魔鋼騎戦記フェアリア第2章エレニア大戦車戦Ep4闘う意味Act36正義の射撃
ユーリに向けられた銃口が火を噴こうとした。
その時・・・
ユーリに突き付けた短機関銃のトリガーに指が掛かる。
その時・・・
((グワンッ ガラガラガラッ))
ロビーの入り口を盛大な音を立てて崩し、飛び込んで来た物があった。
「なっ!何事だっ!何のまねだ!」
うろたえる作戦参謀の目に写ったのは。
「そこまでよっ!全員武器を捨てなさいっ!」
キューポラから金髪を靡かせて凛々しい少女の声が響き渡る。
作戦参謀の前に砲口を向けた6輪装甲車があった。
「なっ?なんだお前等は!
ここを何処だと思っているんだ!反抗罪で死刑になりたいのか!?」
砲口に怯えた作戦参謀中佐が怒鳴りつける。
「同じ事をあなたに言ってあげるわ。このリーン・フェアリアル・マーガネットがね!」
指を突きつけて、リーンが言い放った。
「リ、リーン姫?!馬鹿な、別働隊が捕縛した筈では・・・何故ここにっ?」
うろたえる作戦参謀に向って命じる。
「最早そなた達の企みは潰えたのよ!
素直に銃を降ろすのです。さもなくば<双璧の魔女>が、お相手しますよ!」
リーンの言葉と同時に20ミリ砲の射線が作戦参謀の額に狙いを付ける。
「ひっ、ひいいっ。待て、撃つな。話せば解るっ」
怯えた作戦参謀が、チラリとユーリを見る。
ユーリはファブリットを起こそうと血で濡れたその身体に手を掛けている。
「ふははははっ。貴様等の言いなりになどなるか!
ユーリ姫を殺されたくなかったらお前達が退くのだ!」
短機関銃をユーリに向けて勝った様に叫んだ。
作戦参謀を睨んでリーンが最期通諜を言い放つ。
「あなた、そんな事を私が許すとでも思っている訳?
・・・言った筈よ、<双璧の魔女>がお相手すると。
これが最期よ、銃を降ろしなさい!」
リーンの瞳が睨みつける。
「なんだあ?聞こえんな。そんな戯言を聞く耳なんて持っちゃいねえんだよ」
顔を歪ませてユーリに銃を向ける。
「仕方が無いわね、ミハル。奴に解らせてあげてくれる?」
リーンが車内に向けて命じた。
「了解です、中尉!」
ミハルが手動用照準器を睨んでトリガーに指を掛ける。
ジリッと砲身が動いて・・・
「照準よしっ、射撃準備よーし!」
ミハルがリーンに復唱する。
「よしっ、撃てっ!」
リーンがミハルに射撃命令を下した。
((バシッ))
一発の20ミリ機関砲弾が放たれた。
((バンッ))
徹甲弾が、壁に穴を穿つ。
「貴様等っ、本気か?ならばユーリ姫の命は貰ったからなっ!」
作戦参謀が砲撃に怯えてユーリの命を奪おうとする。
そして、トリガーを引こうと指に力を入れた。
「!」
トリガーを引いたつもりだが、弾は出なかった。
「なっ?ぐわああっ?!」
その時初めて自分の指が無くなった事を知って叫んでしまう。
「私は言った筈だから・・・
あなたが今相手にしているのは<双璧の魔女>だと。もう諦めなさい!」
リーンが作戦参謀に言うのと同時にミハルが狙いを絞る。
その額へと。
「ぐうああっ、チクショウ!
どうせ生き残っても死刑にされるんだ。それならユーリ姫も道ずれにしてやる!」
自分の拳銃を左手で取り出してユーリを狙う作戦参謀に。
((トン、トン))
リーンの肩を腕がコツく。
「うん。・・・やっちゃって、マジカ少尉!」
リーンが笑って頷いた。
「くそっくそっくーそぉっ!死ねえぇっ!!」
拳銃を構える作戦参謀の元に・・・
((ドギャッ))
6輪装甲車から伸びた拳が見事に命中し、数メートルも吹飛ばして気絶させた。
「お見事です、マジカ少尉」
照準器で見ていたミハルが手を叩く。
「ユーリ姉様!」
リーンがキューポラから飛び出してユーリの元へ駆け寄る。
「リーン。無事だったのね、良かった」
2人は手を取り合って再会を喜んだ、だが。
「ファブリットが・・・私の身替りに・・・」
ユーリがファブリットに視線を移して目を伏せる。
「中将・・・そんな・・・」
声を詰らせ、その遺体を抱き起こすとゆっくり語り掛ける。
「どうして・・・あなた達父子は、こんな私達の為に・・・」
リーンがバレン中尉の事を想って声を詰らせる。
「リーン?バレンがどうかしたの?」
ユーリが自分の部下でもあり、ファブリットの息子でもある中尉の事を訊く。
「ユーリ姉様、バレンはファブリットと同じ様に亡くなりました。私の身替りとなって・・・」
「なっ、何ですって?!リーン本当なのっ?」
驚くユーリにリーンは黙って頷いた。
「そんな、父子揃って犠牲となるなんて!」
ユーリは握り締めた手を震わせて悲しみに耐えている。
そして、二人を囲んでいる兵達に命じた。
「その作戦参謀を拘束しなさい。
決して殺してはなりません。今夜の証人とします。
・・・それと亡くなった者を手厚く弔う様に。いいですね?!」
ユーリの厳しい瞳に押されて兵達が敬礼し、早速命令に服した。
「ユーリ姉様、これから私達はどうすればいいのでしょうか?」
リーンがユーリにどう行動すべきかを訊く。
「うん、それもあるが。
まずは政府官僚に申し告げるべきだ。
エリーザとリマンダの権限を剥奪する方が先決だ。
そうすれば少なくとも今後この様な真似は出来なくなるから・・・」
ユーリがリーンの肩を掴んでそう教えた。
「はい、解りました。内閣首相にそう伝えましょう。で、私達は何処へ行くべきなのですか?」
リーンがユーリに質問する。
「うーん、そうだな。今夜はもう休む方がいいのではないか?そんな疲れた顔をして」
ユーリがリーンを気遣って優しく労わる。
「いいえ、姉様。私は大丈夫です。
それより暗殺者が皇父様を狙っていると訊いています。やはり皇父様の元へ向うべきでは?」
「いや、大丈夫。皇父様には彼が付いている。手安く暗殺など出来まいよ」
ユーリが自信たっぷりにリーンに言う。
「彼?・・・誰なの、それは?」
リーンが小首を傾げて訊く。
「ふっ。リーンも知っている筈でしょ・・・カスター君のことを」
ユーリが微笑んでリーンを見た。
「えっ?あのカスターが?どうして?」
驚くリーンにユーリが言った。
「んっ?知らないの?
彼はリーンが嫌っている程、馬鹿じゃないのさ。
本当の彼は昔お前が好きだった頃のまま、何も変っちゃいない。
見かけはあんな風になっているが心は幼馴染のカスターのままなんだよ、リーン」
ユーリの言葉とあの手紙が思い起こされる。
「彼って・・・あの頃のままなの?あの頼りがいのあるお兄さんみたいな人のままなの?」
リーンがポツリと呟くのを聞いたユーリが。
「ああ、それだからこそ私も簡単に捕えられてやった。
敵が私を拘束した事で油断すると思ってな。案の定だったと言う訳だが・・・」
「でも、カスターが危険に晒されちゃうんじゃ・・・」
リーンが心配顔をユーリに向けた。
「ああ、だから私が行くの部下達と共に。
心配は無い、今度は本気で奴等を叩き伏せてやる。ファブリット父子の敵討ちだもの」
ユーリが厳しい表情でリーンに瞳を向けた。
「私、私も行かせてユーリ姉様。
カスターの元へ。彼に会って謝りたい、ずっと彼に冷たくして来た事を」
リーンは姉に頼みこむ。
「・・・そうか、ならしょうがないわね・・・行く?リーンも」
「はいっ、お姉様!」
ユーリがリーンの手を取って歩き出す。
姉妹の絆と共に。
父、皇王の元へ・・・幼馴染が居る宮殿へ!
リーンとユーリが向おうとして歩き出した。
その前にあるマジカ少尉に気付いたユーリ。
そう、マジカ。
その名を知っていたのだ・・・
次回 マジカとユーリ マジカの秘密
君はその訳を訊く。どうして私はこうなったのかを・・・