魔鋼騎戦記フェアリア第3章双璧の魔女Ep1闇の魔鋼騎 Act11事故?それとも・・・
訓練で魔鋼弾を発射した時、それは発生した。
対角30度にKV-1の斜め正面装甲が入った。
「ラミルさん停止してください」
マイクロフォンを押して停車を命じたミハルが射撃準備にかかる。
「目標に対して30度の射線で撃ちます。魔鋼弾装填!」
ミリアに魔鋼弾を込めるように命じた。
素早く魔鋼弾を込めたミリアが魔鋼機械を作動させる為に、砲尾のボタンを叩き込む。
((ギュインッ))
「魔鋼機械、発動っ!」
ミリアが赤いボタンを叩き込みキューポラのリーンに復唱する。
「了解。それでは魔鋼弾の威力を確認しましょう。
まずはミハルの力だけで撃ってみて。その次に私も加わって全力射撃で撃ってみましょう!」
リーンが砲手のミハルの魔鋼力を優先して射撃命令を下した。
「はい。第1射は私の魔法力で射撃します。
砲撃始め、魔鋼弾、距離2000。直接照準で対角30度。射撃します!」
ミハルは復唱すると右手の宝珠に力の解放を求める。
ミハルの求めに応じた宝珠が碧く輝き、瞬く間に瞳と髪が碧く染まる。
全力ではない事は魔法衣が現れない事からも判る。
((ブオオオン ギュリリッ))
車内をミハルの魔鋼力が染めてゆく。
だが、いつもと何処かが違っていた。
ー あれ?何だかいつもと違う音がした様な?
一瞬の事だったので確かめ様が無かったが、砲尾から異音が聞こえた気がした。
ー ん?気のせいかな。別に異常はないみたいだけど?
照準器で標的を捉えてトリガーに指を掛けて射撃する瞬間。
<待て、継承者!撃つなっ!>
「えっ!?」
一瞬遅く、ミハルの指がトリガーを引いてしまった。
((グオオオンッ ガギャッ))
射撃音と共に、砲尾から異音が!
((バアアァーンッ))
猛烈な熱風と、空の薬莢が砲尾から尾栓を突き破って流れ出た。
「きゃあっ!」
ミリアの絶叫が車内に響き渡った。
「ミ、ミリアっ!」
リーンの叫びがミリアを襲った事態を物語る。
砲塔内に篭もった硝煙が渦巻く中、ミハルは砲手席から飛び退き砲尾を潜って装填手側へと潜り込む。
そこには腰を落としたミリアが半ば意識を失って呆然と座り込んでいた。
「ミリアっしっかりっ!しっかりしなさいっ!」
ミハルの叫びに気を取り直したミリアが。
「あっ、ミハルセンパイ・・・何が?どうして?」
炎と煙を被ったミリアの身体を見回す。
「大丈夫?ミリア。どこか怪我をしたの?」
ミハルがミリアの身体に怪我かないか探して訊く。
「え?あ・・・いえ。大丈夫だと思います。唯、衝撃で尻餅を付いただけですから」
自分でも痛む所を探していたミリアが起き上がって確認しながら答えた。
そして尾栓を見て気付いた。
「先輩、あれをっ!」
ミリアが指差す先にある尾栓が・・・
「あっああっ。尾栓が完全に潰れちゃってる。
どうして?徹甲弾の時は異常が無かったのに・・・」
魔鋼弾発射の衝撃に耐えられなかったのか、
砲尾に備えてある尾栓部分が空薬莢に破られて、グニャリと折れ曲がっていた。
「どうして?何があったの?」
ミハルが信じられない物を見る様な顔で砲尾を見詰めていると。
「ミハル、訓練を中止して帰るわよ。直ちに合戦準備用具納め。とっちめてやる!」
怒り顔のリーンが基地へ戻る様に命じる。
「ラミル、急いで戻るわよ。ミリアは休んでいて宜しい。換気ファンは廻して置いてね!」
大分硝煙は薄らいだが、それでもまだ車内は火薬の匂いが漂っていた。
ー やっぱりザルバ君が手にしていた物が原因なのかな。
でも、何故こんな事をするんだろう?
ミハルはミリアを装填手席へ座らせながら昨晩見たザルバの事を思い起こして考えた。
「ミハル、何か気付かなかった?
私は発射の寸前でリインさんが止める様に言ってくれたんだけど・・・」
リーンがキューポラから降りてきてミハルに直接訊いた。
「うん。私も・・・寸前でミコトさんが言ってくれたけど止めれなかった。ごめんなさい」
ミリアを座らせて、ミハルがリーンに向き直り謝った。
「そっか。ミコトさんも気付いてたんだ。
で、ミハルは気付かなかったんだね異常があるのを?」
射撃の寸前でした異音に気付いていたミハルだったが。
「ううん。魔鋼機械が発動した時にちょっと異音がした気がした・・・
けど自分の勘違いかと思ってしまった。
今回の件は私が悪かった、もっとちゃんと確認するべきでした、すみません・・・」
リーンに頭を下げて謝るミハルに、
「ミハル・・・あなた、誰かを庇おうとしていない?
誰かが何かを行ったのを知っていない?」
リーンがミハルの表情を見て問い掛ける。
「えっ?私は・・・誰も庇うなんて!」
リーンの問いに戸惑うミハルが驚いた様な顔を向ける。
「・・・そう。判ったわ」
驚いた表情のミハルを見てリーンが一言だけ答えた。
「戻ったらマクドナードにこの事故の件を調べさせるから。それで善いよねミハル?」
顔を背けて言ったリーンを見たミハルの心が痛む。
ー リーン・・・怒っているんだね。私の事を疑っているんだね?
悲しい気持ちになったミハルがリーンの横顔を見て落ち込んでしまった。
「・・・はい」
一言返事を返して黙り込んでしまう。
無線手席から眺めていたキャミーは、心配そうに顔を背けあう2人を見詰めていた。
ミハルはリーンの顔色を伺った。
その顔は不信感に溢れ、ミハルから背けていた。
そんなリーンにミハルは自分の想いを打ち明けられなかった。
次回 制裁
君は悲しむ。心にも無い鉄拳を揮わせて・・・