魔鋼騎戦記フェアリア第2章エレニア大戦車戦Ep4闘う意味Act1私が班長?軍曹?
エレニア平原の戦闘からエンカウンターの基地へと戻った第97小隊。
そこでミハル達搭乗員はひと時の休息を得た。
だが・・・
激しく傷ましい身体の傷も、心の傷も容易く癒される事は無かった。
近づいてきた影から呼びかけられた。
「軍曹!軍曹ってば。ぼーっとしている場合じゃありません!」
真新しい下士官服を着た、黒髪の少女の背後からミリアが呼び掛ける。
その左腕には魔鋼騎士の特技章と経年章一本が着いている。
呼び掛けても振り向かないその下士官対して。
「軍曹ってば。・・・ミハル軍曹ぅっ!」
つい耳元まで近付いて、大声で呼んでしまう。
「えっ!?な、何かなミリア?」
ビクッと身体を震わせて振り向いたミハルが慌てて訊き返しながら。
「ああ。そうだった。私、軍曹だったんだだっけ」
自分が呼ばれていた事に気付いていなかったのを、口に出し髪を掻く。
「もう、何を寝惚けているのですか、軍曹。シッカリして下さいよ」
ミリアは腕を組んでミハルを叱り付ける。
「あはは、ごめん。軍曹って呼ばれても、ピンとこないから。
だってついこの間まで一等兵だったのに、兵長になって1ヶ月程で軍曹になっちゃったんだもん。
任官試験だって受けてないのに・・・」
年下のミリアに叱られて両手の指をもじもじさせて、口篭もるミハルが苦笑いして誤魔化した。
「はいはい。ミハル先輩はもう下士官なのですから。
私達の班長になられたのですから、もう少し自覚と言う物を持ってですね、・・・グダグダ・・・」
下士官のミハルが兵長のミリアにくどくどと説教をされている図は、
傍から見れば異常な光景かもしれない。
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ここエンカウンターの古城へ戻った第97小隊は新車両を受け取り、
機種改変を行う為に整備班が物資の補給と部品の調達の為、出払っていてガランとしていた。
久しぶりに戻った基地で、寛ぐ暇も無く次なる作戦の為に戦備を整える小隊員達の中で、
搭乗員だけがエレニアで受けた傷を癒していた。
「ですから軍曹と呼ぶ事にしたのです、解りましたか。ミハル先輩」
クドクドと文句を垂れているミリアの話しが漸く終った。
「はあ、何となく。解ったような・・・・はい」
じろっとミリアに睨まれてしぶしぶ了解した様な気のない返事をするミハルへ。
「で、先程の話ですが。軍曹はどうされるのです?休暇の件」
「えっ?えっと、私は・・・」
休暇と言われてミハルは返事に困る。
エレニアで闘い終えた時の事を思い出す。
ー あの大戦車戦での勝利で、エレニアに居た敵部隊が撤退を始めた。
我々の思惑通りに。
そして市街戦を嫌って攻撃を掛けず重砲の砲撃だけを行った結果、
敵残存兵力も降伏して来て、エレニアは我が軍の手に墜ちた。
私達、戦車隊は部隊の再建の為に一時的に後退する時間を得られた。
大切な人達の命と引き換えに・・・
ミハルは闘い終えて小隊整備班の元へ戻った時に、記憶を呼び起こした。
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「バスクッチ・・・が?死んだ・・・だと?」
マクドナード曹長が、虚ろな瞳を向けて呟いた。
「はい・・・本当です。
少尉は私達の盾となって、身替りとなって亡くなられました」
ラミルの声を何処か遠くで聞いている様な顔でマクドナードが聞いていた。
整備班が損傷箇所の修理をする中、
ラミルとマクドナードが小隊員テントのほうを見て話し合っていた。
そのテントの中では・・・
「キャミーさん。これを・・・」
ミハルがキャミーにバスクッチ少尉の襟章を手渡していた。
「ミハル・・・すまない、ありがとう。でも、暫く一人にしておいてくれないか?」
テントの中で横になっているキャミーが手渡された少尉の襟章を握り締めて、
ミハルに一人にしてくれと頼んだ。
「判りました。何かいるなら呼んでください」
テントから出る時、振り返らずに背中越しにキャミーへ声を掛けたミハルに、
「ありがとう、ミハル」
泣き声で礼を言ったキャミーが一頻り大きな泣き声で愛した者の名を呼ぶ。
「ウォーリア、ウォーリア・・・ウォーリア」
ミハルはキャミーの叫びを背中に受けて唇を噛んだ。
痛む右足を引きずる様に前へ進ませて、その場から離れ自車両へと戻った。
「ミハル。話しが有るの・・・」
リーンが車体の陰へ招く。
「はい、なんでしょうか?」
リーンの傍まで近寄ると、リーンが暗い顔をして見詰める。
「再出撃する時、こんな電報を傍受したの。バスクッチ宛なんだけどね」
リーンがポケットからメモを取り出してミハルに渡す。
バレン中尉からの電報を傍受したキャミーが出撃直前にリーンに渡したメモだった。
手渡されたメモに眼を通したミハルが、
ー ああ、本当だったんだ。
戦いの最中私の前に現れたバスクッチ少尉とアルミーアが伝えてくれたのは本当の事だったんだ
ミハルはその電報のメモをリーンに返すと。
「中尉、これからどうするのです?
ユーリ大尉を解放させなければなりませんね。一度皇都へ行かれるのですか?」
ミハルの言葉使いに何も動揺を感じられず、リーンの方が驚く。
「えっ!?何言ってるのミハル。電文を読んだの?
これはどう見てもミハルの弟君を指しているのよ。
その子が失われたって事は・・・
直ぐにファブリット中将と連絡して真実を確かめないと。
ユーリ姉様のことは大丈夫だと思うから・・・ね」
思わずミハルの肩に手を置いてマモルの事を優先させるリーンに対し、
「いいえ、リーン。
マモルは少なくても死んではいないから。
そして私の両親も死んではいないから。
3人の事は今直ぐどうにかなる訳でもないから・・・」
真っ直ぐな瞳でリーンに返すミハルに更に驚きを隠せなくなる。
「どうして?
・・・どうしてそう言切れるのミハル。あなたは何を知ってるの?」
信じられないといった顔で問い掛けるリーンに右手を差し出したミハルが。
「ねえ、リーン。私達って<双璧の魔女>の継承者なんだよね。
この宝珠が教えてくれたんだよ。
お父さんもお母さんも、そしてマモルもまだ死界に来ていないって。
だから、大丈夫なんだよ。
私は信じる、信じているからみんなの事を」
「・・・みんな?それは?」
リーンが知りたがる。
「それはね。私を護ってくれている・・・大切な人達。
死んでも私を護ってくれている人達の事だよ。」
ミハルの右手の宝珠を見ながら聞いていたリーンは思った。
ー ミハルを護ってくれているのは、死んでもそう願った者達。
私達を護る為に死んで行ったバスクッチ達・・・そうなんだね、ミハル?
「そう・・・か。知っていたんだね、教えて貰っていたんだね、ミハルは」
リーンはミハルの言葉を信じた。
有り得べからぬその魂との交わりと結びつきを。
「はい、だからリーン。
姉姫様を助けましょう。中央軍司令部に捕われたユーリ大尉を!」
ミハルの勧めに頷くリーンが、
「うん、ミハルの言う通りだね。それにはまず、情報を集めないと。
闇雲に皇都へ行けば、逆に捕われてしまうかもしれないし」
今直ぐに皇都へ向う訳にはいかないと断わりをいれる。
「そうだね。まずは情報の収集から始める方がいいね。じゃあ、バレン中尉には?」
どう答えるか訊ねるミハルに。
「ミハル・・・彼には連絡しない方がいいと思うんだ」
リーンは瞳を伏せて内密にしようと言った。
「・・・それで誰から情報を得るの?」
情報源を誰にするのかを訊くミハルに、
「彼の父、ファブリット中将に頼んでみる。
上手くすれば中将が皇父様に知らせてくれる。
そうすれば皇都へ向わなくても姉様を助けられると思うから」
バレン中尉の父が、ファブリット中将である事を教えた。
リーンの瞳が、僅かな希望の色を浮かばせていた。
2人がMMT-6の横で今後の行動を話し合っていると・・・
「中尉殿、ミハル兵長。
師団司令部へ出頭せよと言ってきました。直ぐに本部へ行ってください」
伝令が駆け付けて命令を下達する。
「師団司令部に?解りました、今行きます」
リーンが伝令に復唱して了解した事を告げミハルを促す。
「何の話だろう?ミハル、行きましょう」
伝令の後について、二人で歩き出した。
「また、偵察にでも行けと命令されるんじゃあないのかな?」
ミハルが痛む左足を気にして顔を曇らせる。
「うーん。それは無いと思うけど・・・痛む?ミハル」
左足を少し引きずる様に痛みに耐えているミハルを気遣って声を掛けたリーンに、
「えへへ、少し。でも大丈夫、直ぐに治すから」
強がるミハルに微笑み掛けて、
「私が治してあげるから。少しの間、我慢してね」
そう言うと、手をミハルの肩に廻して並んで本部へ歩いた。
エレニアでの戦闘の直後、リーンとミハルは師団本部に出頭する。
そこで師団長から教えられた事とは・・・
次回 死せる恩人
君は心の中で大切な人の思い出に涙する
ここまでお読み下さりありがとうございます!
今話からEp4闘う意味 が、始まります。
このEp4では、戦車戦より銃撃戦がメインとなります。
そして、剣と魔法もファンタジーらしく出てまいります。
新キャラも登場し、なにやら賑やかな展開になって行く予定(もう決まってますが)です。
ここでミハルの軍装について。兵服から軍曹になり、どう変ったのか?
まず下着がカッターになり、ネクタイを締めています。これは士官と同じですね。
そして腕章に善功章。ミハルはまだ一年しか軍隊経験がないので一本だけです。
そして襟章が黄色に・・・解らん。
そしてミハルだけですが髪を括っているリボンが太くなりました!
でわっ!
これからも「魔鋼騎戦記フェアリア」を、宜しく応援してください。 拝! さば・ノーブ