魔鋼騎戦記フェアリア第2章エレニア大戦車戦Ep4闘う意味Act17ヤサ男?カスター卿
2人の姉姫を見送ったリーンに、一人の男が声を掛けて来た。
横合いからの声が呼び止める。
「お待ちをっ、リーン姫。このまま帰す訳には行きませんよ!」
横合いから声を掛けて来た人物を見たリーンの顔が引きつった。
「あ、あなたが・・・どうしてここにっ?!」
「はははっ。どうしてはないでしょう、リーン。
僕だって貴族の端くれ。内閣官僚なのですからね」
そう言って進み出た銀髪の青年が笑みを浮かべて、
「久しぶりだね、リーン。相変わらず麗しい」
きざな言葉をかけてリーンに近寄る。
「うっ、相変わらずのヤサ男ぶりね。カスター卿!」
リーンが近寄るカスターから後ずさる。
傍に控えているミハルがリーンに近付くカスターに眼を光らせ警戒した。
自分を見上げているミハルに目の様子を観て訊ねた。
「おや?リーン。この娘は?」
ミハルの美しい黒髪と瞳を見て興味を示したのか。
「えっ?この娘は・・・私のいと・・・いえ、侍女です!」
リーンが咄嗟に愛しい人と言えず、侍女と伝えた。
「ほほう、さすがリーンの侍女。侍女もこの様に美しい」
ミハルに興味を持ったカスターがリーンに言ってやや鋭く二人を見比べた。
「それで、カスター卿。何かご用でもあるのですか?
何も無いなら邪魔しないで。私達はユーリ姉様を迎えにまいりますからっ!」
リーンがカスターから逃れるような口ぶりで言ったのだが。
「つれないですねリーン。昔はもっと仲良くしてくれていたじゃないですか?」
そう言うとリーンの手を掴もうと指し伸ばしてきた。
その手を振り払うように拒むと。
「私は今のあなたを快く想っておりませんので・・・失礼しますわ!」
カスターに背を向けて去ろうとするのを呼び止めた。
「お待ち下さい、第4皇女!」
カスターは強引にリーンの手を掴んで引き止めようとする。
「もう!何をするのカスター。いくら幼馴染だからといって、無礼でしょ!」
リーンがカスターに掴まれた手を振り払って拒む。
「少し、少しでいいから話を聴いて、リーン・・・」
カスターがリーンにお願いするのを今迄黙っていたミハルが制止する。
「リーン姫が嫌だと申されておりますので。お止めくださいませんか?」
ついっとミハルが2人の間へ分け入って立ち塞がる。
「ミハル、ありがとう。さあ、行きましょう!」
リーンがカスターに眼もくれず立ち去ろうと下のを尚も食い下がる。
「待って、リーン。お願いだから・・・」
銀髪の青年カスターが悲しみと焦りに暮れた瞳でリーンを止めたのだが。
「ミハル。さあ、行くわよ!」
振り向かずにさっさと行ってしまうリーンを見て、
カスターは立ち塞がっている侍女ミハルに近付いてリーンを追う仕草をする。
「諦めて下さい。リーン姫がああ言っておられるのですから」
ミハルは近寄ったカスターを止める。
そのミハルに身体が触れるほど近寄ったカスターがミハルの手に何かを掴ませて、耳元で呟いた。
「君、これをリーン姫に渡してくれ。
とても大事な事が記されてある。必ず彼女に読んで頂いて欲しいと伝えてくれ。お願いするっ!」
誰にも聞こえない位の小声で呟くカスターの言葉は、その風貌に似合わず真剣な声色だった。
「え?・・・はい」
その真剣な眼差しと声に、掴まされた紙を握って了承したミハルへ。
「頼んだよ」
真剣な声で願ったカスターがミハルから離れると。
「ありゃま。つれないお人だなあ」
またヤサ男の声になっておどけてみせた。
元の場所に戻っていくカスターを見てミハルは考える。
ー この人は一体何をリーンに知らせたかったのだろう?単なる恋文じゃなさそうだし・・・
リーンの元へ小走りで追いかけながら、
銀髪の青年を見てミハルは手の中にある紙の感触を確かめて思った。
「リーン、待ってよぉ!」
ミハルが控え室に入るリーンに追いついて声を掛けると。
「まったく、あの男は・・・何て無神経なのよ!」
カスターの事を怒っているリーンに恐る恐るに。
「あの・・・リーン。そのカスターさんから手紙を預かってきたんだけど?」
そう言って渡された紙切れを差し出すと。
「あの男から?何で断わらなかったのよミハル!」
手に取ろうともせずに怒ったリーンに訊ねてみた。
「え?だってあんな真剣に言われたら・・・どうしてリーンはあの人を拒むの?」
ミハルはリーンがカスターを拒む理由を訊く。
「見たでしょミハル。あのヤサ男ぶりを。
幼馴染だからって皆の面前で言い寄って。
ミハルにも色メガネ使っちゃって。
昔はあんなじゃなかったのに、もっと頼れていい人だったのに・・・」
リーンがカスターの事を悪く言うのを訊いて、何か思い違いをしているんだなと感じた。
「そうかな?
私の耳元で呟いた声は少なくとも何かを秘めている真剣な声だったよ。
ねぇ、リーン。眼を通すだけでも読んであげたら?それから破るなり捨てたらいいじゃない?」
ミハルが拒むリーンに紙切れを差し出す。
リーンがしぶしぶミハルの手から紙切れを受け取り、その紙切れを拡げて眼を通した。
「えっ!?何ですって!!まさかっ!?」
リーンが驚きの声を上げ、紙切れに書かれた文章を見詰めて何度も読み返した。
そして控え室の椅子に座り込んでしまう。
「馬鹿・・・カスターの馬鹿。どうして・・・」
呟くリーンの手から紙切れが落ちる。
ミハルはリーンの足元へ落ちた紙切れを拾って眼を通すと、そこに記されてあった事とは・・・
「「リーン、この手紙を読んでくれているのなら、僕は君に真実を伝えられていない。
僕は君に謝らなくてはいけない、今までの事を。
僕は敵に油断させる為に馬鹿を通している。
こんな僕に嫌気が差したことと思う。
そして僕は敵を探っている、そして大変な事実を知った。
それは敵が皇父様を暗殺しようと画策している事だ。
この事はまだ誰にも教えてはいない。
君だけには知っていて欲しい事がもう一つある。
それは馬鹿を通していてもこの僕が何よりも大切に考えているのは、
この国の未来がどうなるのかと言う事なんだ。
リーン、大切な君にだけは解って欲しい。
どうか馬鹿な幼馴染を許して欲しい」」
ー カスターさん・・・やはりあの声は本物。
あの声は真実を伝えられなかった悲しみの声・・・
ミハルはリーンに紙切れを差し出すと。
「これでもリーンは幼馴染を悪く言うの?言えるの?」
「知らなかった。
カスターが私の事を想って・・・そうまでして国を護ろうとしてくれていたなんて」
リーンが俯いて自分を責める。
「リーン、カスターさんは自分を犠牲にしてまで護ろうとしてくれている。
暗躍する者達の中へ入る為、油断させる為にヤサ男を演じ探ってくれているんだよ?
・・・そんな幼馴染その辺にいないと思うよ。
彼はヤサ男なんかじゃない。立派な男性だよ。リーンはいい人達に囲まれて幸せだね」
ミハルが微笑んでリーンを諌めた。
「うん、うん。私・・・私は皆に助けられている。皆の力で生かされている気がする」
リーンがミハルの言葉に力を得て頷いた。
「さて、幼馴染の進言を受けたリーンはこれからどうするのかな?皇位を継承しちゃう?」
そんなリーンに笑いかけて、これからの歩むべき道を訊くミハルに。
「それは嫌。だって私はもっと学ばなくてはいけない。
もっと強くならなければいけないから。王宮になんて居たくないもの。それに・・・」
首を振って断わり、立ち上がった。
そしてミハルに手を差し出すと。
「私にはミハルがいるもの。
ずっとずっと離れたくない大切なミハルが此処に居るもの。私の居るべき場所はここだもの」
ミハルの手を掴んで引き寄せ思いっきり抱締める。
「あ・・ん!リーンの馬鹿・・・嬉しいよ」
抱締められて頬を紅く染めたミハルが喜んだ。
控え室に着替えを持った女官が現れる。
妖しく光るその瞳の裏にある物とは・・・
次回 刺客
君はその瞳の裏にある狂気に気付けるのか?