魔鋼騎戦記フェアリア第2章エレニア大戦車戦Ep3エレニア平原Act40Last Shot(ラストショット)
悪しき紋章を浮かべた敵魔鋼騎駆逐戦車との最後の勝負に挑むMMT-6。
今、青き瞳のリーンと青き紋章を額に浮かべたミハルの力が合さる・・・
悪しき色を紋章に湛えた魔鋼騎駆逐戦車SU-152が再び動き出し、闇の紋章を更に浮き立たせる。
その巨大な155ミリ砲をMMT-6に向ける為に旋回し続ける。
駆逐戦車が前面装甲を盾にする為に、正面を向け様とする姿がラミルの瞳に映し出される。
「ミハルっ、まだか?奴が正面を向けてしまうぞ!」
ラミルの絶叫が車内に響く。
「足を止めろっ、早く撃て!
でないとこちらに正面を向けてしまうぞっ!」
「負けない。負ける訳にはいかない!」
ラミルの叫びにミハルは答える。
碧い瞳に力を滾らせて。
巨大な砲が、車体と共にぐんぐんとこちらに向って廻り込んで来る。
敵の信地旋回能力と、MMT-6のスピードの闘いは一瞬の間合いで決まる。
「距離1000!目標敵駆逐戦車側面下部!撃てぇっ!!」
リーンが見えていない筈なのに、ミハルに命じる。
その声は伝説の聖王女リインの声だった。
王女の声に弾かれる様に、ミハルの指はトリガーを引いた。
((グオオオオォーンッ))
10センチ魔鋼弾が、こちらを完全に捉えられる前に放たれた。
敵魔鋼騎の砲はMMT-6に指向されきれてはいなかった。
<勝負・・・あったなミコト。この勝負この娘達の勝ち・・・ね>
聖王女リインの魂がミコトに呟く。
1000メートルの距離から放たれた砲弾が、
あっという間に駆逐戦車側面下部に吸い込まれる様に命中し、
闇の紋章に罅割れが入る。
((ガッ ガガンッ))
転輪と共に再びキャタピラが切れ、側面下部に穴を穿つ。
「まだよ!ミコト。奴は闇の紋章を浮かべているわ!」
リーンの口からリインの魂が叫ぶ。
「ああ、解っている。リイン!
闇を斬ってやるさ、この娘の手で。私の新しい槍でな!」
ミハルの口からも聖巫女の魂が応じた。
碧き瞳のリーンと、青き額の紋章を浮き立たせたミハルの力が合さる。
照準器の中で敵魔鋼騎駆逐戦車の後部側面が大きく写され、そこに十字線を当てて・・・
「リーン!みんなっ!力を貸してっ、私にみんなの力を貸してっ!
この一発に全ての力を注ぎ込んでっ!」
ミハルの指がトリガーに掛かる。
右舷のキャタピラを切られた敵が左舷のキャタピラだけで遮二無二旋回を続けて、
あくまで射撃しようと足掻いている。
ー もう、終わりにしよう。憎み合うのは。
全力で闘ったんだから。あなたも私も力の限り闘ったんだ。
何の悔いも無い筈でしょ。
だからこの一発で全て終らせよう。
友を奪われた事も傷つけ合った事も何もかも忘れようよ、許し合おうよ
ミハルの想いに宝珠の中でミコトが頷く。
ー ミハル。そうだよ、そうなんだ。
お前の優しさが強さの証。お前の力が優しさの証。
さあ!放て!
お前の求める未来へ向かう為に!勇気の魔法でっ!
ミコトの力で、タームもアルミーアも皆が一緒にミハルの心と一つとなる。
<さあ放て!
みんなの想いと一つとなって打ち破れ、闇の心を。
その穢れ無き想いで!>
戦巫女の力を発動させたミコトが手にしているのは、ミハルの想いが形になった聖槍。
古来の魔法力を秘めた新たな力の象徴。
「ミハル!決めるぞっ、この一発でっ!」
ラミルが叫ぶ。
側面に付けた車体を停止させて。
「ミハルっ!撃てっ!」
リーンが命じる。
ミハルの肩に手を置いたまま。
「先輩っ!決めて下さいっ!」
次弾を持たず、砲手席のミハルを信じるミリアも叫んだ。
ー 私の全てをこの一撃に込める。
みんなの力をこの一発に込める。
・・・そう、私達の未来の為に、約束を果たす為に。
たった一つの願いの為に!
照準器の十字線に側面後部エンジン部分を入れて、
「撃てぇっ!」
リーンがラミルがミリアが、そしてミハルが叫ぶ。
唯一つの想いを込めて・・・
ミハルの指がトリガーを引き絞った。
((ズグオオオームッ))
全ての想いと力を載せた魔鋼弾が砲から撃ち出される。
その弾はミハルの額の紋章を描いて飛ぶ。
聖なる巫女の紋章と共に、敵魔鋼騎に向って。
((ズドオオームッ))
敵が砲を放つ。
当らぬと知っていても撃たねばいられなかったかの様に・・・
闇の中で抗い果てるかのように。
((ガッ))
敵駆逐戦車の後部側面にミハルの放った魔鋼弾が突き刺さり、聖なる紋章をその車体へ叩き付けた。
((バッガガアアァーンッ))
ミハルの紋章が薄黒い敵魔鋼騎の紋章を打ち破ると共に、
エンジンが破壊され上部パネルが噴き跳び、炎が舞い上がった。
ー あの黒い紋章が消えた。
今見えるのは脱出する搭乗員達。もう邪な気は無くなったみたい。
良かった、これで良かったんだ・・・
照準器の中で炎上する車体から脱出する人影を見てミハルは思った。
「敵戦車炎上、乗員が脱出しました。撃破です」
ラミルが炎上する車体を観測して報告を入れる。
「そう。ならば戻ろう、バスクッチの元へ・・・」
リーンが悲しい声で命じる。
「はい。後退します」
ラミルも力なく復唱し、進路を変える。
「う、ううっ。ううう・・・」
呻き声を上げて砲手席で突っ伏したミハルに気付いたリーンが、
「ミハル?大丈夫!?ミハル?」
その肩に手を置いたままミハルを覗き込むと左足から血を流し、苦痛に顔を歪めているのが判る。
「足をやられたのね。
ミリアっ、救急セットを出して。ミハルの治療をするから!」
装填手のミリアに医療箱を取り出す様に命じるリーンの左手も傷を負っていた。
「私は大丈夫。傷が痛むより辛いから・・・
大切な人を失ってしまった事が辛いから・・・
お願いです、少しだけでいいから、このまま泣かせて下さい」
ミハルは砲手席で両手で顔を覆って泣き崩れる。
その姿をリーンとミリアは黙って見守った。
「リーン中尉、左手を出して下さい。止血しますから」
ミリアはリーンの傷から治療に掛かる。
「ありがとう、ミリア・・・」
ミハルを見詰めたままリーンがミリアの治療を受け、
「ミリア、ミハルの事もお願いね」
左手にガーゼを巻いてくれているミリアにそう言うと、ミリアは黙って頷いた。
ミハルは戦い終わったエレニアの平原で、皆の魂と語る。
これで良かったのかと。
傷ましい傷跡を身体と心に負ったまま・・・
次回Ep3最終話 エレニアの落日
君は大きな犠牲を払って生き残れた闘いの後に何を想うのか?