魔鋼騎戦記フェアリア第1章魔鋼騎士Ep3Act10訓練!あの戦車を撃て!
リーン少尉は誰をも信じられなくなってきていた。
その寂しい心をバスクッチが慰める。
ミハルは魔力を使った後遺症で身体が重く、ミリアと共にお風呂で体を休め様とするが、其処には先客が居た。
「そう、彼女の力はそれ程の物だったの?」
リーン少尉は、曹長に向かって尋ねる。
「はい、姫様。
私の想像を遥かに超えた力でした。
姫様より強大な魔法力を持っているものと思われます」
曹長の返事に対して、
「そう。私よりも強力なの。それは頼もしいわね。で、彼女は?」
「はあ、まだ力の制御が出来ない様でして。
今は落ち着きを取り戻しましたが・・・
どうやら初陣でよっぽど心に傷を背負う事が有った様なのですが」
「そうでしょうね。たった一人だけ生き残ったのだから。
精神に異常をきたしても不思議じゃないわ。
でも、それでも彼女に能力があることが解った今、
あなたは私の砲手として、彼女の能力が必要だと?」
「その通りです、姫様。この後の皇国の為に必要不可欠だと思われます」
曹長は、リーン少尉に断言した。
「・・・それはお父様も願われた事なの?
貴男を教官として私に付けてくださった、皇王様の命令なの?」
リーン少尉は兵学校に入学したのと同時に教官として派遣されたバスクッチ曹長に真意を質す。
「いえ、私はユーリ姉姫様の命に従ったまでの事です。
姉姫様が私をリーン姫の教官として命じられたのです。
それ以上の事は私には解りません」
「そう・・・そしてユーリ姉様は貴男を私から遠ざけようとしている。
何故そんな事をするのかしら。
訳を聞いても、借地情誼な返事しか返って来なかった。
私の知らない所で何が起きようとしているのか。
それが知りたいの。
バスクッチ、お願い。
もし、何か起きているなら、起き様としているなら教えて欲しいの。
今じゃなくてもいいから。
第1師団に行ってからでもいいから・・・貴方しかいないの。
情報を教えてもらえるのは・・・」
ー リーン姫、お可哀想に。
上の皇女にうとまれ、蔑まれてお育ちになり、
味方であるユーリ姉姫でさえ、疑われてしまっている。
今次戦争の発端の一つでもある継承争いに巻き込まれ、
味方でさえ信じられなくなってしまわれた。
そんな姫様を一人にするのは心苦しいが・・・
「解っております、リーン姫様。
このバスクッチ・ウォーリアが、必ず情報をお送り致します。
今しばらくのご辛抱を」
恭しく返事する曹長に。
「頼みます、バスクッチ。
私は寂しいの。
私の居場所は何処にあるのでしょう?」
涙目になって俯くリーン少尉を励ます様に、
「リーン姫様は、この陸戦騎独立第97小隊の小隊長なのです。
ここがリーン少尉の居場所。
貴女には車長として4名の部下が、
整備班長以下11名。
併せて15名もの大切な部下が居るじゃないですか。
その者達を只の一人として犬死させない様に務めるのが、今の貴女の責務。
リーン少尉の居場所なのです」
曹長の言葉は、リーン少尉の心を打った。
「私の居場所はここ・・・」
「そうです、姫様。いえ、リーン少尉。
貴女の目的は只一つ、強くなって生きる事です。
生き抜きさえしていれば、いずれ本当の目指す場所が見えて来る筈です」
「目指す所・・・?」
リーン少尉は曹長の言葉を反芻する。
「ありがとう、教官。
私は絶対強くなる。強くなって目指す所を見つけるから」
「はい。私も強くなられた姫様を見てみたいと思います」
リーン少尉はバスクッチ曹長に握手を求めた。
その求めに曹長は喜んで応じたのだった。
「あーあっ、気持ち悪ぅ~っ」
ミハルはベットから起き上がって呟いた。
「あー、先輩。起きて大丈夫ですか?」
ミリアが心配して訊いて来る。
「うーっ、体中の力が抜けたみたいで、ふわふわするの・・・」
ミハルがミリアに言いながら立ち上がろうとすると、
「あ、あれ?」
足に力が入らずよろけると、すかさずミリアが抱かかえる。
「ミハル先輩、危ないですよ。まだ寝ておいた方が?」
心配そうに注意してくれた。
「う、うん。ごめんね。まだ歩けないみたい・・・」
ベットに腰をかけて座ると、
「あんな力があったなんて、やっぱり先輩は凄いですよ。
私、やっぱり先輩に憧れちゃいます!」
「あ、あの、ミリア。私だって知らなかったんだ。あんな力があるなんて・・・」
「解ってますって。初めてだったんですね、力を使うの。
隊で2人も能力者が居て、一車に乗るなんて。
そんな事は初めてじゃないでしょうか。
だって魔法力のある人間は一万人に一人って話ですし。
その万分の一が2人も乗る陸戦騎なんて他にないですよ!」
「あはは。まあ、そうだね多分・・・」
ミハルはミリアに笑って答えるしかなかった。
小隊長のリーン少尉が能力者であり、
この隊の車両も陸戦騎であり魔鋼騎であったから。
魔法力が備わったミハルも力を使えたのであり、
たとえ魔力がある者が普通の戦車に乗っても力を使う事は出来ない。
「これで先輩も、魔鋼騎士の一員ですね。
階級も一足飛びに上がっていくんじゃないですか?」
「えっ?そうなの?」
「・・・先輩、何も知らないんですね。
この際だから言って置きます。
大体なんで我国は女子を軍人に組み入れたのか、
それは先輩みたいな能力者を発掘する為にです。
訓練期間中に発見された者は特殊教程を経て、
下士官、若しくは任官して下級指揮官となり、陸戦騎乗りとなります。
そう、リーン少尉が当てはまります。
能力者は殆ど総て女子なので、我国は女子の軍人採用を始めたのが4年前の事。
そして1年前に戦争が始まってからは、訓練期間以外で能力を認められた者は、
進級が他の者より半年 間短くなる様にしたのです。
早く下級指揮官となる為です」
ミリアがミハルに教える。
「あ、あの、ミリアさん。一体誰に教えているの?」
ミハルは汗を垂らして訊く。
「いえ。ミハル先輩に初歩の初歩を教えて差し上げたのです」
「あはっあははっ。ありがと・・・」
ミリアに頭を下げて礼を言ったミハルに、大きな汗が乗っかっていた・・・
「お前ら、何をコメディーしてるんだ?」
ラミルがタオルを首に掛けて現れて、
「ミハル、気分が治ったのなら、
風呂へ行ったらどうだ?さっぱりして気持ちいいぞ?」
「あ、ラミルさんは、もう入られたのですか?」
ミリアが訊くと、
「ああ。整備班のヤツラが、さっさと入りやがってな。
今なら誰も居ないと思うぜ。行って来いよ」
「そうですか!誰も居ないなら、先輩行きましょう!」
手を引っ張り、ミリアがミハルを誘う。
「おーっ、行って来いよ、2人で。
砲手と装填手は息を合わせるのが肝心だ。
裸の付き合いも必要だろうしな!」
ラミルはタオルで髪を拭きながら、ミハルに勧める。
「そう・・・ですね。じゃあ行ってきます」
ミハルも重い腰を上げてタオルを片手にミリアと同道する。
風呂場は古城の中にある昔の風呂場を再利用して整備班が使える様にした物で、
さすが城であっただけにやたらと大きかった。
ルンルン気分のミリアと共に脱衣場に来ると、脱いだ服が二つ目に入る。
「あれ?先客有りか。整備班の人かな?」
「ええーっ、そんなぁ。折角先輩と二人だけだと思ったのに・・・」
ミリアの脱力は凄かった。
ー 何を期待してたんだ・・・この娘は・・・
ミハルはジト目でミリアを見た。
「先客が居るのはしょうがないでしょ。さっさと入りましょう!」
ミリアを促して風呂場へ入ると、
「あれ?誰も居ない?おかしいなあ・・・」
ミリアが辺りを見回すが、浴室の中には誰も見当たらなかった。
ミハルも、
「変ね。確かに2人分の服が有ったのに」
「先輩っ!誰も居ないなら居ないでいいじゃないですか。
それなら羽根伸ばせちゃえますからね!」
そう言ってミリアはお湯の中へ飛び込んだ。
「あーあ、ミリア。それはどうかと思うわ」
ミハルは、はしゃぐミリアと距離を置いてゆっくり浸かる。
「ふぅ、やっぱりお風呂って気が休まるわねぇ」
年寄り臭いセリフを言うミハルにミリアが近付いて
「先輩。年寄り臭いですよぉそのセリフ。でも、綺麗な肌してますね」
ミリアが不意に背中に指を当てる。
「ひゃあっ!ビックリするじゃないミリアっ!」
驚くミハルに、ミリアは熱い視線を注いで、
「だって、ミハル先輩の肌、白くて綺麗で・・・
肌理も細かくて・・・やっぱり東洋人の肌って綺麗ですね」
ミリアはミハルの背中をつんつん突いて褒める。
「あ、ありがとって、つんつん突くな!」
赤くなってミリアに怒るミハルに、
「それに、いいなぁ。一つ年上ってだけでこんなに大きいなんて」
「は?ミリア、何の事を言って・・・っ!!」
ミリアに向き直ると指で胸を押される。
「ひっきっいっ!!!!」
ミハルはビックリして飛び退る。
「何の事って、そりゃあ、胸の大きさですよ」
ミリアはさも当たり前の様に、自分の胸を見て言った。
「あ、あああ、あのね、ミリア。突然何を言い出すやら(汗)」
ミリアは真剣に訊いて来る。
「どうしたらそんな立派な胸になれるんですか?もしかして誰かに揉んで貰っていたとか?」
「あ、あああ、あの、ミリアさん?」
気が動転してどもるミハルに、ミリアが突然人差し指を口の前に出してミハルを制する。
「誰なの?」
ミハルが小声で訊くとミリアが早速行動に出る。
「装填手、偵察に行きます!」
ミリアがミハルにそう宣言してそっと声のする方へ、風呂場の影の方へ行って様子を伺っている。
「ミリア?誰か居るの?」
なかなかミリアが戻って来ないのでミハルの方が近付くと、ミリアは真剣に何かを覗いている。
「どうしたの?誰か居るの?ミストルームの方に」
ミハルはミリアがずっと固まったように覗いているミストルームに視線を凝らすと、
「!わっ!!」
思わず小声でびっくり声を上げてしまった。
「キャミーさん、気持ち良さそう・・・」
ミリアが赤い顔をしてミストルームを覗いて呟く。
ー うわわっ、曹長とキャミーが・・・
ミストで良く見えないけど・・・
シテ・・るんだよね。あれって・・・(大汗)
ミハルも顔を真っ赤にして目が離せなくなる。
ー 待て。落ち着け。
おお間抜けだよね・・・
女子が裸で覗きをしてるって・・・
ミハルの冷静な部分が考えて辞めておけって言っているが、刺激が強すぎて身体が固まってしまう。
「ミ、ミリア。もう離れようよ」
「ミ、ミハル先輩こそ、離れて下さいよぉ」
2人はそう言いつつも目が離せず尚も固まっていると、
キャミーの喘ぎ声と共に、2人の会話が聞こえてきた。
「ウォーリア、離れたくないよ。
あたしも転属したい。ウォーリアと一緒に居たいよ」
「オレも居たい。でも、オレ達は軍人だ。
国を守る為に闘っているんだ。命令には従わなけりゃならないんだ。解るな・・・」
「うん、解ってる。解ってるけど、恐いんだ、ウォーリアと離れてしまうのが。
心が繋がっているのは解るけど、どうしても恐いの!」
「ああ、オレも怖いさ。この先どうなってしまうのか。この国の未来も、オレ自身も・・・」
ー 曹長だって恐れているの?
どんなときも冷静な判断を下していた、あの曹長でも?
ミハルは我に返ってはっとする。
そして曹長の声で自分の中に居る弱い心を感じ取る。
「キャミー、オレだって怖いさ。
でも、その恐さは大切な人を失ってしまわないかと言う恐さなんだ。
オレは怖い、キャミーを失ってしまわないかと言う想いが恐い」
ー 曹長の言う通りだ。私も恐い。恐かった。
仲間が、戦友が次々に死んでいくのを見た私が一番恐れるのは。
自分が死ぬ事より大切な人が失われてしまう事。
そうか、そうなんだ。
本当の恐怖は大切な人が失われてしまう事だったんだ!
ミハルは曹長の言葉を、自分の重いと重ね合わせて胸に刻み込む。
ー もう、能力を使っても幻想に負けない。
目の前にある強敵より強いものを知ったから。
ありがとう曹長。またあなたに教わりました・・・
ミハルは感謝を心で伝えた。
「先輩、もう行かないと。バレてしまいますって!」
小声で耳元で言われて、我に返る。
「そ、そうだね。体も冷えちゃったから、湯船に入り直そうか」
「そ、そうですね。でも、ミハル先輩。その前に、私達も、その・・・」
上気した赤い顔で、ミリアがミハルに迫る・・が。
「私はそっちの気は有りません!」
と、一刀両断で突き放す。
「えーっ。そんなぁ。先輩だって、発情してたじゃないですかぁ!」
ミリアはあんまりだと言わんばかりに抱きついてくる。
「馬鹿者!」
ミハルはミリアに拳骨を喰わせた。
「おーっ、ゆっくりだったじゃないか?」
ラミルがミハルとミリアに声を掛ける。
「まあ、たまには長湯もいいかと」
ミハルがすっきりした顔で答えるのと対照的に、
「すっきりするどころか、悶々に・・なりました」
「はあ?なんだそれ」
ミリアの変な答えにラミルが聞き返す。
「何かあったのか、2人供?」
「いっ、いえぇぇ、べっべつにぃーっ」
ミハルが言い出しそうなミリアの口を塞いでいると、
キャミーが入って来た。
「おっ、キャミー。
お前顔が真っ赤だし、目も充血しているぞ。何かあったのか?」
キャミーはラミルの問いに答えず、大事そうに手を下腹部に当てて、自分のベットに座る。
「?何だ、変な奴だな」
ラミルがキャミーに視線をすえながら、
「おいっ、ミリア。銀蠅に行くぞ、付いて来い」
「えーっ、またですか?ラミルさん、待って下さい!」
ラミルはミリアを連れ出して、食堂へと向った。
後に残ったミハルはキャミーに、
「曹長は何て言って下さったのですか?」
そっと近付いて声を掛けるミハルに、
「なあ、ミハル。あたしは喜んでいいのか、悲しんでいいのか。どっちなんだろ?」
大事そうに下腹部を押えていた両手をゆっくり開いて、
左手の指に填めた指輪を見せて、ミハルに訊いた。
「あ、あの、それって婚約指輪ってやつですか?
曹長に頂いたんですね。おめでとうございます」
ミハルは慌ててキャミーに祝辞を述べる。
「あははっ、ありがとう。でもな、素直に喜べないんだ。
だって、明後日の朝にはウォーリアは行ってしまうんだから。
別れ別れになってしまうんだから。
だから・・・あたし・・・あたし・・・!」
キャミーが突然泣き出して、ミハルにすがり付いてくる。
「キャミーさん。私がこんな事を言うのはおかしいと思うのですが。
キャミーさんは幸せなのですよ。
私の戦友だった人達の中には、告白すら出来ず死んでいった友も沢山居たんですから。
その人達と比べたらキャミーさんは絶対幸せだと思うんです。
すみません、私がこんなこと言うのは変だと解っているのですけど」
キャミーはミハルに言われた「「絶対幸せ」」の意味を良く判っていた。
「ありがとうミハル。やっぱ、お前っていい奴だな」
笑顔に戻ってミハルから離れて、お礼を言うキャミーに、
「いえいえ。私はいい奴ではないですよ。
だって、キャミーさんが下腹部を大事そうに押えていた理由を知っていますしね」
ミハルがウィンクしてキャミーに言うと。
「えっ?えっ?何で?何でミハルが?」
うろたえるキャミーに、
「キャミーさんの声って、あんなに艶っぽいんですね。びっくりしましたよ」
ミハルはうんうんと、頷きながら言う。
「ひええっ!どっどうしてこうなったぁーっ!」
キャミーの目はぐるぐる廻って裏返ってしまった。
今回は、お約束のHハプニングです。
話の中でミリアさんが説明してくれてます様に、この世界で魔法力が戦争に、そして少女達に過酷な運命を背負わせた背景が匂わせられています。
今話は、ホンわかして貰えましたでしょうか?
次回は最終訓練に突入します。曹長との、模擬戦が始まります。
乞うご期待。
次回Act11
君は生き残る事が出来るか