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魔鋼騎戦記フェアリア  作者: さば・ノーブ
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魔鋼騎戦記フェアリア第1章魔鋼騎士Ep3訓練!あの戦車を撃て!Act8

ミハルに曹長が話し掛けてきた。

「よし、此処まで来れば良いだろう。各員合戦用具納め。戦闘配置を解く」


曹長の号令で、漸く辺りに気を配らせる余裕が出来て砲尾の方を見ると、

装填手用の腰掛に座り側面ハッチを開いて風に当たっているミリアが見えた。


ミハルの視線に気付いたミリアが、薄く微笑むのを此方も笑顔を作って返した。

そしてミハルも側面ハッチを開けて半身を乗り出し深呼吸して、

キューポラを見上げるとバスクッチ曹長がミハルに微笑んだ。


ー  ああ、そうか。

   一発も発砲しなくても、今のは実戦だったんだ。

   本当の戦闘だったんだ。

   敵も私達も両方共生きて帰る事が出来たんだ。

   私、私は死神なんかじゃない。疫病神なんかじゃないんだ!


ミハルは風に当たりながら、少しだけ嬉しかった。

皆と共に基地へ帰れる事が、無駄に命を奪う事が無かった事に。


やがて前方に、基地へと向う力作車が見えてくる。


力作車のオープントップ上で少尉がこちらを見ているのが見えた。

その顔は安堵と悩みが入り混じった複雑な表情だった。


―  そうだよね。こんな近くに敵が入り込んで来ているなんて・・・

   もうここも、安全ではなくなったのだから。

   2ヶ月前と同じ様にここもまた戦場と化してしまうのかな?


ミハルは力作車の後ろに付いた車内から半身を乗り出して空を見上げて思った。





「皆、御苦労様でした。各種点検を怠らない様に」


整列し、リーン少尉の解散の命令で各々の持ち場のチェックをする。


側面ハッチから砲手席へ入ろうとしたミハルに、曹長が声を掛けてきた。


「ミハル、ちょっといいか?」


呼び止められて、車外に居る曹長の元へ行くと、


「こっちへ来てくれないか?」


そう言って歩き出す曹長に着いて、人が居ない城壁の隅に行く。


「ミハル、さっきの話だが・・・」


曹長は戦闘の前に訊いた答えを返す為に、ミハルを此処へ連れ出したようで。


「あ、はい。私の能力って・・何なのですか?」


ミハルは自分の知らない事を知っている曹長に、不思議な面持ちで訊く。


「ミハル、オレは君のご両親を知っているんだ。島田夫妻の事を・・・な」


「は?曹長が?私の両親を・・ですか?」


「ああ。来訪されたときからな。

 君は覚えていないみたいだが・・・

 船で初めてこの国へ来られた教授夫妻と君を、

 港から研究所へと送ったのが、ついこの間みたいだよ」


「え!?え・・っと。

 6年前に私達親子がこの国に来た時に、港から軍用車で送って頂いた・・・

 あの時のドライバーさん?え?ええっ?」


―  そう。

   私達親子が東洋の島国、ヤポン(この皇国ではそう呼んでいる)から

   この国へ技術研究開発の為に招聘されて。

   来訪した時に軍用車で迎えに来てくださった士官さんの運転手を、

   当時兵長だったバスクッチ曹長が務めていたんだ・・・


「すみません、曹長。完全に忘れていました」


ミハルが、頭を下げ謝る。


「はははっ、オレもあんなに小さかったミハルが、こんな美人になっているとは思わなかったよ」


曹長は笑いながらミハルの頭に手を置いて擦ってくれる。

ミハルは顔を真っ赤にして、照れてしまった。


挿絵(By みてみん)


「そしてオレは、夫妻のドライバーとして半年の間働いた。

 その間に夫妻から教えてもらったよ。どんな研究の為にこの国へ来たのか。

 どうして軍の元で開発しているかを。ミハルも覚えているかい?」


曹長の言葉で記憶を辿る。


<そう、私達親子がこの国へ来たのは、元々父が帝国陸軍技術士官だった事、

 そして母さんが神官巫女だったから。

 魔法力を持つ兵器をこの国に伝える為、国策として派遣された。

 そう父さんは言っていた>


「父はあまり喋らない人でしたから、詳しくは知りません」


「はははっ、そうだったな。

 あの人は無口で、でも美雪さんは、君のお母様は良くオレに話してくださったんだ。

 私は夫の研究には欠かせないって。どうしてか解るかい?」


曹長の質問の意味が解らず訊き帰す。


「あの?どう言う意味なのか、さっぱり?」


「君のお母様、美雪さんは能力ちからを持っていたんだよ。魔鋼の能力ちからを」


「は?魔鋼の力って?」


曹長は悪戯っぽく、


「ま・ほ・う・つ・か・い」


片言の日の本帝国語で、そう言った。


ー  魔法使い?お母さんが魔法使いって、どう言う事?



「あ、あの、曹長。冗談は辞めてください。

 どうしてお母さんが魔法使いなんですか。

 お母さんは何処にでも居る様な普通の人間です。

 特別な能力なんて、有りっこ無いんですから!」


曹長に反論するミハルの頭を擦りながら、


「そうだな。

 見た目では普通の美人な奥様なだけだが。

 シマダ教授が開発した魔鋼機械を使えば、それは恐るべき力を発揮する能力者となる」


曹長の瞳が、真剣さを増してミハルを見据える。


挿絵(By みてみん)


「お母さんにそんな能力ちからが?」


「ああ、シマダ教授がこの国へ伝えた技術。

 君たちの母国では、当の昔に開発が始まって、

 <東洋の魔女>と云う兵団まで出来ていると言うじゃないか。

 そんな技術が友好国である我国にも渡されたのが事の始まりだった・・・と、思う」


最後は何か意味有り気に言いよどんで、曹長は口を噤んだ。

曹長はまるで妹に話を聞かせる様に優しく、そして真面目に話をしてくれる。


そんな上司おとこを見上げて、


「曹長・・・母にそんな魔法力があるなんて、知りませんでした。

 でも、それは母さんであって私にそんな魔法力があるとは思えません」


「それについては、午後の射撃訓練で確かめようと思う。

 そこで・・だミハル。

 君は御両親から何か渡されていないかい?

 光る石のような物が付いた、何かを?」


曹長がミハルに訊く。


ー  両親から貰った物?光る石のような物が付いている物と言えば・・・

   あの手に付けるブレスレット?

   あのお守りみたいな物の事かな?



「あの。母さんから貰ったお守り位しか有りませんが?」


ミハルの返事に、


「そうか!やはり美雪さんは解っていたのか。

 ミハル、午後の射撃訓練には、そのお守りを着けて来てくれ。

 それで全て解るからな!」


曹長はミハルの頭をポンポンと叩いて指揮官室の方に行ってしまった。


ミハルは曹長をあっけにとられて見送って、


「お母さんのくれたお守りと、私の能力・・・どんな関係があるんだろ?」


あまりの急展開な話で、目がぐるぐる回ってしまう。


「蒼き石の・・・護り神・・・か」


ミハルは母から預けられた家宝の宝珠の事を思い出していた。






「「これ綺麗だね?お守りなの?」」


幼き頃。

魅せられた・・・この輝く宝珠に。


輝く宝石。

・・・周りをそれより僅かに小さな蒼い石が付けられてあるブレスレットに。


「「これはね、ミハルが産まれた時に授かったのよ。

  とても偉い人から・・・神様みたいに麗しい方から・・・ね」」


母のミユキに宝珠をみせられた少女が眼を丸くして訊ねる。


「「お母さん、その人って?

  お母さんにこれをくれたの?」」


首を振った母が、少女に教える。


「「いいえ。あなたに・・・ミハルに与えてくださったの。

  ううん、ミハルが目覚める時に必要だから・・・授かったの」」



ミユキの手にある宝珠は蒼き輝きに染め抜かれている。


「「いいことミハル。

  この宝珠を授けてくだされたお方が仰られたの。

  ミハルが自分の力に目覚める時、必ずこの石が力を貸してくれるって。

  あなたが本当の力に気付く時・・・神の御加護が与えられるの・・・」」


幼き少女は眼を輝かせて宝珠を見詰める。

母親の悲し気な瞳にも気付かずに・・・


記憶の中で、母ミユキが最期に教えた。


「「ミハル、あなたは神に選ばれた娘。

  あなたを産んだのは神の意志・・・

  そしてあなたは・・・・。

  あなたこそ人たる者達の・・・なの・・・・」


思い出す事も辛く感じる母との想い出。


最期に教えられた言葉の中に、どうしても思い出せない言葉があった。


「私は・・・私がどうだというの?

 私は何を求められているというのだろう?」


ブレスレットに輝く蒼き石を見詰めて、思い出を打ち切った・・・







「綺麗な石が付いてるじゃないか。それって、翡翠か?」


お守りを手に着けていると、キャミーが目ざとく見つけて近寄ってくる。


「んー、良く判らないんだ。

 お母さんがくれたお守りみたいなものだから。

 大切にしてたんだけど・・・形見だから・・・」


ミハルの言葉に、キャミーが言いよどんだ。


「そ、そっか。お前の母さんの・・・。大切にしろよ」


挿絵(By みてみん)



キャミーがすまなさそうに言うのを、


「うん。ありがとう。でも、何でこんなのを着けて来いって曹長が言ったのか。意味が解らないんだ」


「へえ。ウォーリアが・・・。いや、曹長がそう言ったんだ?」


キャミーが曹長の名を、下の名で呼んだのを訊いて、


「へぇーっ、曹長を下の名で呼べるんだ。キャミーは」


横で話を聞いていたラミルが茶化す。


「あっ!いや、あの・・えっと・・・」


真っ赤になって、しどろもどろになるキャミーに追い討ちを掛けるミリア。


「そーですよねぇ。

 出来るならもっと声を小さくして貰いたいものです。

 それに場所を弁えて欲しいのですよ」



<うわっ、ミリアも知ってたんだ。

 曹長とキャミーがHな事をしてたのを>


「うっ、うわあっ。何?何で・・・知ってたのか?ミリア!」


さらに顔を真っ赤にしてうろたえるキャミーにトドメの一撃が。


「ああ、皆知ってるぞ。

 曹長とお前が激しく求め合ってた事なんかさ、ちょっと焼けちゃったけどな!」


ラミルがあっけらかんと言うと、


「あ、あの。皆って、小隊長も?」


キャミーの顔が今度は真っ青になる。


「んっ?ああ。

 私がユーリ大尉を送って帰って来たら、リーン少尉に呼び止められて。

 城壁の向こうには行かないであげてって言われて、こっそり見たらお2人さんが・・・

 だから知ってると思うぞ・・・うん」


ラミルがにやりと笑ってキャミーに言った。


「う、ううーん・・・」


キャミーは真っ青になって、ベットに倒れてしまった。


「あらら、失神しちゃいましたよキャミーさん。あははっ!」


ミリアが呆れた様に腰に手を当てて吹き出す。


「あははっ、ざまーみろ」


ラミルも笑う。

そんな二人につられて、ミハルも笑った。



ミハルの右手で輝く青い石が付いたブレスレット。


この石にどんな秘密が有るのか。

ミハルは曹長の言った能力がどんな物なのか知りたかった。



この時、ミハルは後の自分の運命を知る由も無かった。


ミハルの手に付けたブレスレットの秘密が、今試される。

次回は、遂に魔鋼騎が出現します。ご期待あれ!

次回Act9

君は生き残る事が出来るか

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