魔鋼騎戦記フェアリア 第3章双璧の魔女Ep1闇の魔鋼騎Act1プロローグ前編
雪が舞い散る・・・
これから始まる闘いを暗示するが如く、空は暗く雲に覆われていた。
戦争が本格化してから、もう一年以上が経過していたのです。
遠く東の果ての国から移住してきた一人の少女が辿った、戦闘の記憶を描いた物語。
その少女の中には、魔法の力とその運命を継承する古来の聖巫女の魂が存在していました。
まるで何者かによって導かれたかのように。
少女の身体に秘められた力が呼びこんだかのように・・・
そしてその少女は、愛する者と共に闘い続けるのです。
運命を共有する大切な仲間と共に。
運命に抗い、たった一つの願いの為に。
そう、その願いは誰しもが思う事・・・
唯、生き続けていたい・・・その願いの為に。
さあ!語りましょうか。
一人の少女が辿った数奇な運命を・・・その物語を・・・
雪がハラハラと舞い落ちてくる。
暗い空から・・・次々と・・・
それはあたかもこれから起きる闘いを暗示しているかのように・・・
「ユーリ皇女。御覧ください、こちらが我がフェアリアの精鋭車両であります」
技術本部長が先立って歩く後ろから、側近と共にユーリが眼を向けて見ていた。
「敵重戦車に対抗する為に、現在全力を挙げて製造している我が軍の誇る重戦車6号。
それに一撃で如何なる魔鋼騎でも倒せる127ミリ砲を搭載した駆逐戦車<エレフェアント>。
これらが続々と前線に送り込まれる様になります。」
そうすれば今迄以上に我が方が有利となりましょう!」
技術本部長が自慢する様に説明するのを聞き、
「しかし、本部長。
我々が開発するのと同様に、敵にも新型車両が出現してくるのではないのか?」
ユーリが普通に質問する。
「それは承知しております。
敵の新型が出て来るのを待っているのではなく、次から次へと新型を造ればいいのです!」
技術本部長の言葉にため息を吐いて、
「それでは現場の混乱を招くだけですよ。
戦争は早く強力な兵器を如何に大量に戦場へ送り込めるかが、鍵なのですから。
数が力を言う世界なのです。
それに伴う人が必要なのですから・・・
その兵器が如何に優秀だとしても、
使いこなせる人が作れなければ只の鉄の箱になってしまうのですよ?」
ユーリが人的資源こそが、最も重要だと注意する。
「は、はあ?」
技術本部長も箱は出来ても乗りこなせる人的資源については、考えが及ばないらしい。
「もう判りました。技術部は最善と思われる車両を絞り込んで大量生産へ移行してください」
ユーリは先を思ってため息を吐く。
「姫。それでは戻りましょう」
側近の参謀中佐に勧められて技術部から外へと向う。
「ええ、マハン中佐」
外へ一歩出た時、ユーリの瞳に暗く重たい雲が眼に映った。
白い雪が黒い雲から降り続けている。
その空を見上げてユーリが想った。
ー 早くこんな戦争を終わらせなければ。
このフェアリアも、この雪と同じ様に舞い散ってしまう。
もう闘い続ける国力は尽きようとしているのだから・・・
空を見上げるユーリに、雪が舞い落ちていた・・・
______________
雪が激しく降り、風がその雪を舞い散らす。
その中で一軒の家からロッソア兵が少女を連れ出てくる。
「お母さん!」
少女が家に向って叫ぶ。
「ロマリア!
待って、その子はまだ14歳なのです。兵役で連れて行かれる歳ではない筈です!」
家の中から母親が兵達を呼び止める。
「五月蝿いっ!何歳だろうが構わねえと命じられているんだ。
検査が通りさえすればこの娘も戦車兵になるんだからな!」
ロッソア兵が、母親に怒鳴りつける。
外で待っていた数名のロッソア兵に娘を渡して、
「文句があるなら皇帝陛下に言うがいい!」
母親に向って捨て台詞を言った。
「待って!ロマリアを返してっ!」
それでも母親がその兵士に取りすがると。
((バキッ))
兵士は銃で母親を殴った。
「きゃあっ!お母さんっ!!」
兵士に連れられたロマリアが泣き叫ぶ。
「煩い小娘だ。大人しくしてねえと、検査場へ行く前にオレ達が検査してやる事になるぜ?」
下衆な笑いを浮かべて一人の兵士がロマリアの腕を引く。
「ひいっ、助けて。お母さん!お母さんっ!」
ロマリアが銃で殴られ倒れた母親に向って泣き叫ぶ。
「五月蝿いっ、さっさと来るんだ。さもないと母親もろとも殺してやることになるぞ!」
ロマリアの前で小銃を母親に向けた兵士が怒鳴る。
「ああ・・・ロマリア・・・」
母親が手を伸ばして娘を求める。
「神よ、ロマリアを助けたまえ・・・」
母親が涙を零して救いを求めて天を仰ぐ。
兵士達がロマリアを連れてトラックの所へ向うと、
その荷台には既に数名の少女が怯え泣きながら乗せられていた。
「さあ、お前も乗るんだ。さっさとしろ!」
ロッソア兵がロマリアに荷台へ乗るよう命じた。
ここロッソア帝国辺境の衛星国では、魔鋼騎乗りの少女狩りが行われていた。
一万人に一人といわれる魔法力を持った少女。
それを探し出し、僅かな訓練を施した後、次々と戦線へと送り込んでいた。
帝国への反感は、地下組織をもって遂に武力衝突にまで発展する事態にまでなっていた。
「そのトラックに乗る必要はない。家に帰るんだ!」
ロマリアが無理やり乗せられようとしていると、何者かがロッソア兵を止めた。
「なっ!?誰だっ?」
ロッソア兵が声を掛けて来た者を探す。
「ロッソア皇帝の犬達よ。死にたくなければ娘達を置いてさっさと帰れ。さもないと皆死ぬ事になるぞ!」
恫喝する声が、また違った方向でする。
「なっ?何だと?何者だっ!?」
ロッソア兵達が手に銃を取って身構えると、トラックを囲んで男達が現れた。
「なっ!お、お前達は?」
トラックの周りを囲んで数十人の男達が現れる。
「ウラルの赤い風。
我々は帝国に反旗を翻し者。さあ、帝国の兵よ、娘達を置いて逃げ去るがいい!」
銃を構えた男が言った。
トラックを囲んだ男達も一斉に銃を突き付ける。
「くっ糞っ。貴様等っ、こんな事が許されるとでも思っているのか?反逆罪は家族共々死刑だぞ!」
トラックのロッソア兵が叫ぶ。
「反逆罪?笑わせるな、ロッソアの犬共。
もはや皇帝の言いなりになる国は居やしない。
全ての衛星国で、独立の気運は高まっているのだ。
我らの同志は、そこらじゅうに居る。そう、ニーレンの元に集うのだ!」
銃を構えた男が持っていた赤い旗を押し立てて叫ぶ。
「同志ニーレンの元へと!」
((おおおおおっ))
トラックを囲んだ数十人の男達が、地鳴りの如き雄叫びを挙げる。
「くっ、にっ、逃げろっ!」
トラックから娘達を降ろして走り去るロッソア兵達を見て、ロマリアが囲んでいた男達に礼を言った。
「ありがとう、皆さん。ありがとう!」
礼を言われた男達の中から一人の青年がロマリアに言った。
「もう大丈夫だからな。ロッソアの好きにさせてはおかない。
我々と心を同じにする者が満ち溢れている。そう、この赤い旗の元に!」
そして赤い旗を持った男が言った。
「そうだ、このウラルの赤い風と同じ様に集う。
そして同志ニーレンの元に結集して皇帝を引き摺り下ろしてやるんだ。
我々の主導者ニーレン同志と共にな!」
男達は手にした銃を高く掲げて気勢を挙げた。
その叫びは、高く響いて雪のウラルに木霊した。
導入パート、前編をお贈りしました。
次回は後編になります。
みなさんっ、どうか応援の程を、お願いしますっ!
拝! さば・ノーブ