魔鋼騎戦記フェアリア第2章エレニア大戦車戦Ep4闘う意味Act23邪眼
ミハルが検査官ギャガンの私室に入る。
その邪な男の前に・・・
独りしかいない筈の私室で、言葉を交わす声が聞こえてくる。
「ええ、はい。奴の口は封じました。
もう二度と口を開けないでしょう。これで宜しいですね新総統閣下」
電話口でそう相手に答えたギャガン検査官が電話を切った。
「ふふふっ、これでまたあの娘が一歩闇へと近付いた事だろう。我々の目的にまた一歩近付いた訳だ」
ギャガンがディスクの上に拳銃を放り出して呟いた。
拳銃にはサイレンサーが付いたままだった。
そのギャガンの私室に音も無く入って来た影が告げる。
「その銃でダグラム君を撃ったのね、口を封じる為に」
ミハルがギャガンを睨みつけながら問う。
「くっ!貴様っいつの間にっ?」
ギャガンが机の銃を取ろうと手を伸ばす。
「どうして私を撃たなかったの?どうして罪も無いダグラム君を撃ったのよ!」
ミハルが丸腰だとふんだギャガンが、ゆっくり銃を手に取ると。
「何故だ・・・だと?
ふんっそんな事も解らんのかシマダ・ミハル。
お前は我々に必要だからだ。お前の能力が必要になったからに他あるまい」
ゆっくりとミハルに銃を突き付けて勝ち誇ったかのように嘲る。
「私の能力が必要になった?どう言う事なの?」
ミハルが銃口を見ながら訊き返す。
「我々の新総統が求めた答えだからだ。
お前の能力がこの国をロッソア、いやこの世界を変える事となる。
まさにフェアリアを救国する魔女となれるのだよ、ミハル」
口を歪めて笑うギャガンに、
「意味が解らない。私の能力にそんな力がある訳ないじゃない。何を惚けているの?」
ミハルが首を振って否定したが。
「何故お前が能力者だというのに検査を拒否されたのかを考えた事は無かったのか?
どうしてあの銀髪の娘がお前に理不尽な意地悪を繰り返したかを考えた事がなかったのか?」
ギャガンが逆にミハルに問う。
「あなたは・・・何を言いたいの?」
ミハルはギャガンを睨む。
途端にギャガンが笑い出した。
「はーっはっはっはっ。
これは飛んだお笑い草だ。
ここまでお人好しの娘が居るとは。
全て仕組まれていた事だったと解らないのか!
お前の能力を高め、闇に堕とす為に最初から仕組まれていたのだよ、シマダ・ミハル。
いや<双璧の魔女>の継承者!」
「最初から・・・仕組まれていた?」
「そう。お前の母親美雪が継承者ではない事が判ってから。
我らが新総統が求めた力がお前の身体に宿された可能性があったのを知った時から。
この計画が発動したのだ!」
ギャガンが嘲笑いミハルを見下す。
「あなたは私に一体何を?
能力検査で失格させ、アルミーアを奪った。そしてあの闘いで死に掛けさせた・・・」
ミハルはギャガンに問い詰める。
本当の事を知りたいばかりに。
「くっはは。全ては計画通りに進行したのだ。
貴様は能力を高めねば使い物にならなかった。
死地へ送り込み生き残らせれば闇の力に目覚め、力をあげる事となる。
仲間の死を見れば恐怖と怒りが生まれる。見事その通りになってくれた訳だ!」
ギャガンの言葉にミハルは否定する。
「違う。私の能力は友の死を乗り越えて強くなった。決して恐怖や怒りの力によってではない!」
ミハルの拒絶に構わず邪なる眼を向けてくる。
「何が違うというのだ?いずれにせよ貴様の能力は高まった。
もはや野に放っておく必要もあるまい。勝手に野垂れ死なれては元も子もない。
さあ、来るがいい、父と母そして弟の元へ連れていってやろう」
ギャガンが銃を突き付けミハルに迫る。
「お父さんお母さん、そしてマモルも居るのね。何処なのそこは?」
ミハルがギャガンに居場所を訊ねる。
「ふん。黙って着いて来るか、それとも有無を言わさず連行してやろうか?」
ギャガンが居場所を吐かない為にミハルがもう一度訊く。
「検査官、もう一つ訊いていい?
アルミーアに何をしたの?アルミーアに再び逢った時言っていた・・・
あなたと私の事で話した後、私に会う度に意地悪をする様になってしまったと。アルミーアに何をした?」
強い口調で訊くミハルの右手が後ろポケットに伸びる。
「アルミーア?ああ、あの銀髪の娘か。
あまりにしつこく言いやがるからお前への餌にしてやった。闇へ落とす為の餌にな・・・こうやって!」
ミハルが見詰めるギャガンの瞳が赤黒く変り、闇の波動がミハルの瞳に流れ込んで来る。
ー くそっ、こいつは奴の下僕だったのか。迂闊だった!
右手の宝珠が悔やんだが、ミハルの身体は既に身動きが取れなくなってしまっていた。
「くっう!何故?身体が・・・動かせないっ?!」
ミハルが焦りの声を出す。
「ほほう。私の邪眼を喰らってもまだ正気を保てるとはな。
・・・さすが<双璧の魔女>の継承者という処だな」
銃を構えたままギャガンが近寄る。
「だが正気は保てていても身体は意のままにはならんようだな」
ギャガンが銃をミハルの胸に押し当てて、厭らしい笑いを浮かべる。
「私をどうする気?」
身動き出来ない身体を何とか動かそうとするミハルに、
「どうもしない。このまま私と共に来て貰うだけだ、我が主の元へ。
・・・新総統閣下の元へ・・・とな!」
ギャガンが銃を突き付けたまま命じる。
「そんな・・・言いなりになんて・・・ならないっ!」
言葉とは裏腹に身体が勝手にギャガンの命じるままに動いてしまう。
「ふふふっ。何とでもほざけ。
この邪眼は我が主に頂いた力。闇の力には誰もかなうものか!」
勝ち誇るギャガンに手も足も出ないミハルが悔しがる。
「闇の力?あなたは一体何者なの?あなたの主って一体誰なの?」
ミハルの身体を操るギャガンに主の名を訊くのだが。
「それを知りたければ私の意に従う事だ。会えば貴様も主の力にひれ伏すだろう」
ギャガンの力で私室から歩き出させられるミハルが。
ー 何とかこの呪を破らないと。
このままだとマモルに会う事も出来なくなっちゃう。この男と同じ様に下僕にされちゃう!
ミハルは心の中で助けを求める。
ギャガンの術に身体の自由を奪われたミハル。
新たな脅威、新総統の前に連れて行かれそうになる時、
ミハルの力が増大する・・・・。
次回 術を破れ!
君は闇の力に抗う力を求め続ける