魔鋼騎戦記フェアリア第2章エレニア大戦車戦Ep4闘う意味Act22邪の魔手
ミハルは学校で呼び出した者と話す。
その身に迫る影に気付かず・・・
学校の守衛に来訪の理由を告げ、中へ入れて貰い旧校舎裏へと向う。
暗がりの中に人影がぼんやりと浮かんでいる。
「君ね、私を呼んだのは・・・」
ミハルに前に影が姿を現した。
「はい。マモルのお姉さん」
そう呼びかけて来たのは、あのダグラムというマモルのルームメートだった。
「ダグラム君、マモルの事を教えてくれるのね?」
「はい。マモルの事も、マモルのお父さんお母さんの事も・・・」
暗い声でミハルに答えるダグラムに聞き返す。
「えっ?お父さんお母さんの事って?どうしてそれを?」
「聞いてしまったんです僕。
マモルにそう言っているのを。だからマモルは付いて行ってしまった」
ダグラムの瞳は暗く沈んでいた。
「教えて!どう言う事なのかを!」
ミハルが近付き訊く。
「あの晩、部屋に入って来た男がこう言ったんです。
「「今からお前の父母の所へ連れて行ってやる」」と。
マモルが死んだと思っていた父母が生きているのかと訊いたら、
「「この国には居ないが生きている」」と言ったんです」
暗い表情のままダグラムが言った言葉がミハルの耳を打つ。
「え?父さんと母さんが・・・生きている?この国には居ない?」
「そう、この国には居ないと・・・
マモルが聞き返した、何処に居るのかと。
そしたらその男が「「知りたければ、会いたければ黙って着いて来い」」と言った。
マモルは寝たふりをしていた僕にそっと一言「「さよなら、ライネ」」そう言って部屋から出て行ったんだ」
ダグラムを見てミハルが訊く。
「マモルは・・・その男と出た行ったのね。
その男の顔は判らなかった?どんな男だったか解らない?」
手がかりを求めて訊ねる。
「ええ、顔は見れなかったんですよ。
逆行だったから。でも、僕には誰だか解る。
そして僕を今でも脅してくるのだからね。
口を閉じていなければ僕も、僕の家族も皆殺すと脅しを掛けてくるんだ、そいつは!」
暗い表情でミハルを見るダグラムは、その脅しに屈することなくミハルに真実を打ち明けた。
「ダグラム君・・・やはりあなたは脅されていたのね犯人に。でもどうして話してくれたの?」
ミハルがダグラムの、心の変化を問う。
ミハルの問いに表情を少し和らげたダグラムが。
「お姉さん・・・お姉さんのマモルを想う心が痛い程伝わったから。
僕が家族を想うのと同じだと気付いたから・・・」
「ダグラム君・・・」
ミハルは言葉に詰ってしまう。
そして・・・
「ありがとう、勇気を出してくれて」
ミハルがダグラムに手を差し出して感謝の意を表した・・・時。
((バシュッ))
ミハルの瞳にダグラムの腹部に穴が開き、血が迸るのが写る。
「・・・!」
声にならない叫びをあげたダグラムが倒れ込む。
「ダッダグラム君!」
倒れたダグラムを抱き、辺りの気配を探る。
ー 射撃音が解らなかった。サイレンサー付きの銃で撃たれたんだ。
相手がどこから撃って来たのかが解らない・・・
ミハルがダグラムの背後から射撃された事だけが解っている状態でその方向を探っていると。
「マ、マモルのお姉さん・・・」
苦しい息の中、ダグラムが必死にミハルを呼ぶ。
「なに?ダグラム君。しっかりしてっ!」
呼びかけに応えるミハルの耳に。
「け、検査官・・・あの検査官の声だったんだ。マモルを連れ出しに来た男の声は・・・」
口から血を吐きつつ話すダグラムの言葉が届く。
「もういいからっ、喋らなくてもいいから。早く医務室へ行こうっ!」
ダグラムの肩に手を掛けて連れて行こうとするミハルに首を振って。
「マモルのお姉さん必ずマモルを助けてあげて。
生きて再び逢って、僕の分まで生きてって・・・そう伝えて・・・」
抱き上げたダグラムの力が抜け、首がうな垂れる。
「そんなっ!ダグラム君っ!」
ミハルの肩からダグラムの手が力なく垂れ下がり、その息が絶えた事を表した。
「どうして・・・どうして?どうしてっ?」
ミハルはダグラムの身体を揺さ振り叫ぶ。
その瞳は悲しみに染まり、深く澱んでしまう。
「ゆ・・・許せ・・・な・・い」
ミハルの心に闇が忍び寄る。
<ミハル・・・継承者よ。
穢れるな、その心を闇に堕とすんじゃない。目の前に起きた現実から目を背けるな!>
右手の宝珠からミコトの魂が諭す。
「どうして・・・私に関わった人がまた死んでしまったのに・・・
どうして憎んではいけないのっ!
ダグラム君は何も悪くないのにっ。どうして殺されねばならないのっ?」
ミハルの瞳は涙と共に赤黒く澱む。
<その男の子を殺した奴を許せない気持ちは解る。
だが弟の居場所を突き止めるのが先決だろ。
奴に口を割らせるんだ、継承者よ。その男の子の死を無駄にする気なのか?>
ミコトの魂に諭されたミハルがダグラムの顔を見詰める。
「そう・・・だ。
ダグラムが最期に願ってくれたマモルを助けろと。生きて再び逢わなきゃ・・・」
ミハルの瞳が闇に立ち向かった。
「ダグラム君・・・ごめんね。私、憎しみに負けるところだった・・・ありがとう」
ダグラムの身体を肩に担いで立ち上がる。
そしてゆっくりと医務室の方へと歩き出した。