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魔鋼騎戦記フェアリア  作者: さば・ノーブ
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魔鋼騎戦記フェアリア第2章エレニア大戦車戦Ep4闘う意味Act8愛しきえにし

彼の母の前で涙を流す・・・


その真実を知らせた後に・・・


エレニアであった本当の現実を。

一滴ひとしずくの涙が頬を濡らす。


ー  涙・・・涙なんて、もう枯れ果ててしまったと思っていたのに・・・


頬を流れる涙に気付いて目の前に居る人を見詰める。

その女性は優しい瞳で我が子を見詰めるように手を指し伸ばし、頬の涙を拭ってくれる。


ー  お母様。あたし、あたしは・・・


「泣かないでキャミー。私の娘、あの子が愛した私の唯一人の娘」


キャミーの涙を拭ってくれる優しい女性。


初面識でいきなり息子の許婚だと言われたのに、

その言葉を受け入れてくれたバスクッチの母。




今、キャミーはバスクッチの故郷で彼の遺品を届けるべく、目の前に居る女性の元へとやって来た。


「ウォーリアは・・・死んだのですね・・・」


キャミーが彼女と会った時、何も言わないのに母親がそう言った。


キャミーは会う前にいろんな事を考えてから会う決心をしていた。

初めは何と話し掛けようとか、どこで彼の死を知らせようとか・・・

でも、キャミーの顔に全てが現れていた様だ。


「どうして、そう思われるのですか、お母様?」


俯くキャミーが訊く。


「あなたがキャミーさんですね。

 ウォーリアの手紙にあった姿そのものですもの。

 私が思っていた通りの娘さんですからね。

 その方が一人で私の元へ来るのなら・・・。

 その大切な娘さんが思い詰めた顔をして私の元を尋ねられたというのなら。

 ・・・判ってしまったのよ」


バスクッチの母が遠い目をしてキャミーに答えた。


ー  ああ、ウォーリア。ごめんなさい。

   あなたのお母様に会えたというのに・・・。

   こんな酷い事を知らせてしまった。どうか許して・・・


キャミーの瞳に、涙が溢れてくる。


「お母様。今日訪れたのは、これをお渡ししたかったのです」


キャミーがバックから賞状とバスクッチの遺品を取り出して、差し出した。

それを受け取り眼を通した母が、キャミーに今一度目を向けた。


「ありがとうキャミーさん。どうぞ中へお入りくださいな」


受け取った賞状と遺品を手にした母親が、キャミーを招き入れる。


「それでは失礼します」


先に立って室内へ入った母に招かれて、キャミーも家内にあがった。


室内にはバスクッチの写真ともう一人の男性の写真が壁に掛けてある。

中にはその男性とバスクッチが、2人で収まった写真もあった。


キャミーがその写真を眺めていると、お茶を持って現れた母が。


「ああ、ウォーリアと父なんですよ。その写真に写っている人は」


どことなく似た風貌のその男性は厳しそうな顔をしてはいるが、

瞳だけは優しさを湛えている様に見える。


「ウォーリアの・・・いえ、バスクッチ大尉のお父様なのですね」


キャミーの前にお茶を煎れたカップを置いた母が頷き、


「ええ、そうなの。ガリオルっていったのよ。あの人・・・」


過去形で名を教えられて、キャミーが気付いた。


ー  ここに飾られてある数々の写真。

   どれもお父様とウォーリアばかり。

   お母様が写った写真は一枚も無い・・・まさか?!


キャミーが想像してしまった悪い事を母があっさりと言ってしまった。


「あの人が亡くなってからは、あの子だけが頼りだったのだけど・・・

 これも武人の務めですからね。覚悟はしておりましたのよ」


そう言ってからキャミーの向かいに腰を掛けて、同じ様に写真に顔を向けた。

そして忘れ物に気付いたように名をおしえる。


「キャミーさん。まだ名乗っておりませんでしたね。

 私はウォーリアの母、ロリアといいます。

 今日は遠い所をお越しくださって、あの子を帰して下さり本当にありがとう」


母ロリアに礼を言われたキャミーが顔を向けた時、

ロリアの手が震えてカップを掴めなくなっているのに気付いた。


ー  平静を装っていても、心の中は壊れてしまいそうな位悲しまれている。

   まして知らせたのがこのあたし。

   ウォーリアが何と言って知らせていたのか解らないけど、

   多分手紙の中であたしの事を教えていた筈だから・・・


「あの子の父、ガリオルも軍に所属していたの。

 歳も歳だから前線には出れないけども、陸戦騎の開発に携わって技術本部に属していたわ。

 けど技術本部の爆発に巻き込まれて・・・

 あの子が陸戦騎部隊に志願し直したのも、それが影響したのかもね」


2人の写真を見詰めるロリアが思い出すようにキャミーに言った。


「お父様も陸戦騎乗りだったのですか・・・」


真っ直ぐロリアの顔を見てキャミーが訊く。


「ええ・・・

 彼が乗り始めた頃は、まだまだ戦争になんて使えるような物ではなかったんだけどね。

 外国から技術を導入したこの国ではね」


なんとか震える指でカップを持ったロリアがお茶を飲む。


「知りませんでした。

 ウォーリアはご家族の事をあまり話してくれませんでしたから」


キャミーがそう答えるとロリアが微笑みながら訊ねる、バスクッチの事を。


「ねえ、キャミーさん。

 逆に私は知らないの、あの子がどんな軍人だったかを。そして、最期を・・・」


ロリアの言葉にキャミーはここへ訪れた本当の理由を思い出す。


そう、それはバスクッチの最期をご家族の方へ教える為。

自分達を護り抜いた、最愛の人が選んだ死の行動を。

キャミーは解っていても、それを口に出す事を躊躇った。


語りだそうとしては口を閉じ、閉じては開く。

それはあまりに辛く、あまりに悲しい真実。


「キャミーさん。あなたはあの子をどう思っていたの?」


突然話し掛けられたキャミーが我に返る。


「そ、それは・・・愛しい人だと・・・想っています」

「そう?それだけ?」


ロリアに問われて顔を上げて見詰め返し、


「それだけ・・・とは?」


質問の意味を問う。


「・・・愛しい人だというだけでは結婚なんて出来はしない筈だから。

 あの子はあなたを生涯の伴侶に選んだと書いて送って来たわ。

 ・・・あの子が送って来た手紙にはあなたの事が色々と書かれてあった。

 最初に言ったでしょ、お会いした時あなたがキャミーさんだと直ぐ解ったと。

 あなたはどう?

 ウォーリアの事を愛しているだけで結婚しようと決めたのかしら?」


ロリアの話にキャミーは驚き、そして感動した。


ー  ウォーリア、ありがとう・・・


心の中で最愛の人に礼を言ってから、


「いつも傍に居たいと、いつもお互いの事を想っていたいと・・・

 ずっとずっと一緒に居たいと願っていました。

 それがあたしのたった一つの願いでした」


本心をロリアに教えた。


真っ直ぐ見詰めて話したキャミーの顔を微笑んで見返したロリアが。


「キャミーさん、一つ訊いてもいいかしら。

 あなたはこれから何の為に生きていくのかしら。

 大切な人を失ったあなたが・・・

 たった一つの願いを失ったあなたは、

 これからどんな理由でまた戦いの中に身を置けると言うのかを・・・教えて欲しいの」


ズキリと胸に響くロリアの言葉にキャミーは一瞬戸惑った。


ー  そう。

   ウォーリアを失ったあたしが闘いに戻ったとしても

   生きていく理由なんてない・・・筈だった。

   けどウォーリアと約束した。

   必ずウォーリアの分まで生きて、彼が望んだ事を見届けると。

   それがあたしのたった一つの願い。

   ウォーリアとの約束を果すのが、今のあたしが闘いに戻る理由・・・


キャミーは顔を上げて答える。

その彼を失った者同志として、その母に。


「・・・お母様、あたしは失ってはいません。

 彼も、あたし自身の願いも。

 だから、たった一つの願いを果たす為にも戻ります。

 それがウォーリアとの約束ですから。それがあたしの闘う理由なのですから」


真っ直ぐな瞳でロリアを見詰めて答えた。

暫く2人はただ無言で見詰め合った。


「そう、あなたはあの子とお似合いね。正直で真っ直ぐな心を持った立派な人だわ」


ロリアが二人の仲を認め、嬉しそうに微笑んだ。


微笑みを絶やさずに、キャミ―へ最初に求めた事を願ってきた。


「さあ、キャミーさん教えてくださいな。あの子がどんな最期を迎えたかを」


ロリアがたった一人の息子の最期を、如何にして亡くなったのかを知りたがった。

最愛の人を失った者同志が、その心を求め合う。


キャミーがロリアに微笑み掛けて軽く首を振り、


「いいえ、お教えするのは最期を迎えた時ではなく。

 彼がどう生きたのかをお話します。

 あたしが知っている彼の・・・ウォーリアの生き様を・・・」


キャミーが、ロリアの瞳に語る・・・その真実を。

彼と共に闘い、そして愛した本当の生きた証を・・・・・。


挿絵(By みてみん)






ミハルはミリアと別れ、一人皇都にやって来た。

そして、メモに書かれてある「皇王守護親衛隊本部」へと出頭した。

そこで待っていたのは・・・


次回 皇都へ・・・

君はなつかしの都へ足を踏み入れる。そこで待つ運命を知らずに・・・。

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