魔鋼騎戦記フェアリア第1章魔鋼騎士Ep3訓練!あの戦車を撃て!Act9
冬が近付くこの季節は、陽が傾くのも早い。
夏色迷彩のままのMMT-3は、草原に停車していた。
「これより、射撃訓練を開始する。
砲の性能の確認をする為、前方1000メートルの残骸を撃つ。
あの残骸は、先の戦闘で撃破した敵の重戦車HTーKG-1型だ。
正面装甲は75ミリ。
傾斜装甲により垂直装甲は120ミリ近い。
本車の砲では撃ち抜く事は難しいだろう。
実際あのKGは、側面をやられて撃破されている。
本車が撃破するには、通常側面か後方から攻撃するのが有効だ」
車長のバスクッチが説明を入れる。
「まずは、徹甲弾で射撃する。
第1射装填、目標前方1000メートルの停止目標。
車体前面、機銃口を狙え!」
バスクッチの命令でミハルは、焼け焦げたKG-1の前方機銃口に狙いを定める。
「装填よし、発射準備よし!」
ミリアとミハルが同時に報告する。
「よし、撃てっ!」
バスクッチ曹長の命令で、トリガーを絞る。
((ボムッ!ガシャッ!))
射撃音を残して、弾がKG-1の車体に翔ぶ。
ミハルの撃った弾が前方機銃口近くに命中するが、
ー 駄目だ、弾が・・・弾かれた!
弾は機銃口の近くに小さな疵を付けただけで、あらぬ方に弾き飛ばされてしまった。
「どうだ。敵の正面装甲はたいした物だろ。
この距離であんな小さい所を狙って、そうそう当たるものじゃない。
まして戦闘中なら、尚の事だ。
よって側面、若しくは後方から装甲の薄い弱点を突かねば重戦車は倒せない」
バスクッチ曹長は、キューポラから対重戦車戦のいろはを教える。
ー そうね。
この47ミリ砲だと、いくら初速が速いからと言って、
重装甲の相手をするのは、荷が重いって訳ね・・・
バスクッチ曹長がキューポラから砲手席を覗き込んで、
「さて、ミハル。お守りを着けて来たか?」
曹長が問うと、
「はあ。曹長が言われた通り着けていますが、一体このお守りに何が隠されているのですか?」
ミハルの質問に、曹長は悪戯っぽく笑いかけて、
「「ま・ほ・う・つ・か・い」」
日の本語で返事した。
乗っている皆がその言葉に訊き帰す。
「車長、それは暗号ですか?」
「ま・ほ?何語です?」
「ああっ、ウォーリアが変な事言ってるぅーっ?!」
皆の反応に笑いかける曹長に、
「このお守りと、魔法が一体何の関係があるのです?」
「はははっ、そりゃあ撃ってみなきゃ解らんよ。
オレも確信がある訳じゃあないんだからな!」
曹長はあっけらかんと、言い切ってから。
「それではミハル・シマダ。
君の能力検査と、行こうか。射撃訓練を再開するぞ」
バスクッチ曹長はキューポラから半身を乗り出して、
後方に控えていた力作車上のリーン少尉に合図を送る。
その合図を見てリーン少尉は頷く。
ー いよいよね。
バスクッチ曹長の思った通りなら、
彼がミハルを私の小隊に引っ張った本当の訳がはっきりする。
私もユーリ姉様に無理に頼んだ甲斐があった事になる・・・
リーンはバスクッチを見詰てそう思った。
「よーし、ミハル。次は一番分厚い所を撃て。砲塔正面砲身防御装甲を狙え!」
「え?重戦車の一番装甲の厚い所じゃないですか。
75ミリの装甲帯でも弾かれるのに、無駄弾ですよ曹長」
ミハルはびっくりして反論する。
「無駄弾かどうか、試してみようじゃないか。
・・・やるぞ!ミリアっ、魔鋼弾を装填!」
「え!?ええっ?魔鋼弾を・・ですか?リーン少尉が乗っておられないのに?」
今度はミリアが驚いて訊き帰す。
「ミリア!復唱はどうした!次弾装填、魔鋼弾だ!」
曹長の檄に、
「はっ、はい!魔鋼弾を装填します!」
砲塔バスケット下部の装甲に守られた特殊ラックから、
銀色に輝く魔鋼弾を取り出して砲に装填する。
「車長!魔鋼弾装填完了!魔鋼機械作動します!」
ミリアは尾栓近くにある赤いボタンを押し込んだ。
バスクッチ曹長はミリアが押したボタンを確認して、
「ミハル、君の魔法力がどんな物か、確かめる時が来た。
さあ、そのお守りを砲に翳してみろ!」
曹長はミハルを促す。
「このお守りを?砲に翳してどうなるのです?」
ミハルは訳も解らず言われた通りに手を翳してみるが、取り立てて何の変化も現れない。
「曹長、何も起きないのですが・・・」
ミハルは振り返って曹長を見返すと、
「ミハル、信じろ。自分の力を、念じろ大切な事を」
曹長の言葉に、心が動き出す。
ー 信じるって、一体何を?念じろって一体何の事?
私の大切な事って一体なんだろう。
私は皆を守りたい。皆と一緒に生き残りたい。
その為には、私達を襲う敵を倒さなければいけない。
私は皆の為に、そして自分の為に強くなりたい。
強くなる為の力が欲しい・・・
ミハルの想いはだんだん強くなっていく。
ー 私が欲しいのは、皆を守れる力。
皆と生きて戻れる為に必要な力。
それは自分が強くなれる力・・・
ミハルの想いと共に青い水晶が光を放ち出す。
ー 求めるのは強い心。
強い力、強い想い!
ミハルの手は力を求める様に伸びて、
蒼き光を放つ水晶の輝きと共に、思いを放った。
「力を!」
ミハルの叫びと共に水晶の輝きがミハルの髪の色を変えた。
後で結んでいたリボンが勝手に解かれ蒼き光が身体を包み隠す。
強烈な輝きがミハルから発せられた後に・・・
車内を、そして車体を碧き光が埋め尽くす。
碧き光は一つの紋章となって、砲塔側面に現れる。
それは巫女の紋章。
盾を持って邪から守る神の紋章。
碧く光るその紋章は、この車体MMT-3が魔鋼騎である証であった。
「こ、これは?」
ラミルが驚きの声を上げる。
操縦席が変化して魔鋼機械が現れたからだ。
アナログだったメーター類が、青く輝き、操縦ハンドルが横式になり、前方スリットが前方防弾ガラスに変わる。
「えっ!ええっ?」
キャミーの前にある機銃口が、銃眼が無くなり望遠式双眼鏡に変わる。
「うわあっ、凄い!」
ミリアの装填手席が腰掛から座席へと代わり、目の前に装填補助装置が現れる。
そして・・・
「こ、これがミハルの力か・・・これが美雪さんの能力を受け継いだ、ミハルの力なのか?」
曹長は驚きを隠せなかった。
キューポラから見えるその砲身は長砲身を誇る47ミリ砲のそれを遥かに上回っている。
ー 一体何砲身長あるんだ?70・・いや80口径近くあるんじゃあないのか?
曹長はその長大な砲身に見入ってしまった。
「ミハル、ミハル先輩?どうしたのですか?
一体その服は?
それに・・・体が震えられているのでは?」
ミハルの異変に最初に気付いたのはミリアだった。
光が薄くなった後に、砲手席に居たのは。
蒼い髪を靡かせた、蒼い戦闘服らしい物を纏ったミハルだった。
観た事も聴いた事もない。
魔法使いの姿にミリアは声を呑んだのだが。
ミハルは何かに獲り付かれた様に、わなわなと震え出していた。
「来るな、来るなっ!こっちに来るなっ!もう嫌だ、もう殺したくない!」
顔を青ざめて呟く、ミハルの瞳の色は蒼色に染まっている。
「お、おいっミハル。どうしたんだ、しっかりしろっ!」
バスクッチ曹長も異変に気付きミハルに声を掛けたが。
「嫌だ、嫌だ。
撃つな、撃たないで。
殺さないで、お願いだからもう撃たないで。
皆死んじゃう死んで逝ってしまう。だから、もう撃たないでっ!」
ミハルは照準器の中にあるKG-1の砲塔に叫んでしまう。
ミハルの瞳は涙で溢れ叫んだ。
「うわあああっ!来ないでぇっ!!」
指がトリガーを引き絞る。
((ズボオオムッ!))
砲身から魔鋼弾が放たれる轟音が、車内に響き渡る。
距離1000メートルで放たれた47ミリ魔鋼弾が、KG-1の砲塔を貫いた。
命中の衝撃でKG-1の砲塔が、車体から外れて傾く。
「凄い。47ミリ砲で、重戦車の砲塔正面を撃ちぬくなんて・・・」
ラミルが信じられないと、言った風で声を上げる。
「そうですね、ラミルさん・・・」
キャミーも何が起きたのか理解するのがやっとの思いでラミルの顔を見る。
そして次の瞬間、変化していた座席周りが元へ返った事に気付いた。
「凄いじゃない、ミハ・・・ル?」
キャミーが砲手席を振り返ると、そこには・・・
「先輩!ミハル先輩!?」
砲手席で気を失って座席から崩れ落ちて倒れたミハルにミリアが声を掛けていた。
ミハルの手で光を放っていた青い水晶は、何事もなかった様に元の石に戻っていた。
やっと、ミハルにも能力が備わっている事が証明されて、
リーンとバスクッチが今後の彼女に対する処遇を話す。
リーンはバスクッチに訊く。
ミハルの力が私に必要なのかと・・・
次回Act10
君は誰を信じる?信じられる?