魔鋼騎戦記フェアリア第2章エレニア大戦車戦Ep3エレニア平原Act38決闘の刻 エレニア
ロッソアの駆逐戦車とフェアリアの重戦車との戦いは、周りの者を圧倒していた。
両軍は手を拱くというより、勝負の行方を固唾を呑んで見守っていた。
「敵まで距離3000。
敵はキャタピラを直して動き出しました!
信じられない。どうやって直したんだ?」
ラミルが紋章を浮かばせた敵を見て驚く。
「ラミルっ!敵の右舷へ行け!
敵が発砲したら、構わず突っ込めっ!」
リーンが語気を荒くラミルに命じる。
「は?はっはいっ!」
今迄感じた事も無いリーンの口調に戸惑いながらも、ラミルは命令を復唱する。
そのリーンを装填手のミリアは見詰めて思った。
ー なんだろうこの感じ。
リーン中尉が別の人みたいに思える。
そう、さっきまで、ほんの数秒前と全く違う人みたいに感じる
ミリアが少しだけリーンを見詰めて手を休めていると。
「ミリア、呆けていないで攻撃準備。魔鋼弾を連射する!」
ミリアに顔を向けることなく、装填準備を促す。
「は、はいっ!」
慌てて魔鋼弾を取り出すミリアに、
「ミリア、更に大きくなった弾で手を傷めないでね」
優しい言葉を掛けてくれるリーンに。
ー あれ?口調がいつものリーン中尉に戻った?
どう言う事なんだろう。まさか中尉って二重人格だったのかな?
ミリアはリーンの口調がころっと変わったので混乱した。
「距離2500!敵の砲が此方を捉えた。回避!」
ミハルが照準器で射線に捉えられた事に気付き、ラミルに回避を促す。
「くっ!」
全速で走るMMT-6を右へ行くと見せかけ、左に大きく舵を切るラミル。
しかし・・・
ー 駄目だっ、読まれていた!
ミハルの眼に、あらかじめ予測していたのか砲を右へ僅かに振る敵駆逐戦車から・・・
((ズッドオオオォーンッ))
必殺の155ミリ砲を放った。
敵魔鋼弾に軸線を載せられてしまっている事を知ったミハルは咄嗟に指を引き絞った。
((チキッ))
((ズグオオォーンッ))
長10センチ砲をその軸線に合わせて発砲した。
空中で155ミリ弾と10センチ弾が交叉する。
渦を巻く様に一瞬空気が圧縮され弾道に僅かな狂いが発生する。
((ガッ! ガギイイィーンッ))
((ビシッ ガガンッ)
砲塔側面を削り取って155ミリ弾が弾け飛ぶ。
その強烈な衝撃で砲手席内側に取り付けてあるビスが抜け跳び、車内に飛び散る。
左足に激痛が走るが、それに怯むミハルではなかった。
「くっ!リーン、大丈夫?」
照準器を睨んだまま、リーンの身を案じるミハルに。
「あなたこそ無事なの?ミハル」
その声に苦痛に耐えている感じがしたが、声を聞けた事に一応の安心は出来た。
そして、ミハルが放った弾は敵正面装甲に難無く弾き飛ばされてしまった。
ー 何て装甲しているの!?
こっちも最大魔法力で放った10センチ弾なのに。
奴を倒すにはやはり側面か、後ろに廻らないと撃ち抜けないっ!
「そうするにはやはり・・・
アルミーアが教えてくれた様に一時的にも動きを止めさせないと・・・」
呟くミハルが次弾の照準をキャタピラに合わせる。
ー でも停まって撃つと奴に撃つチャンスを与えてしまう。
敵の装填はこちらより遅い筈。だったら・・・
「ミリア!連続発砲の準備!奴の足を止めるっ!」
魔鋼弾を持って構えているミリアに装填準備の心積もりをさせて、
「ラミルさんっ!奴の右舷へ突撃っ!
リーンっ!盾の力を最大に。私は奴の足を撃ち抜くっ!」
揺れる照準器の中でピンポイント射撃を試みるミハルが2人に命じた。
ー ミハル。手伝おうか?
宝珠が心に語り掛けてくる。
「うん。お願いしますミコトさん」
思わず神官巫女に助けを求めるミハルに魂が訊ねてくる。
<・・・で、どう扱うんだ?この機械・・・>
「・・・あ・・・いいです。自分で撃ちますから」
宝珠に問われて、戸惑って断わりを入れるミハルが、
ー 何とかいいタイミングを掴んで当てなきゃ。
この揺れの感覚が一定なら撃つ事が出来るんだけどな
照準器の中で揺れ続ける敵に、何とか射撃タイミングを掴もうと試みる。
ー 駄目だ。もっと近寄らなければ、当てられそうもない・・・
まだ2000メートルは距離がある為射撃タイミングが測れず、
逆に敵が的を絞ってきている可能性が高かった。
「何とか揺れさえ収まってくれれば、当てられるのに・・・」
思わず口走ってしまうミハルに、
<揺れさえ止めればいいのか?>
「そう。この揺れさえなければ当てられる・・・って?えっ?」
ミハルが照準器の揺れが急になくなった事に気付いた。
敵弾に傷付きながらも闘うミハルに、ミコトの魔力が手助けする。
その敵魔鋼騎に接近するミハルの瞳に悪魔の様な紋章が映る。
敵が浮き立たせたその紋章は?!
次回 悪夢の紋章 再び
君は過去の悪夢に再び出会ってしまう。その邪な悪夢に・・・