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魔鋼騎戦記フェアリア  作者: さば・ノーブ
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魔鋼騎戦記フェアリア第2章エレニア大戦車戦Ep3エレニア平原Act41エレニアの落日

挿絵(By みてみん)


闘い済んだミハルは自分の行為が正しかったのか問い掛ける。

トドメの一撃で乗員を殺さなかった事を。


優しさが強さの証だと教えられて取ったその行為を・・・


光の中に優しき魂が集っている。


<ターム。アルミーア。これで良かったのかな。

 あの人を殺さなくても良かったのかな?

 これでも仇討ちになるのかな。

 私の独りよがりだったのかな?>


涙を零しながら自分を護る為死んで逝った大切な人達に心の中で訊くミハル。


<苦しまないでミハル。

 あなたの想いは、願いは必ず届くよ。

 だから顔を上げて、前へ進むんだよ。

 私達の分まで生きて、生き抜いて。それが約束でしょ?>


タームが微笑み掛ける。


<ずっと覚えているよミハル。あなたとの約束。

 どんな事があったって諦めないで、あなたの願いを。

 恨んだり憎しみ遭う事が、どんなに不幸を招くのかを知っているあなたになら出来る。

 私は信じているからミハルを>


アルミーアが笑顔のままミハルの辛い心に光を与える。


<ありがとう、ターム、アルミーア。みんな・・・>


光の中に自分を見詰めて笑い掛ける大切な人達の姿が現れる。

その誰もが笑顔のまま光の粒となって消えていった。


「ありがとう・・・」


ミハルは誰言うとも無く呟く。



「え・・・?痛くないんですか、先輩?」


気付くとミリアが足の傷に消毒液を塗っていた。


「んっ?えっ?・・・いっ、痛たたたたぁっ!?」


気付くと左足に激痛が走って、ミハルは砲手席から跳び上がった。


「ほ、ほらっ。じっとしてて下さいよ。包帯巻きますからっ」


突然跳び上がられて驚いたミリアが、ミハルの足を掴んで包帯を巻いた。


「くう、イタタタ。そっとしてよミリア」


今迄と違い、痛みの為によって涙が出る。


「むう。これでも優しく巻いてあげてるんですから」


ミリアが心外だと言わんばかりに口を尖らせて拗ねた。


「あ、ごめんねミリア。手当てしてくれてありがとう」


機嫌を損ねたと思ったミハルが慌ててお礼を言った。


「私はいいですけど・・・」


ミリアが眼で無線手席を指し、ミハルにキャミーの状態を知らせる。


キャミーは失神から気付いていたが眼の焦点が定まらず、何かをずっと呟いている。


ー  キャミーさん。

   バスクッチ少尉を失ったショックで、自我が崩壊してしまってるんだ


ミハルの眼にもキャミーが精神的におかしくなってしまった様子が見て取れる。


ー  そうだ、リーンは?リーンはどうしたんだろう?


ミリアに包帯を巻いて貰ったミハルはキューポラを振り仰ぐが、そこにリーンの姿は無かった。


「あれ?リーンは・・・リーン中尉はどこ?」


ミリアにリーンの居場所を訊くと、下を向いて悲しそうな表情で答えた。


「・・・ラミルさんと、撃破された・・・車両の確認に行かれています」


ー  撃破された・・・車両。バスクッチ少尉、アルミーア!


そこまで考えた時には身体が勝手にキューポラから飛び出していた。

キューポラから飛び出したミハルが見た物は、

いまだに煙を上げている車体と、その脇に転がる砲塔だった。


挿絵(By みてみん)


ー  あ、ああ。こんな事って・・・


転がり天地がひっくり返った砲塔の傍で、

立ち尽くしているラミルと膝を付いて泣いているリーンの姿が、

夕日に照らされて長い影をエレニアの平原に伸ばしている。


ゆっくりと左足を引きずり、二人の傍へ歩くミハルは恐かった。

バスクッチとアルミーアの遺体に会ってしまうのが・・・


「ミ・・ハ・・ル」


リーンがミハルの影に気付いて顔を上げる。

涙でぐしょぐしょになったその顔を。


「ミハル・・・」


ゆっくりと歩んで自分の前を通るミハルに、

ラミルが呼び止めて手を差し出したがその手を退けてそのまま砲塔へと近付いて行く。


ミハルの眼に砲塔傍に二つの()が写る。


「あ・・あ・・・あ」


言葉にならない声を詰らせて、

その変わり果てた物質モノを見るミハルの瞳から涙が零れ落ちた。


「ミハル・・・信じられない、こんなのって」


リーンがミハルを見上げて話す。


だが、ミハルは2人だった物に更に近付き、

その姿に眼を見開き見詰め続ける。

うつろな瞳のまま。


「車体内の砲弾が誘爆したんだろう。

 一瞬で爆死したんだと思う。

 でも、奇跡だよ。普通なら火炎で焼かれたっておかしくないのに・・・」


ラミルが2人の遺体の状態から推測してミハルに教える。

しかし、ミハルの耳にはラミルの声は届いていなかった。

ただ、変わり果てた2人の姿を見詰めて立ち尽くしていた。


ー 辛かった?苦しかった?こんな姿になってしまって・・・


凄まじい誘爆が2人を襲ったのだろうと、ミハルは思った。

ミハルの眼には、上半身だけとなってしまっている2人の姿が映っている。


「バスクッチも、アルミーアも何を想っていたのかな。死ぬ瞬間に・・・」


リーンが呟く。

2人の顔を見て。


「あ・・・ああ・・・」


言葉にならない声を出し、ミハルはアルミーアだったその亡骸に寄り添って跪く。


すすで汚れたその顔は、

誰かに微笑みかけたままの安らかな表情をして薄く目を開けたままだった。


「あ・・・あああっ・・アル・・・アルミーア・・・」


自分を護る約束を果たせた想いなのか、

その表情は満足した子供の様に穏やかだと、ミハルは思う。


その顔に付いた煤を手で拭って気付いた。


「冷たい・・・冷たいよアルミーア。

 アルミーアの頬がこんなに冷たくなってしまったよ」


((ポツ・・・ポツ・・・))


煤を拭ってあげているアルミーアの顔に、ミハルの涙が降りかかる。


その微笑む瞳をそっと指を添えて閉じた。


「アルミーア!ごめん。ごめんね・・・ごめんなさい!」


その顔に何度も謝り続け、泣き崩れてしまった。


挿絵(By みてみん)






それからどれだけの時が過ぎたのだろうか。

ミハル達は5人分の遺体と遺品を載せて、陣地へと戻った。


第97小隊の搭乗員と、バスクッチ小隊の生き残り達は、

小隊長以下5人の戦死を報告し、墓を立て埋葬する事にした。

エレニア平原が見渡せられる小高い丘の上に5本の卒塔婆にそれぞれの名を書き記した。


戦車戦での勝利に沸き返る師団とは反対に、

静まり返った丘の上で全員が別れの敬礼で5人の魂を弔う。

ミリアが吹く鎮魂のラッパが、より寂しさを募らせていた。


「さよなら、バスクッチ少尉。

 ありがとうアルミーア。

 お休みなさい・・・みんな」


もう涙も枯れ果てた瞳は、2人に永き別れを告げていた。


「5人の英霊に対し、頭ぁー中っ!」


リーン中尉の号令で、全員が最期の敬礼を贈って別れを惜しんだ。


  ザッ!


涙の枯れたミハルは、理不尽な戦いがまだ続くと知っていた。


ー いつの日にか、自分も・・・


だが、たった一つの約束を果たし終えるまでは死ねないと夕日を見詰めるのだった。


挿絵(By みてみん)




闘いは常に無情である。


どんなに想っている人にも突然不幸が訪れてしまう。

それが戦争。


そして、ここが戦場だと言う事を教える。

第97小隊の各員は、改めて戦争の理不尽さを思い知らされる。


闇の帳が近付くエレニア平原に小雪がチラついていた。


挿絵(By みてみん)

(2018年3月挿絵追加)

ミハルは自分達の身替りとなって果てた大切な人達を想って泣き崩れた。

涙も枯れ果てたその瞳に、沈み行く夕日に照らされた墓標が映る。

第97小隊は激しかった闘いの傷跡を癒す為、エンカウンターの基地へと戻って行った。

エレニア大戦車戦Ep3エレニア平原 END

次回予告

Ep4 闘う意味

エレニアから引き上げた第97小隊。

搭乗員は基地で整備される新車両MMT-6と共に、一時の憩いの時を過ごしていた。

整備班が新車両の補給品を受領する為出払っている内に、休暇を取る事になった。

リーンはミハルと共にユーリ大尉の救出を志し、皇都へと向う。


このEp4では、戦車戦は殆ど出てきませんが

代わりに魔法と銃撃戦がメインの戦闘シーンでお楽しみ頂きたいのです。

勿論、ミハルとリーンが主人公ですけど。

ミコトやリイン、それに新キャラも登場して、賑やかな話になる事と思います。

それでは、次回からのEp4闘う意味 に、御期待下さい!


皆様の応援に感謝を込めて・・・・拝!    さば・ノーブ

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