魔鋼騎戦記フェアリア第2章エレニア大戦車戦Ep4闘う意味Act15 宮中の広間へ
ミハルはラウンおばさんの店から帰る。
そして約束の時間が来た。
それは宮中へ参内するリーンの護衛・・・
夕方の陽が、斜めに差し込んでいた。
「積もる話は尽きませんが、用事があるので失礼します。おばさん、ありがとう!」
お茶を勧められて一時昔話に花を咲かせたミハルは、ラウンおばさんに暇乞いする。
「あらまあ。気付かない内にもうこんな時間なの。ごめんなさいねえ、引き止めてしまって」
時計の針は4時半を少し過ぎていた。
「後片付けはいいから。早くおゆきなさいな」
気を使ってミハルを急かすラウンおばさんに頭を下げて。
「うん。じゃあ行きますね、おばさん。どうかお元気で」
ミハルを急かすラウンおばさんもまた。
「ああ、ミハルちゃんもね。また皇都へ来たら寄ってお行きなさいな」
そう勧めてくれた。
「ありがとう。その時はまたお話したいです」
お辞儀をして店を出るミハルの背に向かって、声を掛けてくる。
心配げな声で。
闘いに身を置く者を送出す声で。
「必ずまた来るんだよ。待っているからねミハルちゃん」
店の外まで出て手を振ってくれるおばさんに軽く手を振って応えた。
ー ラウンおばさんありがとう。必ず帰って来るから。
今度はマモルもお父さんも、お母さんも一緒に連れてくるから・・・ね!
店を出て歩くミハルは、心の中で誓って戻ってくると約束した。
「あの娘達も戻れたらいいな。戻るべき所に・・・」
建物の間に沈む夕日を見上げて、ミハルは思った。
自分と同じ古来の力を宿した娘リンの事を、その友ランネの事を。
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「それじゃあミハル、行きましょう!」
美しい純白のドレスを身に纏い、リーンがミハルを誘う。
「ううっ、リーンちょっと待ってよ、話しが違う。
なんで私もドレスを着なければいけないの?侍女って言ったじゃない!」
本当のお付の侍女にドレスのチェックをされながらミハルが戸惑ってリーンに訊くと、
「あれ?言ってなかったかな?
公式の場に出る皇女に付き添う侍女の扱いは貴族と同じだって事なのよね」
リーンが悪戯っぽく笑ってミハルを見た。
「ええっ!?そうなの・・ですか?初めて聞きましたからっ!」
慌てるミハルに侍女達がドレスのチェックを終えて、リーンに宜しいとお辞儀して退がる。
「さて・・・行きましょう、ミハル」
リーンは手をミハルに指し伸ばして微笑んだ。
「うっ、うん。でも・・・恥ずかしいよ、リーン」
ミハルはドレス姿の自分に自信が持てず躊躇っている。
「ほらっ、鏡で自分を観て見なさい。
これがあなたなのよ、恥ずかしがる必要なんてないわ。輝いているもの!」
リーンがミハルを鏡の前へ導いて見せた姿は・・・
「あっ・・・?!」
そこにリーンと共に写っている自分を見て驚いた。
それは自分ではない位に着飾った美しい少女が居た。
「・・・もっとチンチクリンかと思ってた・・・」
黒髪をティアラで飾り、青白いドレスを着て腕まである純白の手袋を填めた少女の姿。
その顔は頬を紅く染めて、ピンクのグロスが白い肌をより白く浮き立たせて魅せる。
「ほら、ミハルは綺麗なの。自信持ちなさいよ!」
リーンがミハルの肩をそっと抱いて自信を持てという。
「はははっ、馬子にも衣装って・・・この事ですね」
はにかんで笑うミハル。
「元がイイからに決まってるじゃない。
さあ、それよりこれから私達は戦場に行くのよ。
浮かれている場合じゃないの。気を引き締めて掛かるわよミハル!」
瞳を引き締めてリーンが気合を入れる。
「は、はい!しっかりお護りしますからっ、私がリーンを護るから。お任せ下さい!」
右手に宝珠を填め直し、
右太ももに着けたホルスターをスカートを捲って確認するミハルが気を引き締める。
「うん、よし。いざ!」
ぐっと右手を握り締めて気合を込めるミハルの姿に・・・
「あのね、ミハル。
一応公式の場だから。いきなりスカート捲って銃を撃つのは辞めようね・・・」
リーンが眼を点にしてミハルを制止した。
王宮の広間にそれぞれの官職を拝命した人間が、皇王の出座を待っている。
正面近くに2人の皇女が、広間に入る2人を見て睨みつけた。
「よくもぬけぬけと・・・現れたものね」
「ほんとに・・・愚か者のする事は解りませんわ」
エリーザとリマンダ、二人の姉姫達が陰口を話す。
二人の前には中央のカーペットを涼やかに進む第4皇女リーンと、
その後ろに控えた長い黒髪の、侍女とも思えぬ美しい娘の姿があった。
リーンと相対する2人の姉姫。
リーンはユーリを救う為、2人の姉と対決する。
それは血の繋がらない姉との相交わらない心の表れ・・・
次回 姉妹対決
君は闘うしかなかった。心の通じない姉妹と・・・