魔鋼騎戦記フェアリア第3章双璧の魔女Ep1闇の魔鋼騎Act6罰直中・・ですぅ
ミハルは誤射の責任を取らされて・・・いた。
モップで掃きハキ。
お掃除、セッセ、セッセ・・・・
本当に主人公?
搭乗員室で・・・
「ん・・で?班長。この有様ですか?」
ミリアは腕を組んでミハルを見詰める。
「うっ、うええーん。ミリアまで馬鹿にするぅ」
恥ずかしさと情けなさで、ミハルは涙目になる。
「身から出た錆さ。大体ボーッとし過ぎだったんだからな。そうだろミハル?」
ラミルもモップで床を掃くミハルに言った。
「うう、ラミルさんまで・・・」
間違って実弾を射撃してしまったミハルは、罰として基地内の掃除をさせられていた。
「でも、これ位の罰で済まして貰えて良かったですね。普通なら降格か軍法会議ものですからね」
ミリアが意地悪くミハルに言って、
「ちゃんと反省する意味でも、その襷は着けておいて貰いますから」
ミハルの姿を見てニヒヒと笑った。
モップを動かしながらミハルは顔を真っ赤にして恥ずかしがる。
「まあな、その襷がなければ単に班長が率先して掃除しているみたいに見えるからな。
罰なんだし、当然だよ」
ラミルもミハルがかけている<罰直中>襷をみて笑い掛けた。
「うう、2人供。酷いよぉ」
涙目のミハルが2人に愚痴る。
「ほれほれ、愚痴ている暇があったら手を動かす!」
ミリアが面白がって茶化していると・・・
「こらっミリア!班長一人が責任を被ってくれているのに、何だその態度は!」
突然後ろから声を掛けられて3人がその方を向くと、モップを持ったキャミーが立っていた。
「あっ、キャミーさん?!」
ミリアとラミルが驚いてみていると、キャミーはさっさと掃除に掛かり始める。
「何を呆っとしているんだ。
搭乗員は連帯責任を取るのが普通だろ。ミハル一人が責任を取らされていてなんとも思わないのか?」
手を動かし続けるキャミーが言って、
「それに砲に装填してあったのが訓練弾じゃないと解らなかったミリアが、
本当は一番責任があるんじゃないのか。反省するのはお前が最初だろう?」
キャミーが優しい口調でミリアを咎める。
「は、はい。そうでした。すみません、私も掃除を手伝います!」
ミリアは慌ててバケツに水を汲みに走る。
「そうなると私も責任あるよな。不用意に方向転換したんだから」
ラミルも近くにあった雑巾でテーブルを拭き出した。
「そう、あたし達は何時如何なる時も行動を共にしないとな。なっミハル!」
優しい瞳をミハルに向けたキャミーが微笑んだ。
その微笑にドキっとしたミハルが思った。
ー 隊に戻って来たキャミーさんは、前とは全然違う大人な人になって帰って来た。
一体バスクッチ大尉の故郷で何があったんだろう。
まるでお姉さんになったみたいに優しくて、面倒見が良くて。
不思議だなあ、別人みたいに思える・・・
「んっどうしたミハル。早く終らせようぜ!」
つい見とれてしまっていたミハルに微笑を絶やさずキャミーが言ってくる。
「あ、ごめんなさい。そうだね早く終らせよう」
我に返ったミハルもモップを手早く動かし出す。
「でも、実際どうしたんだよミハル。
お前らしくない失敗だったじゃないか。訳を話してみろよ」
手を止めずにキャミーが訊いてくる。
「あ、うん・・・」
その訳を話す事が出来ずにミハルは言いよどむ。
「ミハル、言いにくい理由があるんだな。
肉親の事で頭が一杯になっていたのか?
そうだとしたら車両に乗り込んだ時だけは忘れろ、いいな?」
言葉の端々がミハルを想ってか、柔らかい。
以前のキャミーなら遠慮無く強い口調だけで言って来たであろう言葉に、
今は相手の心を想い測る優しさがあった。
「う、うん。ありがとうキャミー」
そう答えてミハルはキャミーの指に填められている指輪を見た。
帰って来たキャミーの指にはバスクッチの母から贈られたという指輪が光っていた。
ー 隊に帰ってから、怒った所を見た事が無い。
以前なら馬鹿な話をして言い合いになったかもしれない事も、
笑って受け流してしまうし・・・落ち着いたと言えばそれまでなんだろうけど。
大人になったんだな、キャミーさんはきっと・・・
無駄口を利かずせっせと掃除をこなしている姿がなんだか別人の様で、
ミハルは軽い戸惑いを感じつつ見詰めていた。
「なあ、ミハル。
あの整備班の新兵ってお前の弟とそっくりだって言っていたな。
そんなに似ていたとしたら気になるよな?」
不意にキャミーに声を掛けられたミハルが驚き戸惑う。
「あ・・・うん」
否定出来ずに曖昧な返事を返してしまう
。
「だとしたら、あのザルバって子を遠ざけた方がいいと思うぞ。せめて訓練中だけでも」
「えっ?どうして?」
キャミーの忠告に訳を聴きたくて訊き返すと。
「今回の事でも解る通り注意が散漫に成る様なら、
次は誰かを傷付けてしまう大事になる可能性がある。これはミハルだけじゃない。
あたし達全員にも言える事なんだけどな」
ちょっと苦笑いを浮かべたキャミーがミハルを見て教えた。
「注意一秒怪我一生ってな。
ほんの僅かな気の緩みが大事を招く・・・そんな世界に生きているんだ。判るよなミハル?」
優しく諭す様な瞳でキャミーが見詰めた。
その瞳にドキッとしたミハルが頷き、
「うん、キャミーさんの言う通りだね。
判った、これからはザルバ君の事を、弟の事を考えない様にする。せめて訓練中の時は」
そう答えたミハルに頷いたキャミ―が。
「ああ、そう思ってくれたんなら大丈夫だな、ミハル。
辛いだろうけど我慢してくれ。
それ以外の時ならぶつけてくれていいんだぞ、あたしに。
その想いを少しでも和らげる事が出来るのなら・・・な」
本当に優しい瞳で言ってくれるキャミーに戸惑いを隠せないミハルが。
「キャミーさん・・・。どうしてそんなに優しくなったの?」
ついミハルは思っていた事を訊いてしまった。
「ん?そうかな?あたし変な事を言ったか?」
ちょっと小首を傾げてキャミーが訊き返した。
「だって・・・こっちに帰って来てからキャミーさんが変ったみたいに優しいんだもん」
ミハルに言われたキャミーがふっと息を吐いて、自分の指に填めたリングを見詰めた。
「ミハル。あたしね、ウォーリアと一つになれたんだ本当に。お母様も認めてくれたんだ、結婚を」
指を見詰めたままキャミーが呟く。
「あたしって天涯孤独だったのに家族が出来たんだよ。
あたしにもお母さんが出来たんだ。それって本当に嬉しい事なんだなって思えて・・・さ」
指輪を見てキャミーが微笑む。
それは孤独の中で初めて知った人の温かさ。
温もりに気付いたキャミーの、心からの幸せを現した微笑だった。
その事に気付いたミハルは、瞳を大きく見開き声を詰まらせる。
「キャミー・・・さん」
「あははっ、なんだよミハル。そんなにおかしいか?あたしがこんな事を言うのが」
優しい微笑のまま言われて。
「ううん。キャミーさんの心が判った。
バスクッチ大尉は今、その心の中に生きているのが判ったから」
瞳に涙を湛えてキャミーに抱き付いた。
「ははは、ミハル。
ウォーリアはあたしだけの心に生きているんじゃないよ。
お母様の中にも、ミハルの中にだって生きているんだよ?」
抱き付いたミハルの肩をそっと掴んでキャミーが教えた。
「え?・・・うん」
まるで天使の様な言葉を吐くキャミーに更に驚くミハル。
「あたし・・ね。お母様に逢って、生まれ変わった気がするんだ。
真っ黒な世界の中で苦しんでいた。
どうしてあたし一人がこんな辛い目に会うんだって呪っていた・・・
でもお母様と逢って話をしたら本当は幸せなんだって想える様になった。
ウォーリアに愛された事がどんなに幸せだったのかを知ったんだ。
そうしたら途端に心が晴れていった。
目の前が急に明るくなった気がしたんだよ。
不思議だよな、辛い気持ちや苦しい想いが全部消えて、温かい光の中に居る自分に気付いたんだ」
一気に今の自分がどうして優しい瞳となった訳を話すキャミー。
そして、そんなキャミーの言葉を只頷いて聞いているミハルに、
「ミハル。お前も苦しくなったら思い出してごらん。
今の苦しさ辛さを消去ってくれる想いを。
その温かい思い出を。そうすればその人達がきっと助けてくれるから。
私がパラムやウォーリアに助けて貰った様に」
そっと優しく耳元でそう呟くキャミーがミハルの肩をぎゅっと強く抱きしめた。
ー ああ・・・そうだった。
私には一杯懐かしい人達が付いてくれている。
ターム・・・アルミーア、みんな・・・みんな。
私は皆から護られて生き残れてきた。そしてこれからも、きっと・・・きっと
涙を溢れさせて、キャミーを強く抱く。
「うん・・・ありがとうキャミー」
2人は温かい想いを心に秘めて抱き合った。
「あーっ、2人で浮気してるぅ。はいはい、抱き合うのは掃除が済んでからですよ!」
ミリアがバケツを持って二人に大声を放つ。
その大声に我に返ったキャミーとミハルが。
「違う!」
浮気を否定した。
・・・・・・そうか?
キャミーがその優しさの訳を教えた。
瞳に湛えた涙と共に・・・
一方、茶化したミリアに天罰が。その誤射の真犯人は・・・
次回 仕組んだ者は?
君はその事実を知る事になる