていてどうして止めるのですか!
ミハルがどんな想いをして生き続けて来たのか解っているのですか!」
とうとうリーンがミハルの中にいるもう一人の魔女に叫んだ。
「リーン?何を言っているの?」
思わず訊き返したミハルにリーンが叫ぼうとした時、
ミハルの意識がミコトに変る。
「黙っていろと言っただろうリインの継承者よ。闘いはもう始まったのだ。勝負が決するまで何も言うな!」
鋭い瞳でミコトがリーンに一喝する。
「うっ!聖巫女様・・・」
リーンは言葉を失う。
そう。
ミコトの言った通り、運命の闘いはもう始まりのチャイムを鳴らしていたのだ。
その紋章を浮かべた戦車は笑う。
雪辱を果たさんと。
そして同乗者に命じた。
目の前に居る宿敵を倒すのだと・・・。
次回 マリー
君は雪辱を果さんが為だけに闘うというのか?