魔鋼騎戦記フェアリア第3章双璧の魔女Ep1闇の魔鋼騎Act40 1対6
暗黒魔鋼騎との決戦が始まる。
フェアリアの中戦車6両と1両の軽戦車との闘いは圧倒的に6両の有利と思われていた。
だが・・・
暗黒魔鋼騎との闘いは始まりを告げた。
「デラム軍曹!そっちに行ったぞっ!」
右側山頂のバダニム少尉が叫ぶ。
「カニンガムっ、撃てっ!奴の足を止めるんだ!」
バダニムが砲手に命じる。
その胸に青く輝く魔法玉を着けて。
4号H型の砲が火を噴く。
長砲身75ミリ砲から魔鋼弾が軽戦車目掛けて飛ぶ。
だが・・・
「くそっ!避けやがったっ!」
カニンガムの照準器には、僅かな差で後方の雪に砲弾が吸い込まれるのが写る。
「くそうっ、ちょこまかと。
クラメンス少尉っ、デラム軍曹、皆っ!奴の足を止めるんだっ、何としてもっ!」
バダニム少尉が操縦手に命じる。
「戦車前へ!奴が避けれない距離まで突っ込め!」
焦ったバダニムが計画を無視して動き出してしまった。
「あっ!馬鹿っ。やめなさいっ敵に近付いたら奴のカモにされるわよっ!」
動き出した4号を見てリーンが叫ぶ。
リーンの叫びは彼等に届かなかった。
「バダニム少尉車、突撃開始っ!」
キューポラのデラム軍曹に無線手が叫ぶ。
「よしっ、迎え撃つぞ!
マニーン撃てっ!
何処でも善いから当てろっ、奴は軽戦車だ、何処に命中させてもダメージを与えられる!」
デラム軍曹が青い魔法玉を持ってマニーン砲手に命じた。
「了解、魔鋼弾、撃ちますっ!」
マニーン砲手の照準器に黒い軽戦車が突っ込んで来るのが映る。
左右に回避運動を取りながら接近してくる軽戦車に狙いを定め様とした時、
「あっ!」
その黒い軽戦車が先に発砲した。
「しまった!」
デラムとマリーンの叫びが命中音に掻き消された。
((バッガーンッ))
デラム軍曹の4号が黒煙を上げた。
「デラム車大破!炎上中っ!」
「くそっ、デラムがやられたっ!」
バダニムが軽戦車を追いながら悔しがった。
6両中2両の中戦車を撃破した黒い軽戦車が進行方向を変え、今度はバダニム少尉に近付く。
「来やがったなっ!撃てっカニンガムっ!」
向き直った黒い軽戦車が凄いスピードでバダニムの4号へと接近する。
((ガオムッ))
4号の砲が火を噴く。
75ミリの発射煙が砲口から出た瞬間に、スッと避ける軽戦車。
そしてその砲口から発射炎が迸る。
((グオオォムッ))
軽戦車とは思えない程の長砲身高火力砲。
その一撃は魔鋼騎状態の正面装甲をも食い破った。
((ガッ! ゴオォンッ))
装甲を破った砲弾が予備砲弾を誘爆させ、バダニムの4号は砲塔を吹き飛ばされた。
「バダニム車、やられましたっ!」
ワイバッハ軍曹、デラム軍曹、バダニム少尉の車両から黒煙があがる。
6両の特別編成部隊の内、3両の魔鋼騎中戦車がたった一両の軽戦車に撃破された。
その様子を目の当たりにしたリーンが命じる。
「各車、各個射撃をひかえて連携して射撃して!残り4両で奴を倒すわよ!」
だがリーンの命令は頭に血が昇った各車両の車長には届かなかった。
いや、届いてはいたが、リーンの命令を訊く余裕を失っていたと言った方がいい。
既に左右の山頂に配備された2両を失い、
パンターを牽引してきた盆地中央の一両を合わせ3両を失った部隊は、MMT-6を加えて残り4両。
中央山頂に配備されているクラメンス少尉、カーツ軍曹の2両。
中央盆地内の林に隠れているパーツ軍曹、そしてリーンのMMT-6。
今、暗黒魔鋼騎に姿を晒しているのは、山頂の2両。
当然そちらに向って機動して行く軽戦車に4両の砲が向けられる。
「既に奴は4発の砲を撃った。
オートローダー装置を持っているのならどこかのタイミングで必ず再装填する筈。
そこが私達の動くタイミングよ」
リーンが双眼鏡で黒い軽戦車を見詰めて言った。
「パーツ軍曹に発砲しない様に伝えて、必ず奴は再装填のタイミングで逃げる筈だから」
マイクロフォンを押してキャミーに命じる。
「は、はい!」
命令を伝達する為に無線で連絡を取るキャミーに視線を向けてから、
「クラメンス少尉、カーツ軍曹、なんとか避けて・・・」
もう一度中央山頂の2両に双眼鏡を向けた。
「奴は4発を撃った!
多くとも後1・2発で再装填の為に回避運動に移る筈だ。
それまで何としても被弾を避けるんだ!」
カーツ軍曹がクラメンス少尉を護る様に黒い軽戦車へと車体の向きを変える。
「奴の弾を弾いてやれ!全力だっ!」
カーツ軍曹の魔法玉が輝きを増す。
車体前面装甲が厚みを増し、傾斜した。
車体が4号から変る、MMT-6と同じVK30-02Mへと。
黒い軽戦車に車体を斜めに向け砲を向けるカーツ車両。
「カーツ軍曹っ、停まるなっ!」
クラメンス少尉の叫びは間に合わなかった。
パーツ軍曹の75ミリ砲が放たれるのと同時に軽戦車の砲もカーツ軍曹に向けて火を放つ。
((ガッ ズドムッ))
((ガッ ギュイイィンッ))
双方に弾が命中した。
だが、砲塔を噴き飛ばされたのは、カーツ軍曹の方だった。
そして、カーツ軍曹の放った75ミリ砲弾は、軽戦車の砲塔正面装甲を破る事が出来なかった。
「そっ、そんな馬鹿なっ!?」
クラメンス少尉はその光景を目の当たりに見て驚愕した。
「カーツの弾が・・・弾かれた。奴は本当に軽戦車なのか?信じられない!」
クラメンス少尉の顔は恐怖の為に歪んだ。
女性士官の顔が青ざめる。
死の恐怖を前に。
クラメンス少尉の頭に死の恐怖が過ぎる。
目の前まで近付いてきた黒い軽戦車がその凶悪な砲を向ける。
「少尉!早く此方へ来るんです!」
クラメンス少尉をパーツ軍曹が呼ぶ。
「リーン隊長!敵は再装填中と思われます。今です、打って出ましょう!」
パーツ軍曹が隊内無線で求めてくる。
ー そう、確かにクラメンスを撃てるのに射撃してこない。勝負に出るタイミングだわ!
リーンも決心する。
「よしっ、パーツ軍曹。クラメンス少尉を助けるわ。出撃っ!」
遂にリーンが、発進を命じ一気にケリを着けに出る。
「ラミルっ、戦車前へ!」
リーンの号令と共にラミルが急発進させる。
林の中からリーンのMMT-6とパーツ軍曹の4号H型が飛び出した。
「ミハル、目標敵軽戦車。敵の装甲はとんでもなく厚い。全力で叩くわよ!」
リーンが胸のネックレスを右手で持って叫ぶ。
「ミリアっ、魔鋼機械発動!」
満を持してリーンが魔鋼力の発動を命じた。
「了解っ!作動させます!」
ミリアの左手が赤いボタンを叩き込む。
((ブウンッ))
車内が一気に変る。
碧き光の中で。
ー 必ず終らせなくては・・・いけない!
リーンの瞳が青く輝く。
ー そうですよね、リインさん!
右手に持つ魔宝玉に想いを込めて力を放つリーンは、
砲手席のミハルがまだ力を解放していない事に気付く。
ー ミハル?・・・今、あなたは何を想うの?
その碧き瞳で見詰めた。
遂にその時がやって来た。
ミハルはその因縁に強い悲しみを擁いていた。
ミハルの想いは運命を変えられるのか?
それとも・・・
次回 知る者知らざる者
君は戦いの中に何を知るのか?