魔鋼騎戦記フェアリア第3章双璧の魔女Ep1闇の魔鋼騎Act39火蓋は切られた
遂に戦闘の火蓋が切られる。
フェアリアの7両とロッソアの軽戦車の闘いが・・・
曳光弾が飛んだ。
((ガッ バッガーンッ))
6発の徹甲弾が一両の軽戦車を撃破する。
味方の射撃を知ったもう一両が、回避運動を取りながら尚もパンターへ向けて近寄り・・・
((ガムッ))
放棄されたオトリのパンター側面後部に命中し、小さな穴が開く。
「キャミー、あいつが無線を使う筈だから注意しててね!」
リーンが様子を伺いながら無線傍受を命じた。
「はい。今、探っています!」
心得ていたキャミーが既にダイヤルを動かし、
相手の連絡を掴もうとヘッドフォンを耳に押し当てて聞き耳を立てる。
((ズドン ズドン))
6両から集中射撃を受けた軽戦車の左転輪が吹飛び車体が停まる。
「攻撃中止、敵乗員を脱出させて捕らえよう!」
リーンがキャミーに全車の攻撃中止を命じた。
動けなくなった軽戦車の乗員2名が脱出を計る。
ハッチが開き人影が車体から現れる。
「敵乗員、脱出するようです。ワイバッハ軍曹の4号が向います」
パンターを牽引して来ていた4号が反転し、撃破された軽戦車へと近付いていった。
斯座した軽戦車から乗員が脱出しようとハッチから身を出しているのが、ミハルの照準器にも写っていた。
どうやら乗員2人供無事脱出出来そうだと少し安堵を覚えた・・・その時。
((ガッ))
その軽戦車に砲弾が突き刺さり・・・
((バッガーンッ))
脱出しようとした乗員2人と共に、砲塔が消し飛んだ。
「ああっ!誰っ!撃ったのはっ!」
リーンが絶叫し、キャミーに怒鳴る。
だが、その答えを聞くより早く。
((ズッダダーンッ))
今度はワイバッハ軍曹の4号が後部エンジンパネルを吹き飛ばされて撃破されてしまった。
「 ! 」
部隊全員が飛んで来た砲弾の発射方向を見上げて固まった。
砲口から発射煙が棚引いているその軽戦車は、白い雪の中ではっきりと姿を現した。
ー 来た・・・あれが暗黒魔鋼騎!
「ワイバッハ車被弾っ撃破されましたっ!」
ラミルの声がヘッドフォンから流れる。
照準器を見詰めているミハルが身体を硬直させた。
その姿を一瞬見たリーンが全てを悟る。
そう、ミハルが気付いた事を・・・
<<大蛇の紋章>>
・・・そう呼ばれし、古からの邪な紋章の意味と、ミハル自身の因縁を。
しかし、リーンはミハルだけに構っている訳にはいかなかった。
「発砲した敵が動き出しましたっ。左山頂に向いますっ!」
キャミーが叫ぶ。
「キャミーっ、全車に命令っ!魔鋼騎態勢に移行、全力を持って出現せし黒い軽戦車を撃破せよ!」
「了解!」
リーンの命令に復唱し、無線で命令を伝えるキャミー。
「リーン中尉、魔鋼機械を発動しますか?」
ミリアがキューポラを見上げて訊く。
「待ってミリア、まだ早い。奴がこちらに気付くまで待つのよ!」
リーンがミリアを止めてからミハルを見る。
その背中が微かに震えている事に気付き、
「ミハル・・・」
小さく呟いた。
ー どうして?どうしてなの?何故また現れたの?
ミハルの脳裏にエレニアでの闘いが思い起こされる。
巨大な152ミリ砲を装備した駆逐戦車にその紋章が描かれていた。
ミハルの一撃で、その駆逐戦車はエンジンを破壊され炎に包まれた。
そして乗員が脱出する。
ー 確かに私はあの紋章を掲げた戦車を2度撃破した。
最初はKG-1。
そしてあのSU-152。
今、3度私の前に現れた。あの紋章を掲げて・・・
ミハルの瞳が曇る、自らの運命を呪って。
ー あの紋章を持つ搭乗員はきっと私達<双璧の魔女>を憎んでいる。
恨んでいるに違いない。
昔、私が憎んでいた様に・・・
ミハルが黒い軽戦車に描かれた紋章を見て、悲しい気分になる。
「中尉、あの黒い軽戦車に描かれている紋章。
・・・エレニアでウォーリアを殺した奴なのですね?」
キャミーが低い声でリーンに訊いてきた。
ミハルはヘッドフォンから聴こえたキャミーの声にビクリと身体を震わす。
ー そう。
私が自分の都合の善い風に思い込んでいただけ。
この戦場で情けを掛けたと想いあがっていた私が間違っていたんだ・・・
ミハルの右手が震える。
「あいつを2度と歯向かわせられない様にしてやらねばなりません。
そうしなければ誰かが奴に殺されますから・・・」
キャミーの言葉がミハルの心に突き刺さる。
ー そう、キャミーの言う通り。
歯向かう敵に・・・戦場で情けは無用。
・・・思いやりなんて必要ないのかも知れない。
私は・・・私は自分の力に思い上がっていたのかもしれない。
その結果がこんな闘いを産んでしまったんだ・・・
ミハルは右手の宝珠を見詰めて考える。
ー もう、終らせなければ。こんな闘いをする必要なんてなくさなければいけない・・・
ミハルは決意を胸に、マイクロフォンを押した。
「リーン、終らせなくてはいけないね。
あの<大蛇の紋章>を浮かべている魔女を倒さなければ・・・殺さなければいけないね」
ポツリと呟いたミハルにキャミーが、
「ミハル・・・今、何て言ったんだ?
お前の口からその言葉が出るなんて・・・
言うんじゃない。優しいお前がその一言を言っては駄目なんだ!」
愛する者を奪われたキャミーが、その想いを封じてまでもミハルを止めようとする。
「何故?キャミー。どうして止めるの?
あの紋章を掲げる人にあなたの最愛の人を奪われたと言うのに。
私と同じ様に殺されたと言うのに・・・」
曇った瞳でミハルは訊く。
「倒さなくてはならないのは解る。
でも殺意を抱いて闘うのは駄目だ。
そんな事をすればミハルも奴と同じ心になってしまう。
奴と同じ様に、闇に堕ちてしまうんだ・・・だからっ!」
キャミーが辛い気持ちを必死に抑えてミハルを改心させようとする。
「だから?
・・・でも私はもう2度とあの人と闘いたくなかったのに。
エレニアで殺さない様にエンジンだけを狙って撃破したというのに・・・
それが返って仇となって他の人を傷付ける事になってしまった。
あの時、私が抱いていたのは単なる妄想だったのが、今判ったよ」
曇った瞳でミハルが答え、
「そう、だから今度は・・・今度こそ決着をつける。
最期まで・・・完全に消し去らなきゃいけないんだ!」
その決意は変らなかった。
「ミハル・・・」
キャミーがミハルの瞳を見て呟く。
<堕ちるな、堕ちるんじゃない、ミハル!>
拳を握り締め、キャミーが歯を食い縛る。
ー あたしの好きなミハルは、そんな瞳をしてはいない。
大好きなミハルはそんな酷い事を口にしない!
「ミハル。これが最後の勝負にしましょう。必ず勝って2度と立ち塞がられない様にしよう」
「リーン・・・中尉まで・・・?」
リーンの言葉にキャミーが驚く。
まさかリーンまでもがミハルを止めようとせずに、同調するとは思ってもみなかった一言だった。
キャミーは知らなかった、知るべくも無かった。
リーンとミハル、<双璧の魔女>たる2人の運命を。
現れた暗黒魔鋼騎。
その呪われた戦闘力に部隊は苦戦を強いられる。
ミハルは現れた宿敵を静かに見詰めた。
次回 1対6
君は生き残る事が出来るのか?