魔鋼騎戦記フェアリア第2章エレニア大戦車戦Ep4闘う意味Act14神官巫女ミサト
ミハルは碧い魔法石が付いた髪飾りを目の前の少女に譲る事にした。
そして赤毛の彼女と握手をする。
その彼女に宿る者が何者かも知らずに・・・
2人の手が触れた時・・・
((ピイイイーンッ))
ミハルの宝珠が音を立てて光を放った。
ー おいっミハル。こいつの手を離せ、早くっ!
宝珠が慌てた様にミハルの心に訴える。
ー えっ?何故なの?
ー こいつはビックリだ。
この娘は我々と同じ古来の力を宿してやがる、しかもかなり強力な能力者のなっ!
宝珠の中で魔女ミコトが叫ぶ。
ー そうなの?だったら良かったじゃない。ミコトさんの仲間になって貰えば?
ー 馬鹿っ!そんな悠長なこと言ってないで手を離せ。
こいつは性悪女の魂を宿しているんだ。あたしの後輩の魂をなっ!
「えっ?」
気付いたミハルが握手を交わしている右手を見詰めて気付いた。
((ギュウウッ))
リンが思いっきり強く握ってきている。
「えっ?ちょ、ちょっとリン。痛いって、ちょっと!」
リンの手を振り解こうとしたが、更に強く握り込んでくる。
ー いかん!ミハルっ、気付かれたっ!
ミコトの叫びがミハルの心に響く。
「みーーつーーけーーたぁーっ!」
リンの声が今迄とは全く違う感じで耳を打つ。
「えっ?ええっ?どうしたのリン?」
ミハルが右手を握られたまま訊く。
リンの瞳がすうっと細くなりミハルを睨むと。
ー ミーコートーォ先輩ぃー、こんなところに居たんだぁ。見つけましたよーぉ!
ー うわあっ、ミサトッ!離せっ、馬鹿っ!
ミハルの中でミコトがうろたえる。
ー んふふっ。千年振りに逢えたのにつれないですわよねぇ。
ミコト姉様、私達の仲じゃないですかぁ!
ー ひいいっ、こっちにくんなっ!お前に関わったら何時もろくな事にならないんだ!
ミハルの中でミコトが手を振って拒む。
ー だってぇミコト姉様がドジ踏むからですよぉ。
臣下ナンバー3の術師なのにドジっ娘なんですからぁ!
ー うっうるひゃいっ。とにかくこの娘から離れろっ!
ミハルとリンが握手をして固まっていると・・・
「ねえ?リン、いつまで握手してるの?」
ランネが2人に問い掛けた。
ー はっ!
強く握られた手を無理やり振り解どくミハルにリンも我を取り戻すと。
「あっ、すみませんミハル軍曹。あたし時々自我を失う事があって・・・」
リンが顔を逸らしてミハルに謝った。
「そう・・・なんだ。想いっきり握り締められたからビックリしたわ」
ミハルも一瞬ミコトの魂に自分を乗っ取られていた気がして苦笑いを浮かべた。
2人はお互いの手を離して苦笑いを浮かべる。
「あはは。何故か解らないけど軍曹とは昔から知り合っていた様な気がします。不思議な事ですけど?」
リンが記憶をたどる様にもう一度ミハルの顔を見詰めて言った。
「そ、そう?不思議ね、私もそう思ったところなんだ・・・あははは」
冷や汗を掻きながら心の中に居る魔女に訊く。
ー ねぇ、ミコトさん。どう言う事なの?この娘とあなたは一体どんな関係なの?
ミハルは右手の宝珠に宿るミコトに訊く。
ー さっき言っただろ。この娘に宿った魂はあたしの後輩だって。
いつもあたしに迷惑を振り撒いてくる性悪娘の魂を宿しているって!
ミコトがため息を吐く様に答えて、ため息混ざりに教える。
ー まあ、付き纏われない様に気をつけるんだな。後継者よ
そう言うと黙り込んでしまった。
ー なんなんですか、それって・・・
ミハルは呆れる様にミコトに心で呟いた。
「それじゃあミハルちゃん。その娘に売ってもいいんだね。その髪飾りを?」
ラウンおばさんがミハルに訊いて来た。
「ええ。構いませんから売ってあげて。ラウンおばさん」
微笑んで答える。
「そうかい?
この髪飾りはマモルちゃんのお気に入りだったのに。
お父さんやお母さんがミハルちゃんが大きくなるまで残して置いてって言ってたのにかい?
・・・本当にいいのかい?」
ラウンおばさんが念を押すように訊いて来たが。
「はい。今の私には母から受け継いだこの宝珠がありますから・・・もういいの。
きっとマモルも解ってくれると思いますから」
そう言ってからリンに振り向くと。
「この娘の方が必要だと思うから。今のリンにはこの髪飾りが必要なのだと解ったから」
微笑んでリンに魔法石を託す事を伝えた。
「ミハル軍曹。ありがとうございます!」
リンはミハルに感謝を込めてお辞儀した。
「それじゃあ娘さん達、それを渡しなさいな。箱に入れてあげるから」
ラウンおばさんが小箱を出して髪飾りを仕舞う準備をしたが。
「いえ。このまま着けていきます。お勘定を・・・」
リンが左の髪に着けて断わり、お金を払う。
「そうかい?まあ、いいけど。はい確かに」
レジスターに受け取ったお金を入れながらラウンおばさんがリンとランネに、
「しっかり生きなさいよ、あなた達。
明日は出発なのでしょう戦場に。初陣の餞別にこれをあげるわ」
そう言うと二人に小さな碧い石が付いたブレスレットを手渡した。
「えっ、おばさん。いいんですか?」
ランネが喜ぶ。
早速手に填めると翳してみせる。
「わあ、綺麗。ありがとう!」
右手に填めたブレスレットを翳しながらお礼を言った。
「嬉しいです、ランネとお揃いなんて」
リンも右手に填めてお礼を言ってお辞儀した。
「ああ、良かったねリン、ランネさん。あなた達これから出陣なの?何処へ行くの?」
ミハルの問い掛けにリンが少しだけ言い淀んだが。
「軍曹、本当は言ってはならないのですけど・・・ノストルダム・・・エレニアの北にある街です」
ー エレニアの北って・・・最前線じゃないの!
ミハルは一週間も経たない前の闘いの地、
エレニアよりずっと北にある国境の街ノストルダムへと向う二人を呆然と見詰める。
「では!失礼します。ミハル軍曹、お元気でっ!」
リンとランネが店を出る時、お辞儀をしてミハルに別れを告げた。
「うん。2人供無茶しないでね。
生き残る事を諦めないで。最後の最期まで絶対諦めては駄目よ。これが魔鋼騎乗りの信条だからね」
ミハルが2人を心配して忠告した。
「はーいっ!」
手を振り歩いていく2人の姿を見詰めてミハルは思う。
ー あの2人・・・生き残れるのだろうか?
「ミハルちゃん。あの娘達が心配なの?」
ラウンおばさんが2人の後ろ姿を見詰めているミハルに訊く。
「うん。あの娘達、戦場がどんな物なのかを知っていない。解っていないと思うから・・・」
ミハルがポツリと呟く様に答える。
「ミハルちゃんの瞳・・・悲しそうね。
ミハルちゃんは戦場で一体何を見て来たの?
何故そんな悲しい瞳になってしまったの?」
ラウンおばさんの言葉にミハルはドキリとする。
ー 私の眼はそんなに悲しそうにみえるの?
私の観て来た全ての物が悲しい事ばかりだったから?
・・・そうじゃない。
全てが悲惨な事ばかりじゃ無かった筈。
友を得て、大切な想いに気付き、そしてリーンを愛している。悲しい事ばかりじゃない!
ミハルは軽く頭を振ってから一度目を瞑り、
そう考えてからもう一度眼を見開きラウンおばさんに向って眼を見開いてみせた。
「いいえ、おばさん。悲しい事ばかりではないよ。ほら!」
澄んだ瞳を見せて答えるのだった。
「・・・ミハルちゃん。変ったわね、あなた。
昔はあんな気弱でおとなしかったのに。
今のミハルちゃんは立派な騎士なのね。魔法の騎士になったのね」
ラウンおばさんはミハルの瞳に力強さを感じてそう言って励ましてくれた。
「ありがとう、ラウンおばさん」
頷くミハルの顔を見詰めていたラウンおばさんが。
「そうそう。お茶がまだだったわね。冷めちゃったから煎れ直そうかしらね」
そそくさとカウンターの奥に戻り、お茶を煎れ直してくれた。
ラウンおばさんの店を後にしたミハルが時間通りに本部に戻ると、
リーンが求めていたシゴトに執りかかる。
それは宮中でのボディーガード。
リーンの身を護る侍女の役目。
・・・でもっ!聴いてないよっ、こんな格好するなんてっ!
次回 宮中の広間で
君は本当の自分を知らない。その麗しさを・・・