魔鋼騎戦記フェアリア第2章エレニア大戦車戦Ep4闘う意味Act35白髪の狼、死す
ユーリの前にたちはだかったのは、あの自分を捕縛した作戦参謀だった。
目の前に突き付けられた。
白髪の将官と一緒に居るのに・・・
「ファブリット中将、庇い立てする気か?!」
中央軍司令部の玄関ロビーで眼鏡を掛けた作戦参謀が銃を突き付けてきた。
「庇うだと?
作戦参謀、君は参謀長の命令を無視するのかね。
私は宮殿で聴いたのだよ。ユーリ姫を解放すると・・・な」
白髪の狼と呼ばれた頃の凄みを現し、ファブリットが参謀を睨み付ける。
「くっ、命令など聞いておらん。
それに私はエリーザ様から直接命じられたのだ、ユーリ姫を解放するなと。
もし従わねば殺害しても構わんとな!」
ファブリットとユーリに銃を突き付けて作戦参謀が叫び、片方の手で部下に銃を構えさせる。
「何のまねだ中佐。無礼にも程があるぞ!」
ファブリットがユーリを庇い、銃口に身を晒す。
「中将閣下!」
ラダル副官が更にその前に出て庇いつつ、
「この事が皇王様の知る所となったら、どうされるのです作戦参謀。ただで済むと思われるのですか!」
声を荒げて叫んだ。
「くっはっはっ。
ただで済むんだよ、副官。どうせ皇王の命も間も無く尽きる。
そうなればエリーザ様がこの国の主。女王に成られるのさ、どうだ解ったか!」
銃を副官に突き付け、嘲笑った。
「きっ、貴様っ!今なんと言った!皇王様の命が尽きるだと!暗殺する気なのだな!」
怒りに我を失った副官が中佐に掴みかかろうとした時。
((ズダンッ))
ロビーに銃声が響く。
屑折れる様に副官が倒れ込む。
「大尉!・・・貴様なんて事をっ!」
ファブリットが参謀の前で倒れた副官を見て叫んだ。
「大尉!」
「副官殿!」
護衛の為に付いて来ていた兵達が色めき立つ。
「死にたくなければ、ユーリ姫を渡せ!」
作戦参謀が銃を構え直し、ファブリットに向ける。
それに対して親衛隊員達がファブリットとユーリを護る為に拳銃を抜き放つ。
双方が銃を構える中・・・
「お待ちなさい、作戦参謀!」
今迄黙って成り行きを見ていたユーリがとうとう叫んだ。
「ファブリット中将、私に構わずリーンの元へ。
妹の身を護って下さい。私はここへ残ります」
きっぱりとそう告げて前へと進み出る。
「ひっ姫!なりません。この様な脅しなど真に受けられては!」
ファブリットが止めたが、ユーリは歩を停めずに。
「いいえ、ファブリット。これ以上の流血は見たくはないのです。ここはお退さがりなさい」
涼しい顔で自分が犠牲になる事を告げた。
「いいえ、私共は親衛隊員です。
中将閣下がお認めになられましても我々は退きません。
如何なる犠牲を払おうとも姫をお連れ申し上げます!」
一人の親衛隊員が前へ進み出てユーリを引き止める。
それに続いてファブリットが率いて来た全員がユーリを護る様に囲んだ。
「貴様等っ、全員死にたいのか!馬鹿な真似をしおって!」
作戦参謀が苛立って一足下がると、
「ならば構わん、こいつら全員を射殺しろっ!」
作戦参謀が部下に射撃命令を下した。
「其処の皆、良く聴きなさい。
私はユーリ・フェアリアル・マーガネット、第3皇女。
私はこの国を救う為に闘うあなたたちの同志、同じ軍に身を置く者。
今この国を支配しようと企む者と対峙している。
この国を誤った道へと導こうとする者と闘っている。
そうと解った上で私達を撃つと言うなら仕方が無い。
でもそうではないと言うのなら私を行かせて、私を妹の所まで・・・救国の王女リーンの所へ!」
ユーリが銃を構えて作戦参謀の命令に戸惑っている兵達に言った。
その言葉、凛々しい瞳に気後れする者達が銃を降ろした。
「なっ、何をしている早く撃ち殺せ。これは命令だぞ!」
兵達が銃を降ろした事に慌てた作戦参謀が大声で命じるが、
兵達は白い眼を作戦参謀へ向けるだけだった。
「くっくそっ。貴様達全員反逆罪にしてやるっ!」
叫んだ作戦参謀が近くに居た兵の短機関銃を奪うと。
「誰も撃たないのなら私が殺ってやるっ!」
叫んだ作戦参謀が有無を言わさずトリガーを引き絞るのを誰も停めれなかった。
((ガガガガガガッ))
眼盲撃ちで辺りを薙ぎ払う。
「姫!危ないっ!」
親衛隊員がユーリを庇って凶弾に倒れる。
ファブリットはユーリを庇う為に突き飛ばして身替りとなる。
「ぐっ!」
ファブリットと親衛隊員が各自数発の弾を受けてもんどりうって倒れた。
「ぎゃはははっ、どうだ!思い知ったか!」
勝ち誇った作戦参謀が馬鹿笑いをする。
突き飛ばされ弾が当たらなかったユーリが恩人の名を呼ぶ。
「ファブリット!・・・なんて事をっ!」
自分の身替りとなって倒れたファブリットに手を伸ばして救おうとするユーリへ。
「さあ!これで終わりだ。
これで新しい世が来るのだ。我々軍部の思いのまま動かせるフェアリアがやって来るのだっ!」
短機関銃をユーリに向けた作戦参謀が、引きつった笑いを浮かべる。
ユーリの前に向けられた銃口。
その悪しき銃にユーリは撃たれてしまうのか・・・
次回 正義の射撃
君は間に合うのか?大切な人の危急の時に・・・