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魔鋼騎戦記フェアリア  作者: さば・ノーブ
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魔鋼騎戦記フェアリア第2章エレニア大戦車戦Ep3エレニア平原Act34絶望の瞳

全てが一瞬の事だった。

リーンの瞳に映ったのは自分達の身代わりになる為に飛び出してきたもう一両のMMT-6。

紅く・・・紅く光る弾が飛んで来た。

もう・・・手の届くまでに近づいた・・・


ーえ!?-


全ては一瞬の事だった。

抗う事を諦めかけたリーンの瞳に、

敵の射線に飛び出したバスクッチ車が入るのと、

その車体前部左舷に命中したのが同時だった。


((ガッ ガガッアアーッン))


鋭い命中音が隣にいるリーン達の耳にも飛び込んでくる。


「!バッ、バスクッチっ!?」


前部左舷に命中弾を受けたバスクッチ車が、左舷の動力系をやられたのか、

車体の向きを急激に左舷方向へと変える。


「バッ、バスクッチ車、被弾っ!」


後退を続けているラミルが、その様子を見て叫ぶ。


「ラ、ラミルっ停車っ!バスクッチ車の前へっ!彼を救うのよっ早く!」


漸く砲塔を旋回し終わったミハルの照準器の中で、

車体を市街地へ向け停車したバスクッチ車が見える。

左舷前部に敵弾を喰らい左舷の動力を失ったバスクッチ車は、

リーン達を庇う様に敵駆逐戦車の射線に立ち塞がって応戦しようと砲を旋回させていた。


その砲塔の中で、

歯を食い縛り照準器を睨んでいるであろうアルミーアを想像してミハルは叫んだ。


「アルミーア!逃げてっ早く脱出してっ!死なないでっ!」


ミハルの叫びはアルミーア達には届く術も無かった。


「ウォーリアっ脱出してっ。早く!早くっ!」


キャミーが無線機に叫ぶ。

愛する男を失いたくない一心で・・・

そして聞こえる筈も無いバスクッチの声がレシーバーから聞こえた。


<すまんキャミー。約束を守れなくて。

  護ってやる事が出来なくなって。愛しいお前を>


キャミーは声も出せず愛する男の最期の言葉を聞いた。


「・・・ウォーリア?」


無線のマイクを握ったままキャミーは固まる。

ラミルは必死にバスクッチ車を追い越してカバーに廻ろうとアクセルを踏んだが。


ー  間に合わない!


絶望の色が瞳を曇らせる。






駆逐戦車がリーン達を狙っている事に気付いたバスクッチは、迷わず自らが犠牲となる事を選んだ。

リーンを護る為というより、その無線手を。

キャミーを、愛する者を身を挺してでも護りきる為に。


「リーン車と敵の間に入れっ、アルミーア左舷9時に居る敵に攻撃開始っ!」


決死の想いで搭乗員に命じたバスクッチは、


ー  皆、すまん。付き合ってくれ


心の中で、皆に詫び、砲手席のアルミーアに眼を向ける。


ー  小隊長、解っていますよ。

   私は小隊長の判断を嬉しく思います。だって、ミハルを護れるのだから!


自分を慕うアルミーアが、微笑んで頷いてくれたのに気が付いた。


「ああ、アルミーア。オレ達は護らなければな。愛しい人達を」


リーン達の車体側面を庇う様に進んだ時、左舷前方側面に衝撃が走る。


((ガッ ガーン))


側面前部に命中した敵弾が転輪を噴き飛ばし、

薄い側面下部装甲を貫いて車内に飛び込んで砕けた弾片と、装甲板の破片が車内に居た者を襲う。


「あ、がっ!」

「ぐあっ!」


車体前方に居たラコスとマークが、断末魔の叫びと共に噴き飛ぶ。

車体内前部右側に血と肉片が飛び散り、車内を血と煙が渦巻く。


「ぐうっ!」


装填手のバークが首を押えて倒れ込む。

そのまま動かなくなるバークの首からは血が留まる事も知らずに流れ出していた。


「うっ、ううっ。バーク?お前も・・・か」


アルミーアが腹部を押えて砲尾越しに倒れた装填手を見た。


「アルミーア・・・お前は無事か?」


苦しそうな声でバスクッチに呼ばれたアルミーアが、


「小隊長?御無事なら脱出して下さい。

 私は部下の仇を討ってから脱出します。お願いします!」


アルミーアは血が止まらない腹部を押えながら車長に脱出を勧めた。


「馬鹿を言うな。お前を脱出させてからしかオレは外へは出ない。

 それにもう、オレは助からない。胸をやられてしまったからな」


アルミーアがキューポラから降りて来たバスクッチに瞳を向けると、

胸から血を流し、口からも血を吐いている少尉が居た。


「肺をやられたらしい。もう還ったとしても長くは生きられないみたいだな。

 それに皆を殺してしまった責任もあるし。アルミーアと共に最期まで闘うさ」


薄く笑うバスクッチにアルミーアも。


「お互い、最期は愛する人の為に死ねれて良かったと想います。

 少尉、あなたと共に闘う事が出来て光栄でした!」


覚悟を決めて微笑んだ。


「そうだな。後はミハルに任そうか。

 オレ達の分まで護ってくれるように。オレ達の想いと共に」


「はい。ミハルならきっとやってくれますよ。

 私達の分まで生きて、幸せになってくれますよ。私は信じていますから・・・」


そう言うアルミーアは血で濡れた手で射撃ハンドルを固く握る。


「少尉、最期の弾です。何処にぶち込んでやりましょうか?」


アルミーアが照準を付けながら訊く。


「そうだな。奴の正面は固そうだから、動きを止めてやったらどうだ。

 お前の最期の弾だから撃破させてやりたいが、弾かれてもつまらん。

 ミハルに仇を討って貰うのもいいじゃないか」


口から血を吐いて苦しそうに諭すバスクッチに、


「そうですね、それも善いかも知れませんね。

 流石、少尉です。御一緒出来るのが嬉しく思います」


笑ったアルミーアが、敵駆逐戦車の左側キャタピラに狙いを絞った。


「少尉撃ちますっ。今迄ありがとうございましたっ!」


指をトリガーに掛けたアルミーアがバスクッチに別れの挨拶を告げる。


「ああ、地獄で逢おう。アルミーア、撃てっ!」


射撃命令を下すバスクッチの脳裏にキャミーの笑顔が映った。


((グッオオオォーンッ))


最期の一発が放たれたのと、

敵駆逐戦車の弾が前面装甲を撃ち抜き、弾庫を誘爆させられたのとが同時だった。



立ち塞がり敵の弾をその身に受けてしまったバスクッチ車。

ミハルにはその光景が信じられなかった。

その瞬間が無限の時の様に感じられた。

打ち砕かれた心は優しき光に再び出会う・・・


次回 諦めない想い。諦めない力 前編

君は失いし魂を求め彷徨う・・・

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