魔鋼騎戦記フェアリア第2章エレニア大戦車戦Ep4闘う意味Act4ウエンタムの港街
ミハルとリーンは休暇を利用してユーリ大尉の救出の為、皇都に向う。
その途中ミハルはミリアの故郷ウエンタムに寄っていく事にした。
ミハルと一緒に自分の故郷に着いたミリアは喜び浮かれていた。
キャミーをバスクッチ大尉の故郷へと送り出し、
3人は連れ立って皇都行きの列車に乗り込んだ。
皇都まで後二駅の所で、ミリアと共にミハルは駅に降りた。
「じゃあミハル、皇都で待っているわ。
皇都へ着いたら誰にも会わずに、真っ先にファブリットの元へ来て。
そこで落ち合いましょう。
彼は今、ここに居るらしいわ」
リーンがメモをミハルに手渡す為に窓から身を乗り出して教えた。
「・・・皇王守護親衛隊、本部・・・ですか」
メモを見て呟くミハルにリーンが一言付け加えた。
「そう。そこには私達と意を同じくする人達が集っているから。
そこへ出頭すれば安心よ。中央司令部は手出し出来ないからね」
ミハルが不安げな顔をしていたのでもう一言付け加えた。
「親衛隊って言っても、尋ねにくい所じゃないのよ。
特に私達、魔鋼騎士には・・・ね」
リーンが騎士章を摘んで見せて、軽くミハルにウインクした。
「あっ、成る程。そう言う事なんだ」
どうしてリーンが皇都へ向うのに胸に騎士章を着けていたのかが解った。
一万人に一人と呼ばれる魔鋼力を持つ特別な人間。
しかもその魔鋼騎乗りとして優秀な者にしか与えられない騎士章。
それを身に着けている事だけで周りの人達の見る眼が変る。
譬え下士官だとしても並みの士官よりずっと待遇が良くされるのが、ここフェアリアの軍隊の常識。
「ふふっ、解ったかしら。
折角だからミハルも着けてみたら。
きっとミリアの故郷でも優遇してくれるんじゃない?」
((ポーッ))
駅舎に汽笛の音が響き、列車が動き出した。
「じゃあね、ミハル。
先に行って待っているから、くれぐれも真っ先にその場所に来るのよ!」
リーンが窓越しにミハルに注意する。
「はい、リーン。待っててね、直ぐに行くから」
遠ざかるリーンにミハルとミリアは手を振って見送った。
「さてと。先輩、行きましょう。こっちですっ!」
ミリアはニコニコと笑ってミハルの手を引いて歩き出した。
「うん。行こうか」
手提げ鞄を手に持ったミハルがミリアに案内されて街へ出た。
ミリアの故郷ウエンタムは皇都に近い事もあってなかなかの賑わいがあった。
街は目抜き通りを中心に商業で発展した事で知られている。
戦時下でなければもっといろんな商品が並んでいた事であろう。
「へー。ここではまだ男の人も沢山いるんだ。エンカウンターとは大違いだね」
ミハルがミリアの後ろをゆっくりと歩く。
「はい、ここは海も近いですから、海兵も多く居るんですよ」
確かにセーラー服を着た海兵達が数人商店で買い物をしていたりする。
「ほんと、海軍さんも居るんだね。ここから海までどれ位あるの?基地が近いのかな?」
「はい、西ウエンタムには海軍の工廠がありますしね。ここから20キロ程の所ですよ」
ミリアの説明に頷いて店の海兵を見ていると。
「おいっ君達っ!」
突然後ろから声を掛けられた。
その声に振り返ると、見知らぬ海軍下士官が立っていた。
「君、もしかしてミリアか?横丁のミリアじゃないか!」
青年下士官がミリアに走り寄って話しかけて来た。
「えっ?もしかしてバンダ兄さん?うそっ!見違えたよ」
走り寄った青年にミリアが驚く。
「はははっ、それはこっちも同じだよ。
すっかり大人になって、見違えるほどに。久しぶりだなあ!」
懐かしそうに語り掛けるこのバンダと言う青年下士官にミリアが苦笑いを浮かべる。
「大人になってって・・・2年ぶりだねバンダ兄さん」
「ああ、そうだねミリア。元気にしていたようだね、良かった」
そういいながらミリアの頭を撫でていたバンダ一等海曹が横に居るミハルを見て。
「あ、連れの方が居られるのに申し訳ない。こちらは?」
ミリアにミハルの事を訊くバンダ一曹。
「うん、ミハルせん・・・いえ、シマダ・ミハル軍曹。私の上官だよ!」
そうミハルの事を紹介を受けたバンダ一曹が海軍式の敬礼を贈り、
「シマダ軍曹。
自分はウエンタム海軍基地所属、
海防艦ラマティン乗員、ラードル・バンダ一等海曹と申します。
ミリアがお世話になっております」
自己紹介をする。
ミハルも敬礼を返すと身分を告げた。
「いえ。お世話なんて・・・
私は陸戦騎独立第97小隊隊員、シマダ・ミハル軍曹です。宜しく、願います!」
自己紹介が終ると、2人は敬礼を解く。
「で、ミリア。ラードル一曹とは?」
ミリアに間柄を聞くミハルにバンダ一曹が口を挟んで来る。
「幼馴染なんですよ。2つ年下の」
またバンダ一曹がミリアの頭に手を載せて笑った。
「う。いつまでも子供扱いして。
私は成長したの。もう何度も実戦を経験して来たんだから。
昔の私じゃないんだからっ!」
ミリアがいつまでも頭に手を置くバンダ一曹に噛み付いて自分が大人だと言い張った。
「ははは、そうかい。確かに見違えた位だからなぁ」
ミリアにそうは言っても、バンダ一曹は懐かしそうにその顔をずっとミリアに向けている。
「あ、私。ちょっとその辺をぶらついて来るね」
2人を見てミハルは気を利かせるつもりでそう言ったが、
「いや、軍曹。私の事は気にせずに。どうぞお2人で」
バンダ一曹が逆に気を使ってくれる。
「私はそこの部下と共に、上陸しただけですから」
バンダ一曹は商店で買い物をしている海兵に目を向けて断わってくれる。
「そうなの?バンダ兄。一緒にお茶でも飲まない?」
ミリアが少しだけなら一緒に積もる話をしたいと思って、
目の前にあるオープンテラスに顔を向けた。
「そうですね、私も海軍さんの話を聞いてみたいです。ご一緒しませんか?」
ミハルはバンダ一曹に微笑みかけて勧めた。
「はあ。それではご一緒しましょうか」
部下の方をチラリと見て、まだ買い物が終りそうにないことを確認して了承した。
3人は商店が見える所に座るとウエイターにお茶を注文して話し出した。
「ねえ、バンダ兄。部下を預かる身にまでなってたんだね。
僅か2年で一曹になるなんて・・・一体何があったの?」
ミリアが善行章二本のバンダ一曹に訊く。
しかし、訊かれたバンダ一曹は、瞳を曇らせて答える。
「ミリア。僕は地獄へ行ったんだ。戦場と言う地獄に。
我々海軍は知っての通り、兵力が少ない。
艦隊と言っても主力の海防戦艦2隻ではロッソアの北海艦隊とは力の差は天と地ほどある。
それでも僕達は敵を迎え撃った。
とても勝ち目の無い艦隊戦だったんだ・・・」
バンダ一曹が、遠くを見る様な瞳をしてミリアに教える。
ウエンタムでミリアの幼馴染バンダ一曹と語り合うミハル。
部下に買い物を任せていた一曹の話に自分達と同じだと感じていた。
次回 海でも、陸でも
君は海の人に教わる。何処でも戦争は悲劇を生むと・・・