魔鋼騎戦記フェアリア第2章エレニア大戦車戦Ep4闘う意味Act40大団円
カスター卿が2人の姉姫と対峙する。
瞳を闇に堕としたエリーザに銃を向ける!
振りかざされた白刃を停めたのは・・・
「そこまでです・・・エリーザ、リマンダ!」
拳銃を手にカーテンの裏からカスターが飛び出した。
「カ、カスター卿!何故ここにっ!」
エリーザの顔が引き攣る。
「エリーザ。
全て聴きました、見ました。もう、御止めになって下さい」
銃をエリーザに突き付けてカスターが進み出る。
「くっ!・・・ふふふっはははっ。
やめろですってカスター?
皇王を殺してしまえば私が王よ。このフェアリアの女王になるのよ、邪魔するな!」
闇に堕ちた瞳で、カスターを睨みつけるエリーザに。
「諦めなさい。
たとえ皇王様を亡き者としてもあなたは女王とはなれない。
誰もあなたが皇位を継げるとは思っていない。国民が認めてはくれないでしょう」
カスターが現実をエリーザに告げた。
「ふんっ、国民ですって?
下賤の者共など、軍に鎮圧させれば済む事よ。ロッソアの皇帝がしているみたいにね」
リマンダがカスターの前で否定する。
「御2人供、世の中は変っていくのです。
最早帝国主義の時代は過ぎ去り、各国の王は人民の手で力を失い、
人民の手による政治が行われていく世の中へと向っているのです。
何時までも古い世界にしがみ付いていては、やがては身を滅ぼしてしまいましょう。
このフェアリアも遅かれ早かれ世界の趨勢の中で変ってしまうでしょう」
カスターは銃をエリーザに突き付け。
「さあ、ナイフをお捨てになってください。
さもなくば反逆者として撃ちます。皇王様から離れなさい!」
銃の狙いをエリーザの額に向けてカスターが言う、瞳を曇らせて。
「ぎいいいぃっ、ほざけっ!
誰がお前の言う事を信じる。誰がヤサ男のお前を信じると思う。
お前が証言したって誰も信じやしない。うるさいっうるさいっうるさいっ!」
エリーザが皇王に向ってナイフを振り翳す。
「やめるのですエリーザっ!」
カスターがトリガーに指を掛けて叫んだ。
「私が王よ!このフェアリアの女王よっ!」
狂気に満ちた瞳でナイフを振り下ろすエリーザ。
((バンッ))
突然の衝撃に、胸に開いた弾痕を虚ろに見詰める。
「う・・・カ・・・カスター・・・」
自分に起きた事を信じられず銃口から煙をあげている拳銃を見た。
「あ。・・・お、お父様・・・」
目の前に居る皇王に視線を戻したエリーザが屑折れる様に皇王のベットに倒れた。
((ザシュッ))
エリーザを撃った事で我を忘れていたカスターの腹部にリマンダのナイフが刺さっていた。
「くっくっくっ。邪魔なエリーザを殺してくれてありがとうカスター。
これで私の思う壺になった。善くやってくれたわ、カスター卿!」
にやりと笑うリマンダの瞳が赤黒く澱む。
「な、何故だリマンダ?君は一体?」
カスターがリマンダに問う。
「ふんっ、誰があの馬鹿姉の下に甘んじていられると言うのよ。
エリーザは私の意のままに動くだけの単なる人形。
何れは私が殺してやろうと思っていたわ。手間が省けてよかった」
嘲る様にカスターに教える。
「リマンダ・・・君が本当の黒幕だったのか?」
カスターがリマンダから離れて訊く。
「そうよ。誰があなたに情報をリークしていたと思っていたの?
全て私が計画した話。全て私が女王となる為の謀略。そして今がその時よ!」
そう叫んだリマンダがナイフを放り投げ懐から拳銃を出す。
「さあ、そこで皇王が死ぬのを観ているがいい。私が女王となる瞬間を指を咥えて観ているがいい!」
リマンダが銃をベットに向ける。
しかし、そこには皇王の姿は無かった。
代わりに・・・
「リマンダ、今の話は本当なのですね?」
ベットの脇には拳銃を構えたユーリの姿があった。
「ユ、ユーリ!いつの間に!?」
驚くリマンダに皇王を庇いながらユーリが言い放つ。
「あなたがカスターにナイフを突き立てた時からここに居るわ。知らなかった?」
ユーリが銃を突き付けてリマンダを睨む。
「くっ!貴様っ聴いていたのっ。なら皇王と共に死んでしまえっ!」
リマンダがユーリに狙いを付ける。
((チャッキイッ))
そのリマンダの頭に銃口を当てて。
「諦めなさいリマンダ。君の負けだ」
カスターが銃を押し当て言い放つ。
「くっ・・・お前達。どうして?」
皇王の寝室へ数名の兵とリーン、そしてミハルも銃を構えて入って来た。
「リマンダ、君は策に溺れたのだ。
計画を一部の者に話してしまっただろう。君の一派には口の軽い中佐が居てね・・・」
カスターが、あの作戦参謀の事を言った。
「あ、あの馬鹿。あいつが喋ったの?」
「ああ。君は人を見る眼が間違っている。
自分の欲と同じ様に、人の欲と言う物も考えるべきだった・・・そう言う事さ」
カスターはそう教えて力なく肩を落としたリマンダから、拳銃を奪い取った。
「リマンダ。皇王暗殺計画の首謀者として訴追します」
ユーリが銃を降ろして、入って来たリーン達に命じる。
「リマンダを拘束しろ、身柄は皇王親衛隊が捕縛しておくように」
「はっ!」
数名の兵がリマンダの両脇を掴んで連行する。
「ユーリよ、リーンよ。これで余を継ぐ者はそなた達に決まった。皇位を継ぐのだ」
皇王が2人の姉妹に宣告する。
「お待ち下さい。今は戦時です、この大事な時に皇位を継ぐ事など出来ません」
ユーリが皇父に言い、リーンを見る。
「ユーリ姉様の仰る通りです。今はこの戦争を終結させるのが、全てに優先されるべきです」
リーンも拒否する。
「それは解っておる。
皇位継承を認めよと言ったのだ。もうそなた2人の内一人が継がなくてはならんのだからな」
皇王が2人に決断を迫る。
リーンはユーリの顔を見てからミハルに瞳を向ける。
リーンのそんな姿をユーリは眼に焼き付けて、自らを犠牲にする決断をした。
「解りました皇父様。私が・・・私が継ぎましょう。この戦争が終われば」
ユーリが重い口を開いて皇王に告げた。
「ふっ、ユーリよ。そこまでして妹を庇い建てたいのか。自分が望まぬ道を歩むというのか」
皇王がユーリの心を知りつつも訊く。
「はい。私が務まるのかは、解りませんが」
決意を瞳に表してユーリが認めた。
((パチ パチ パチ))
ユーリの後ろから拍手が鳴る。
「やはりユーリ姉姫が良いと思いますよ、皇父様」
そう呼び掛けたのはカスターだった。
「いや、リーンにはまだまだ知って貰わねばならない事もありますし、
女王になられるのはやはり姉上の方が宜しいかと」
気軽く皇父に対してそう言ってからリーンに瞳を向けた。
「カスター、お前は刺されたのではないのか?」
皇王がカスターの身を案じて訊くと、
((ガチャッ))
カスターの服から防護マットが落ちた。
「ちょっとだけ貫かれた位ですよ。出血も止まったようですのでね。大丈夫です」
口を歪めて自嘲気味に皇王に答えた。
「カスター。単身御苦労でした。後は親衛隊員が守護の任に当たりますから」
リーンが幼馴染を気遣って声を掛ける。
「ああ、リーン。そう願いたいね。少し疲れたよ」
カスターはリーンに振り返って歩み寄る。
「リーン。君はこれからどうするんだい?
もう君を妬む姉達は消えたんだ。皇都に居てはくれないか?」
リーンを見詰めるカスターに。
「いいえ。私はここに居てはいけないの」
首を振ってリーンが答える。
「どうしてだい?」
何かに気付いた様に優しく問い掛けるカスターへ。
「まだ何も終っていないから。姉達が失権してもまだ何も変っていないから。
軍部の暴走を止める事は出来てはいない・・・そうでしょカスター」
リーンが真っ直ぐカスターを見返し答えた。
「リーン、強くなったんだね。
昔ならとうに逃げ出していた処なのにね。立ち向かう強さを手にしたんだ・・・そうか」
リーンの瞳を覗き込んだカスターが少し寂しそうに納得した。
「よし、解ったよリーン。君は君の望む未来へ進むといい。
僕はリーンを信じる。必ず願いを成し遂げると信じているからね」
カスターはリーンの手を握って引き寄せる。
「あっ!?カスター?」
リーンが驚きの声をあげるのも構わず、カスターが思いっ切り抱締めた。
「ごめんリーン。
もう一度君を抱締めたかったんだ。ずるい男だと思ってくれていいから・・・」
リーンを自分の胸に抱き寄せたカスターが心の丈を告げる。
「リーン、幼い時から・・・ずっと昔から」
カスターの胸で告白されたと思い込んだリーンは、顔を真っ赤に染める。
ー 馬鹿。カスターの馬鹿。
何で今になってそんな事を言うのよ。皆の前で・・・ミハルの前で!
「やっぱりあなたはヤサ男ね。・・・ずるい人」
カスターの胸から離れて、リーンが呟く。
「そう、ずるい男なんだ、僕は・・・」
にっこりと微笑んだカスターが自嘲気味に言った。
真っ直ぐリーンを見ずに。
そしてリーンを押し出しながら訊ねる。
「彼女もそう思ってくれているのかな?」
ミハルの顔を見ながら笑った。
「えっ?」
リーンがミハルに振り返ると、少々苦笑いを浮かべるその顔が2人を見ている。
ー あっ。ミハルが怒っている・・のが、まる解り・・・
「あ・・・はは」
リーンがミハルを見て笑う。
「さあリーン。彼女の元へお行き。
僕は伝えたかった事を告げられたから・・・満足だよ」
リーンの背を押してミハルの元へ歩ませる。
「カスターさん。それは男としてどうかと思います!」
突然ミハルがカスターを指差し意見を言う。
「どうか・・・って?」
カスターがミハルの態度に戸惑った。
「折角告白したのに、あっさり引くなんて!
男だったら自分の愛する人をそんな簡単に諦めないでください!」
ミハルもリーンの顔が朱に染まったのを観てカスターに、けじめを求める。
「・・・それは君の本心なのかい?」
逆にカスターがミハルに問う。
愛する者を奪われても良いのかと。
「はい、リーンが私と誓ってくれましたから。ずっと一緒に居ようって」
ミハルはリーンの瞳を見詰めて、
「だからリーンが男の人を愛しても何も恐くないんです。
私とリーンはずっと繋がっていられるから。
・・・だからカスターさんにも諦めて欲しくないんです。リーンを本当に愛しているのなら」
ミハルが2人を見てそう言った。
「ミハル・・・」
リーンが心の奥で感謝する。
「そうか。君はリーンを本当に信じられているんだね。心の底から愛しているんだね」
カスターはミハルの瞳を見詰めて微笑んだ。
「僕は君が羨ましいよ。そんな一途な心でリーンと繋がっていられるのが」
「カスター・・・」
リーンが振り向いて呟いた。
「解った、君の言う通りだ。僕も諦め無い事に決めた。
彼女が振り向いてくれるまでまで何度でも言うよ」
そんなカスターの言葉が引っ掛かったミハルが眉を跳ね上げると。
「はい・・・
でも、諦めないのは良いですけど・・・リーンは簡単に渡しませんから・・・ね」
カスターがリーンを見ていない事に気が付き、<彼女>と言った言葉の意味を知る。
ー なんだ・・・カスターさんは<彼女>を指していたんだ・・・
カスターの視線の先に居る人が解って胸を撫で降ろした。
「はっははは。こいつは手強い恋敵だな」
カスターもミハルが勘づいた事が解ったのか笑い掛ける。
「あの・・・お二人さん。私の立場は?」
リーンも自分を観ていなかったカスターの視線に気が付いたのだろう。
思い込みを訂正するかのように笑いながら2人の間に割って入った。
2人の魔女と政務官の男は気心が通った事に笑みを溢す。
唯、カスターの視線の先に居たユーリだけが、小首を傾げて蚊帳の外にいるのだった。
3人の笑い声が皇王とユーリにも伝わった。
こうして、継承権をめぐる争いにも終止符が打たれる事となった。
だが、ミハルの魔法力を奪おうとする新たな闇が牙を剥こうとしているのに、
この時はまだリーンもミハル自身も気付いてはいなかった・・・
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「ねえ、リーン。疲れたでしょう?」
ミハルがウトウトと居眠りをするリーンの手を握る。
「んんっ、ごめんミハル。チヨット眠ってしまったかな」
ミハルはそんなリーンの横に座ると。
「いいよ、リーンお疲れ様。ここ・・・どうぞ」
ミハルは自分の太ももに手を当ててリーンを誘う。
「えっ?ミハル?・・・うん」
リーンは誘われるままミハルの膝枕に頭を据えて、
「ありがとう、ミハル」
「ううん。いいんだよ、リーン。今日は本当に御苦労様でした」
ミハルはリーンの髪を手串で撫でて微笑んだ。
「ミハルこそ。一杯あったんでしょ。ご家族に関する事も・・・」
リーンがミハルの手をそっと掴んで訊く。
「・・・そう、だね。いろいろ・・・あったよ」
微笑んだままミハルは答えた。
「ねえ、辛いなら私にも話して。苦しいなら少しで良いから話して」
リーンがミハルの瞳を見詰めて分かち合う事を求める。
「うん、その内に。きっと・・・きっと教えるから」
ミハルは微笑を絶やさずにリーンに答えた。
ミハルとリーンを乗せた列車は、静かに走り出した。
そう、戻るべき場所へと・・・