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魔鋼騎戦記フェアリア  作者: さば・ノーブ
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魔鋼騎戦記フェアリア第1章魔鋼騎士Ep3訓練!あの戦車を撃て!Act7

挿絵(By みてみん)


突然の会敵。目の前に現れた敵戦車に、ミハルの記憶が蘇る。

曹長も気付いて、直ちに実戦を想定した行動に移る。


「バスクッチ曹長!私が車長に戻りましょうか?」


リーン少尉が慌てた様に訊いて来るが、


「今、乗り変わっている場合ではありません。

 少尉はそのまま力作車で後退してください。

 本車が確認するまでは前に出ない様に。宜しいですね?」


「わ、解りました。

 曹長、指揮を任せます。

 もし敵なら攻撃はなるべく控えて、安全を確保する事を優先して下さい」


「了ー解!」


曹長は小隊長に答えてから、乗員に指令する。


「ラミル、なるべく黒煙を出さずに進め。

 排ガスでも目のいい奴は気付くからな。

 正体を確かめるまでは慎重にいけ!」


ラミルは緩やかにギアを変えつつ、速度を上げる。


「全員、見張りを厳となせ。先に発見するぞ!」


キューポラに乗り出して周りを見張っていた曹長が、

やがて右舷前方に砂煙が見えた。


「いたぞ!右舷1時。砂煙が見える。ラミル、追いつけるか?」


「さあ?こちらも全速を出しますか?」


「よし!追っかけろっ!」


ラミルはギアをトップに入れて、アクセルを一杯まで踏み込む。


キャタピラが不整地を噛んで砂塵を巻き上げる。


不整地のやや高くなった所で、砂煙の正体が解った。



「敵戦車!徹甲弾装填急げ。敵はM-2型偵察軽戦車!

 まだこちらに気付いていない。射撃用意!」


曹長が矢継ぎ早に命令を入れて、戦闘が始まった。


ー  そんな!咄嗟に実戦だなんて・・・

   しかもさっき初めて砲手としてこの砲を撃ったばかりなのに・・・


ミハルは心臓がバクバクと音をたてているのが、自分の耳まで聞こえてきそうだった。


「ミハル、射撃用意だ。

 距離1800で発砲するぞ!

 この距離からならM-2の装甲を十分打ち抜ける。

 斜め後方からの射撃になるから、2シュトリッヒ前方を狙え!」


曹長から射撃諸元が命じられ、無意識でそれに併せていた。


ー  私。

   私は今再び敵に向って、射撃しようとしている。

   あの日の様に。今再び人を殺そうとしている!


ミハルの記憶が蘇ってくる。

連隊が全滅したあの戦いの中での悲劇が。

照準器の中で斜め後方を見せて走るM-2ライトを中央に捕えてミハルの息が荒くなる。


「はあ、はあ、はあ・・・」


敵を撃つ事の恐怖が過去と重なる。


ー  私は、目の前に居る戦車を撃った。だけど、その結果は・・・







黒く煙がたなびく戦場。

味方の戦車が次々と撃破されていく。

ミハルの乗るLT-3号軽戦車は、その速力をいかして被弾せずに済んでいた。

   (注・LT・ライトタンク=軽戦車)



「大隊右側に新手です!軽戦車5両!」


前方機銃手の少女が叫ぶ。


「くそっ、やつら完全に包囲する気だな。タームっ新手の左に回りこめ!」


キューポラで指揮を執る車長が、操縦手の少女に命令した。


「了解、全速でヤツラの左に回り込みます」


タームと呼ばれた操縦手がアクセルを踏み込む。


「ミハル!ヤツラの前面装甲は硬い。側面を狙え!」


車長の髭面の軍曹が、ミハルに命令する。


「わっ解りました。側面下部を狙います!」


ミハルは徹甲弾を詰めて、砲を旋回させる。

   (注・3号軽戦車は4人乗りです。砲手が装填も兼ねている時がありました)


敵の5両は、ミハル達の乗る3号戦車に気付き射撃を始めた。

2発3発と、当たらずに済んでいたが、


((ガギィィィンッ))

物凄い音と、衝撃を受ける。


「助かった。車体側面で弾いた。ミハル射撃開始!」


ミハルは車長の号令と共に、射撃ペダルを踏む。

 (注・主砲の37ミリ対戦車砲はペダル踏み込み式引き金)


((バシッ))


短い射撃音と共に、37ミリ砲弾がM-2ライト軽戦車目掛けて飛ぶ。


距離300メートルの近距離で放たれた徹甲弾が、

狙った最前列の1両に吸い込まれる様に命中する。


車体中央側面を貫いて瞬時に爆発、炎上する。


「よし、撃破!砲弾ラックに命中した様だ。次は最後尾のM2を狙え!」


車長の命令を受けて37ミリ徹甲弾を詰めて、砲塔を廻す。

敵は最前方の車両を避けて左右に分かれる。


「右だ、右に行った2両目を狙え!」


ミハルは無我夢中で照準器にM-2ライトを捕えて、またペダルを踏み込む。


((バシッ))


第2射も、側面に命中した。

が、そのM-2はまだ動いていた。


ミハルはさらに37ミリ砲を装填して次弾を撃つ。

再び同じ車両に命中し、その車両は停止した。

と、同時に砲塔ハッチから敵搭乗員が脱出しようと身を乗り出しだした瞬間、

その乗員が吹き出した炎で焼かれてしまった。


炎と煙がもがく乗員を包む。


ミハルは照準器を通してその悲惨な光景を目に焼き付けた。


次の瞬間そのM-2ライトは、爆発と共に砲塔が吹き飛んだ。

・・・あの乗員と共に。


「うわっ、うわあっ、うわあああぁっ!」


ミハルは自分が撃った結果のあまりの惨たらしさに悲鳴を上げ続けた。






目の前で後方を見せて走る戦車は、あの時と同じM-2ライト偵察軽戦車。


荒い息を吐きながらバスクッチ曹長の命令を待つミハルの姿に、ミリアは心配顔で見詰た。


ー  先輩。

   先輩の様な人でも実車を撃つとなると、こんなに緊張するんですね・・・


ミリアの視線など全く知らずに、

ただ照準器を覗き込み命令を待つミハルには永遠とも思える時間だった。


ー どんどん離されて行く。

  もう3000メートル近くに離されてしまった・・・さすがに軽戦車は早い!


前方を走る軽戦車との距離は遠のく事はすれど、近づく事は無かった。


「このままでは、逃げられてしまいます。発砲の許可を!」


ラミルが曹長に意見具申する。

だが・・・


「残り弾数が少ない。

 下手に発砲して無駄弾をばら撒くより、このまま追い散らす方がいい。

 奴の仲間がどこかに居るかも知れんからな!」


曹長の言う通りかも知れない。


ー 目の前の一両ばかりに気を取られて深追いしすぎるより、

  今は辺りの警戒を怠らない方が良いだろう・・・


曹長は追跡を断念し、


「追跡中止。キャミー、その旨を小隊長に連絡しろ!」


「は、はいっ!」


キャミーは無線で少尉に連絡する。


「各員、前方のM-2を警戒しつつ、辺りにも敵が潜んでいないか確認しろ。

 ・・・これより本車は基地へ戻る!」


曹長の命令で砲戦は中止された。


ミハルは大きな息を吐いてから頷いた。


ー  さすが、曹長・・・判断に迷いが無い。

   もし、経験の浅い指揮官なら目先の獲物ばかり見て届きもしない無駄弾を撃って、

   残弾が少ない状態で格闘戦に突入していただろう。

   下手をするとこちらが返り討ちになったかもしれない。

   ・・・それにしても、私はあのM-2を撃てていたのかな。

   もしかすると、手が指が言う事を利いていなかったかもしれない。

   あの日の記憶が蘇ってしまうなんて・・・


ミハルは今だ震えが止まらない手を見詰て思った。


砂煙は遠く彼方に消え去り、辺りにも他の車両は見当たらなかった。


敵戦車との遭遇戦を射撃せずに終了した小隊は、無事に基地へと戻った。

そして、ミハルは曹長に話し掛けられる。

次回Act8

君は想わぬ勧めに瞳を曇らす

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