魔鋼騎戦記フェアリア第2章エレニア大戦車戦Ep4闘う意味Act9皇都で・・・
ミハルはリーンの待つ皇都へ向う。
そこで皇王親衛隊本部へ辿り着いた時、3人の上官に迎えられた。
ほんの数時間に過ぎなかった。
家族というモノに触れられたのは・・・
「それでは失礼します。ありがとうございました」
ミリアの母にお礼を言ってお辞儀をするミハルが玄関を出る。
「もっとゆっくりしていかれたら宜しいのに・・・」
残念がる母に対し。
「いえ、私は用事がありますので。
待ってくれている人が居ますので、これで失礼致します」
ミハルが固辞して玄関を出るとミリアが
「ミハル先輩、中尉に宜しく!」
ミハルがこれから向かう先で待つ、リーンの事を言ってくる。
「うん。宜しく言っとくよ。
それじゃあミリア、ゆっくり親孝行するんだよ。
それと、帰隊日を忘れないでね」
軽く手を振り別れの挨拶を交わすミハルに、
「先任!どうか無理をなさらず、帰隊してください。小隊長にもそう言ってくださいね!」
ミリアは敬礼を贈ってミハルを見送る。
そのミリアに答礼しながら、元気よく答える。
「うん、伝えるから。じゃあね!」
ミリアと母に別れを告げて、ミハルは皇都へと歩を進める。
振り向かずに歩くミハルは心の中で思う。
ー ミリア、あなたが羨ましい。
優しいお母さんが居てくれるんだもの。
今の私には帰る家もない、逢える人も居ないのだから・・・
仲睦まじいミリアの家族を見て、ミハルの心は少し寂しかった。
ー だけど私の家族はどこかで生きている。
きっと私を求めてくれている。私が助けに来るのを待っている筈だから・・・
ミハルは皇都へ向う列車に乗って考える。
ー 何処に居るの?
誰がマモルを連れて行ったの?
私がきっと探してあげる。私がきっと助けに行ってあげるから。
それまで辛抱してね・・・マモル
弟の事を考えている内に列車は皇都に着いた。
アームステル駅に降り立ったミハルは鞄を手に提げ、
リーンから手渡されたメモを片手に真っ直ぐに皇王親衛隊本部へと向った。
中央政務省に属する本部の場所を聞き、隊門をくぐった。
そして・・・
「私は陸戦騎独立第97小隊所属シマダ・ミハル軍曹です。
要件があり、訪れました。閣下にお目通り願います」
ミハルは隊内の受付に名刺を差し出し、面会を願い出る。
受付は自分より若い一等兵の少女だった。
名刺を受け取ったその少女が、ミハルの魔鋼騎士章に気付き、姿勢を正す。
ー 成る程、この勲章はこんな時にも役に立つのか・・・
ミハルは改めて軍隊なんだなと思う。
こんな小さな勲章一つで、周りの目線が全く違う事に半ば呆れてしまう。
隊内電話で副官らしい人物と話していた受付の少女がミハルへ。
「軍曹殿、お会いになられるそうです。ご案内致します!」
そう言うと傍らに居た同じ一等兵の少年に、
「軍曹を本部長殿の私室にお連れしろ。同席の方に失礼のない様に」
そう言われた少年兵が敬礼し、受礼する。
「軍曹殿、どうぞこちらに」
少年兵はミハルに先立って歩き出した。
そう広くない建物の2階の一室に案内されたミハルは、少年兵と共に奥の方にあるドアの前で立ち止まる。
「ここで少しお待ち下さい」
少年兵がドアをノックして、
「シマダ軍曹殿をお連れしました。通しても宜しいでしょうか」
ドア越しに中へ伺いを立てる。
「よし。入れっ」
若い青年将校の声が招き入れると少年兵がドアを開けて、ミハルを通す。
ミハルは姿勢を正し、一歩ドアの中へ入るなり。
「私は陸戦騎独立第97小隊所属、シマダ・ミハル軍曹です。
ファブリット中将閣下にお目通り願いたく尋ねて来ました!」
元気良く中の人に申告した。
「良く来たね、シマダ君」
奥の椅子に腰掛けたファブリット中将が、ミハルを迎えてくれる。
そのファブリット中将の横には・・・
「あ、リーン・・・中尉」
リーンが軽く手を挙げてミハルに応える。
そして招き入れた声の主、バレン中尉が居た。
「軍曹。いや、シマダ君。
遠路御苦労様でした。君が来るのを心待ちにしていたよ」
そう言ってファブリット中将は、懐かしそうにミハルに微笑み掛けた。
ー う、うわ。白銀の狼・・・教頭先生がまた私に微笑んでくれている。
どうしても馴れないねアルミーア・・・
ミハルは旧友に目の前に居る学生時代に厳しかった恩師の、温かい顔を見せてあげたかった。
「長旅ご苦労な所だが、さっそく本題に入りたいと思う。
特に君の弟についてなのだから心配している事だと思うのでね」
バレン中尉が一枚の紙切れを出し、ミハルに渡した。
「君の弟、マモル君が行方不明となったのは一週間前の事だ。
突然学生寮から姿が消えた。
学校側から報告を受けたのはその翌日の事だったのだが、我々が掴んだ情報は少ない。
何せ誰もがその件について口を開きたがらないのでな」
バレン中尉が紙切れに書かれてある事を要約して教えてくれた。
紙切れに書かれてある事件の報告を読んだミハルが訊ねる。
「マモルは夜から朝までの間に行方不明となった・・・と、書かれてありますが。
確か夜間は自室で温習していると思うのですが・・・
つまり外出等は出来ない筈だと記憶していますが?」
紙切れから目を離してミハルがバレン中尉に訊く。
「その通りだよシマダ君。今も昔もその事については変りはしない」
バレンより先にファブリットが答える。
「そうですよね。
でしたらマモルは自室に居たか何らかの用で寮内のどこかに居たか・・・
ともかく寮の中に居た事は間違い無いと思われますが」
その言葉にバレンも頷く。
「我々もそう踏んでいる。
だが、目撃情報が上がってこないのだよ、シマダ軍曹。
少なくとも同室に居た少年が何らかの情報を持っていると睨んでいるが、かたくなに口を割らない。
まるで誰かに脅されている様に・・・な」
その口から出た内容は、
その生徒が何かを知っているのに誰かに口止めを強要されているのが解っている節があった。
「ねえ、ミハル。彼の口から聴き出せないかな。
マモル君は一体誰に連れ出されてしまったのか・・・」
リーンが暗に学校へ向ってくれないかとお願いしてくる。
「そうですね、皆さんが出向けば、きっと警戒しますものね。
私ならマモルの姉ですから不自然じゃないですし・・・」
納得したミハルがリーンに了承して答えると、
「そうか、行ってくれるかねシマダ君」
ファブリットも快諾したミハルに眉を挙げて喜んだ。
「はい、この件は私の肉親の事ですから。
出来る事をするのは当たり前です。
遠慮なさらずに申し付けて下さい」
そう答えたミハルにバレン中尉が一枚の写真を手渡す。
「これがその生徒だ。
二学年のライネ・ダグラムという男子生徒だ。一年からの同室者だと言う事なのだが」
ミハルの観る写真の生徒は男子にしては長めの髪をした細面の利発そうな顔をしていた。
写真を見ていたミハルにリーンが話を変えてきた。
「ねえ・・・ミハル。今晩ちょっと私に付き合ってくれない?」
リーンが困った様に頬を指で掻きながら訊いて来る。
「え?今晩ですか?何か重要な事でも?」
聞き返すミハルに言い辛そうなリーンが、
「うん。どうしても一人じゃ居辛いんだ」
「?」
ミハルがきょとんとした顔でリーンを見ていると。
「はっはっはっ。
マーガネット姫、それではシマダ君も解りかねますよ。はっきりと仰らねば」
ファブリットがリーンのはっきりしない態度を見て助け船を出す。
「シマダ君、今晩ここ宮殿で式が執り行われるのだよ。
そこにマーガネット姫のボディガード役として付き添ってもらいたいと言う事なのだ。
頼めるかね?」
ファブリットが言った意味が良く解らないミハルが更に眼をパチクリとしていると、
「つまり、シマダ軍曹は・・・
マーガネット姫の侍女として式に出席してくれと言う事だよ、解ったかな?」
白銀の狼と異名を採っていたファブリットが、目じりを緩めて教えた。
リーンのボディガード役を仰せつかったミハルは、
それまでの間にマモルの手がかりを掴む為、学校へと出かけた。
次回 久しぶりの学校
君は卒業以来の学校で何を見るのか