魔鋼騎戦記フェアリア第2章エレニア大戦車戦Ep4闘う意味Act11ライネ・ダグラムという少年
ミハルは見の前に居る検査官を睨みつけた。
自分を貶めたその男を・・・・
自分を魔法力検査から外し再検査も受け付けず、
その結果アルミーアを失望させ自分から離れさせた男。
ミハルは心の中に封じ込めてあった理不尽な仕打ちに対する怒りが甦ってきた。
「それにしてもシマダ君。
君が騎士章を授与されるとはなあ。魔法力検査も当てにならんと言う事だね」
一人の教員が検査官に聞こえる様な声で厭味を言ってくれる。
その教員は、ミハルに軽いウインクをした。
その教員は当時ミハルの事を想い、何度も検査官に反抗してくれた数少ない恩師の一人だった。
その恩師が席を立ってミハルに握手を求めてきた。
「お帰りミハル。良く無事に帰れたね、本当に良かった!」
いつも気弱でクラスの中でも目立たず明るい感じがしなかった少女が、
今や全軍の中でも数少ない騎士章授与者になった事を恩師は喜んでくれていたが。
「ミハル。ちょっとこっちへおいで」
その恩師に手招きされて教員室の隅の方へ行くと、その教員はいきなり頭をミハルに下げた。
「すまないミハル。何とお詫びすればいいのか。
マモルを連れ去られたのは我々教員の眼が不行き届きだったからだ。申し訳ない」
恩師に謝られたミハルは頭を振り教員を宥める。
「いいえ先生。
その件は教員の皆さんが悪い訳ではありませんから。
連れ去られたのは、私達家族が原因なのです。謝らないでください」
逆にミハルが恩師を慰める。
「それに今日私が此処へ来たのは、マモルが連れ去られた時の話を聞きたかったからです。
何か御存知ではないでしょうか?」
恩師にマモルの件を訊ねてみた。
「そうだろうと思った。
私が知っているのは、夜間外出をマモルはしていなかった事。
そして寮内から忽然と居なくなった事だけだ。
目撃情報もない。
また不審者の痕跡もない。つまり、争った痕も無いんだよ」
ミハルはこの事件の犯人が少なくとも外部の者による犯行ではない事を知った。
ー だとしたら、一体誰がマモルを外へ連れ出したのか。
マモルが抵抗することも無く外へ連れ出される訳が無い。
気を失っていたのか、それとも何かの理由で抵抗出来なかったのか。
・・・いずれにしても目撃情報が全く無いと言うのが判らない。
こんな人が多くいる学生寮から誰にも見られず人一人が居なくなるなんて・・・
「先生。だとすれば一体何がマモルにあったのか・・・
誰がマモルを外へ連れ出したというのです?
少なくとも同室の子がそれを見ていない筈はないと思うのですが?」
ミハルは一番聴きたかった事を訊ねる。
「ああ。ライネの事だね。
我々も一番に訊いたのだが、眠っていて知らないと一点張りなのでね。
軍の方にも警察の聴取でもそう言うだけなのだよ。
きっと彼は何か隠していると睨んでいるのだが・・・」
恩師もその生徒が何かを知っていると睨んでいるみたいだが、困った様に肩を窄ませてみせるだけだった。
そしてミハルの耳に口を寄せ、
「私はこの学校内に昔から何か異質な者の感じを肌で感じていた。
そう、ミハルが検査を受けさせて貰えなかった時のように。
今回の件も何者かが仕組んだと思っているんだよ。ミハル、気をつけるんだぞ?」
そう呟くと、検査官の方に目を向けた。
「はい、先生。ありがとうございます。気にかけておきます」
ミハルは恩師に礼を言って、そのライネ・ダグラムという生徒に会わせて貰える様にお願いする。
「それでは先生、同室だった生徒に会わせて貰えませんでしょうか。
その時の状況を伺いたいのです、姉として」
「それはもっともな事だ。
姉が弟の失踪の件について話を聞くというのは。解りました、ご案内しましょう!」
恩師はワザと大きな声を出す。
検査官にも聞こえる位の大きな声を出し、ミハルを生徒が居る教室まで連れ出した。
「ミハル。彼がライネ。ライネ・ダグラム君だよ」
教室の窓から指差し、一人の男子生徒を紹介する。
ライネはミハルの持っている写真の顔よりずっと暗い表情をして俯き加減で席に座っていた。
ー 彼がマモルと同室の生徒。
写真では解らなかったけど髪は茶色、瞳は栗色なんだ。
それにしてもマモルの友達にしては暗過ぎるイメージだな。
やはり彼は何かを知っている。何かを背負わされているみたい・・・
ミハルは彼の印象から直ぐに解った。
彼が誰かに口を封じられている事を。
「先生。彼とお話出来ませんか?少しでいいですから」
ミハルの願いを快く了承して。
「ああ、いいとも。ちょっと待っててくれミハル」
教室へ入ってライネと共に出て来た。
「彼女がシマダ・ミハルさんだ。マモルのお姉さんの」
恩師に紹介されたミハルが自己紹介を述べる。
「マモルの姉、シマダ・ミハルといいます。
授業中にごめんなさい。どうしても訊いておきたかったから」
真っ直ぐライネの顔を見て言ったが、ライネはミハルと視線を合わそうとしない。
「何ですか?僕は何も知りません。シマダ君が居なくなった時は眠っていましたので」
ライネは誰かにそう言えと言われているかのように同じ事を繰り返し言うだけだった。
「そう・・・解りました。
ねえライネ君、私が聞きたいのはマモルが居なくなった時の事じゃなくて居なくなる前の事なの。
マモルが居なくなる前に何か変った様子はなかった?
例えば・・・そうね、誰かに父母の事を訊ねられていたとか話し掛けられていたとか?」
ミハルが顎に指を当てて考え事をする仕草で訊く。
ライネの身体がビクンと震えたのに気付いたミハルが、
「もしかしたら、どこかの検査官とかに話し掛けられていたんじゃない?
私が魔鋼騎乗りになって戦場に出ている事とかを・・・」
視線をライネの瞳に向けてそう訊ねた時、彼の瞳に困惑の色が見て取れた。
ー やっぱり、あの検査官が絡んでいるんだ。
先生もきっとそう睨んでいるから、さっきあんな大声で私に話し掛けてきたんだ
黙って返答しないライネへ気遣う様に。
「あ、ごめんね。私ばっかり訊いてしまって。
これじゃあ尋問みたいだね。話を変えましょう。
ねえ、マモルはどんな学生生活を送っていたの?
同室だった君に聞きたいの。私はもう一年以上会っていないから知りたくて」
優しく微笑み掛けてマモルの事を教えて欲しいと訊いた。
「え?マモルの事ですか。
・・・いい奴です本当に。
明るくて人の世話を焼くのが好きで・・・勉強もスポーツも人一倍頑張る奴です。
僕の事もとっても親切にしてくれていました」
ライネの言葉にマモルの学生生活を想像して、心が温まる想いをミハルは抱いた。
「そう、良かった。ありがとうライネ君、少し安心出来たわ。
マモルの事が知れて、一人でも頑張っていた事が解って」
ミハルは右手をライネに差し出し握手を求める。
咄嗟にライネはミハルの右手を握り返し握手した。
ー ナイスだ、ミハル!
頭の中で誰かが指を立ててグッドサインを出した気がした。
「ライネ君、もし、何か気付いた事があったら話してくれないかな。ここに連絡先が書いてあるから」
ミハルは名刺を差し出してライネに手渡す。
「マモルのお姉さん!僕は・・僕はっ!」
ライネは受け取った名刺を持って肩を震わす。
ー 今は彼に喋らす訳にはいかないっ!
ミハルはそこで気付いた。
物影から誰かがこちらを見ている事に・・・
自分達を物陰から監視する影に気付いたミハルは、話を切り上げた。
そして学校を後にして街中へと出た。
懐かしい街並みをゆっくりと歩くミハルの眼にとある店が目に入る。
次回 ラウンの店
君は年少期の思い出に浸る、父母と弟と共に歩いたその街で・・・