魔鋼騎戦記フェアリア第3章双璧の魔女Ep1闇の魔鋼騎Act34謎の敵暗黒魔鋼騎
ドートル師団長と敵軽戦車に付いて話す2人。
その実力はいまだ未知数だった・・・
「はあっ、はあっ、はあっ・・・」
荒い息を切ってリーンが立っている前には。
「り、リーン。いいの?そんなことして・・・」
またまた眼を点の様にしたミハルが訊く。
「い、いいのよ、こんな叔父さん。当然の報いだわ!」
リーンの前でひっくり返った銀髪の中将が。
「で、でも。完全に気絶しているような気が・・・」
冷や汗を垂らしてミハルがおどおどと2人を見比べる。
「だって!叔父さんが調子に乗って私の・・・ごにょごにょ・・を触るんだもんっ!」
最期の方はゴニョゴニョと消え入るように言ったリーンが、恥ずかしそうに顔を赤くした。
「え?なんて?」
ミハルがワザと聴こえなかった様に耳に手を当てて聞くポーズをすると、
「あーっ、もう。何でドートル叔父さんが師団長なのよっ!こんなセクハラ男がっ!」
怒りの矛先を師団長に向けた。
「まあまあ、リーン。落ち着こうよ・・・・ね。」
ミハルがリーンを宥めながら倒れて気絶している師団長を起こしに掛かる。
肩を揺さ振り、
「あの・・・師団長閣下。しっかりしてください」
顎にリーンの一撃を喰らって気絶したドートル中将を起こすミハル。
「う、うーん。ナイスパンチだった・・・」
気付いたドートルがムクリと起き上がり、
「パンチも母上同様に素晴しくなったな、マーガネット姫!」
訳の解らない事を言って立ち上がったドートルが、2人の魔鋼騎士を見詰める。
「ふう、久しぶりの再会も無事済んだ事だから、真面目な話に移ろうか」
銀髪の中将が顔を引き締めて2人に言う。
「あ、あのね、叔父さん。アレのどこが無事なのよ」
リーンが口を尖らせて文句を言うのを手で制したドートル中将は。
「まあ、それはワシの趣味だ。それより、本題へ移ろう」
リーンに答えた中将の顔は先程とは別人の様に引き締まっていた。
「う・・・うん。解りました、師団長」
その顔に自分も顔を引き締めて真面目になるリーン。
ドートル中将はリーンの横で畏まっているミハルを見ると。
「君がもう一人の魔女・・・だね、軍曹?」
声を掛けられたミハルが自己紹介を申告する。
「はい、ミハル・シマダ軍曹です閣下!」
敬礼し、姿勢を正し名を名乗る。
「ふむ。今迄マーガネットを護り続けてくれた名砲手だと聞いていたが・・・
そうか、君の様な少女だったとは思わなかったよ」
まだ幾分幼さの残るミハルの顔を見て、ドートル中将は感心とも哀れみとも取れる表情を浮かべる。
「そうよ、ミハルはまだ16歳。軍に入ってからまだ1年にも満たないわ。
それでも今迄何度も死線を越えて闘い続けてくれた。
私と、私達小隊を護ってね」
リーンがミハルの顔を見て中将に教える。
「ふむ聞いておるよ、我が戦車隊きってのエース戦車兵だと。
だからこそマーガネット姫の小隊に命令が下ったのだと思うのだ」
ドートル中将が2人の魔鋼騎士に一枚の書類をポケットから出して見せる。
そこにはユーリ皇女と中央軍司令部の作戦司令が書かれてあった。
「この命令書にある通りだ。
第97小隊を持って敵のエース車両と対峙させ<何としてもこれを撃破、殲滅すべし>と、ある」
そう言った中将が書類をリーンに手渡した。
「敵のエース車両・・・
暗黒魔鋼騎と呼ばれる真っ黒く車体を塗装された軽戦車・・・
型はAMX型と思われるが、砲力が格段に強力。
確かに軽戦車のスピードと強力な砲を備えていれば手強そうね」
リーンが顎に手を添えて考える。
「それに魔鋼騎って書いてある・・・その実力は未知数ね。
必ずしも全力を出しているとは考え切れないもの・・・そいつが」
リーンが書面から顔を上げてミハルに言う。
「うん、今日闘った軽戦車でも手強かった。
敵の車両はどんどん手強くなってきている。油断は出来ないねリーン中尉」
ミハルは包帯を巻いた左腕を擦って答えた。
そこで今迄黙って話を聞いていたドートル中将が話しに割って入る。
「マーガネット姫。その暗黒魔鋼騎と呼ばれている軽戦車に我々第2師団だけで8両。
この方面に展開している第2軍全体では17両もの中戦車が撃破されたのだよ」
その軽戦車による被害状況を教えるドートル中将が更に、
「奴は神出鬼没に現れ、我々の行動を妨害している。
まるで何かに取り付かれているかのように、中戦車だけを狙ってな」
そう言うと二人に顔を向け真顔で、
「そう、奴の狙いは中戦車。君達だ!」
ドートル中将がリーンとミハルに告げた。
「私達?私達を狙っていると?」
リーンがドートルを見詰めて訊く。
自分達を何故狙う必要があるのか解らずに。
「そう、奴等は君達の紋章を付けた中戦車を探していた。
それは捕虜によって明確に解った。暗黒魔鋼騎は君達<双璧の魔女>を狙っている」
ドートル中将が言い切った。
「でも師団長。
いくら捕虜が私達の紋章を探していたからと言って、暗黒魔鋼騎が私達を狙っているとは?!」
ミハルが言い切った師団長に質問すると、
「何故、中央軍司令部が君達をこの師団に送って寄こしたか考えなかったのかね、軍曹?」
「えっ?そ・・・それは」
言い澱んだミハルに中将が続ける。
「マーガネット、ミハル軍曹。
この命令はユーリ皇女も知っている。知っていながら止めなかった。
なぜなら暗黒魔鋼騎を倒せるのは君達<双璧の魔女>しか居ないからだ」
「ユーリ姉様が?そうか・・・だからあんな電報を・・・」
リーンの瞳が曇る。
「そうだマーガネット。
君達<双璧の魔女>をロッソアは狙っている。
伝説を覆す為に。最強の魔女を創り上げ差し向けてきたのだよ」
ドートルの言葉にミハルが訊ねてみる。
「最強の魔女を創った?」
その質問にドートルが答える。
「そうだ軍曹。
ロッソアの邪な伝説<大蛇の魔女>。
そう呼ばれている紋章を掲げているのだ。あの暗黒魔鋼騎は・・・な」
「<大蛇の紋章>ですって!?」
リーンが眉を吊り上げ訊き返す。
そう、リーンは知っていた。
そう呼ばれている邪な紋章の事を。
「<大蛇の紋章>って、どんな紋章なのですか?」
ミハルが2人にその紋章がどんな形なのかを訊ねる。
ー ミハルはその伝説に描かれた紋章を知らない・・・
そう、知らないほうがいい。今は・・・
リーンは咄嗟に話を逸らす事にした。
「ねえミハル。
ユーリ姉様が私達にその暗黒魔鋼騎を討ち果たして欲しいって言ってきてたわよね。
何も私達一両でやっつけなくってもいい筈なんだから。
作戦の邪魔になる敵を倒せばいいだけなんだから。コッチも何か対策を練ろうよ」
そう言うとリーンはドートルに話を振り、
「そうですよね、ドートル師団長。
何も私達だけでその暗黒魔鋼騎とやらを退治しなくてもいいんですよね?」
目配せしながら話した。
「う、うむ。その通りだマーガネット」
気付いたドートルが頷く。
「あ、あの・・・その暗黒魔鋼騎って?」
話を折られたミハルがおずおずと相手の事を教えて欲しいと思い訊いてみるのだが。
目配せされたドートル中将は一瞬リーンを見てから、
「ああ、情報によると軽戦車だが怖ろしいほど威力の高い砲を備えている事が解っている。
しかもその砲はオートローダー機能をも備えていると言うのだ」
「オートローダー?つまり連発式って事ですか?」
驚いたミハルが訊き返す。
「らしいのだが・・・
何発まで連続射撃出来るのか、また、再装填時間が何秒なのかは全く解っていないのだよ」
答えたドートルが腕を組んで2人を見る。
「かなり手強そうですね。
それで車速が速かったら、一方的に撃たれてしまいますね。一対一では・・・」
ミハルが素早い敵が相手だと、先程の闘いの二の舞になりそうな気がして憂鬱な気分となった。
「ミハルの言う通り、未だ未知に近い敵を相手に一対一で闘うのはかなりまずいわね」
リーンが手を顎に添えて考える。
「うむ、そこでだ。暗黒魔鋼騎が狙うマーガネット達に特別任務を任せたい」
「特別任務?」
ドートルが聞き返すリーンに向って命じた。
「そう、ユーリ皇女の命令通り暗黒魔鋼騎を退治する事だ。特別編成の部隊を率いてな!」
MMT-6一両だけではなく一つの任務部隊を編成して敵魔鋼騎を倒す事を。
ドートルの命令に少なからず感謝の面持ちで、その師団長を見た。
ドートルは特別編成の部隊を闇黒魔鋼騎打倒の為組織する。
その心使いに感謝しながらもリーンはユーリの事を気に掛けていた。
次回 迷いと悩み
君は思い悩む・・・心を知る人の事を考えて・・・