魔鋼騎戦記フェアリア第2章エレニア大戦車戦Ep3エレニア平原Act32ミスリード誤った判断
リーンは迷う。
自分が見つけた光を気にして・・・
その判断が戦場では命取りとなる事が判っているからこそ迷ったのだった。
そして決断する。
例えそれが謝った決断だったとしても・・・
闘う両軍が対峙している最中。
ロッソアの車両が突撃して来る。
照準器に映る砂塵を見詰め、砲手は思った。
「おかしいな・・・少尉。
どうして私達の前に現れる敵は、突撃してくるのでしょう?
まるで私達を誘い込もうとしているかのように・・・」
アルミーアが前方から現れる敵の殆どが突っ込んで来るので不審がって訊いた。
「うむ。何か訳があるのか・・・
オレ達の車両が目立つから撃破を狙って突っ込んでくるのか。
解らんが誘いに乗らなければ罠に嵌る事もあるまい」
バスクッチはペリスコープに写る敵部隊を観測しながら答える。
「それはそうですが。敵の残存戦力も大分減りましたから。こちらもですが・・・」
マーク兵長がレシーバーに手を当てて戦況報告を受けて報告する。
「マーク、戦車戦で勝てればそれでいいんだ。
師団長もそれは良く認識しているさ」
「小隊長!これからどうするんですか?
このまま此処で遠距離射撃をしているだけでいいんですか?」
ラコス一等兵が手持ちぶたさでハンドルを握って愚痴る。
「まあ、待てラコス。リーン中尉と協同行動を執ろう。
右舷方向の敵部隊を叩くように促してくれ、マーク」
隊内無線でマーク兵長はキャミーに連絡を入れた。
「バスクッチ少尉から意見具申です。
右舷中戦車部隊へ協同攻撃を掛けたいそうです」
レシーバーを手で押えて無線を聞き取りながら、
マイクロフォンを片手で押えてリーンに知らせるキャミーが振り返った。
「うん、了解!」
話を聞いたリーンが、決断を迫られる。
ー さっきの光は気になるけど、私の思い違いかもしれないし・・・
戦局は一刻も予断は許さない、どうするリーン。
バスクッチの言う通り右側の膠着状態を打破するには
このタイミングで横から攻撃を掛ければ味方に有利に働くのだから・・・
リーンは考えあぐねた時の癖、親指の爪を噛んでしまっていた。
ー リーン。考え過ぎちゃ駄目だよ。その癖やめて・・・
ミハルが振り返ってキューポラを見上げているのに気付いたリーンが、我に返って見返す。
リーンの瞳は迷いの色が見て取れた。
ー 何を迷っているのリーン。何が気に掛かっているの?
決断を下せないリーンに、心の中でミハルは訊く。
ミハルの瞳をじっと見詰めていたリーンが、重い口を開いて命令を下した。
「バスクッチに了解したと答えて。右舷の敵に攻撃を掛ける!」
想い迷ったリーンは決断を下した。
前方の敵より側面の味方の援護を行う事を。
それは敵に横腹を見せてしまうという結果になる兵法上犯してはならない用兵だった。
ー えっ!?リーン、それは危ないよ。まだ前方に敵が居るというのに
前方市街地付近に陣地を持つ敵を警戒するミハルが、リーンの決断に疑問を持つ。
だが、ミハルにもその判断を止めるだけの確証が無かった。
ー 何だろう、この胸騒ぎは。
どうしても気が進まない。
確かに右舷のM4を攻撃すれば味方が有利になる。
それは解っているけど何故だか危険な気がする
砲塔を正面市街地へ向けて照準器の倍率を最大に上げ、偵察を行うミハルは右手の宝珠を左手で触れる。
ーリーンも・・・リーンのネックレスも知らせているのかな。この宝珠みたいに?
宝珠は何かを知らせようとしているかのように輝きを点滅させていた。
キューポラで周りを観測して安全を確かめるリーンが、
ー 左側の敵はほぼ後退して市街地へ逃げ込んだ。
正面の敵も市街地手前の陣地から出ようとしていない。
射程距離外に居る。多分大丈夫だろう。
今、交戦中なのは右側で味方の4号と撃ち合っているM4隊と軽戦車部隊だけ。
あれを叩けばこの闘いは終る。
戦車戦には勝った事になる・・・でも、何だろうこの感じは。
ネックレスが教えている、前へ進むなと。
危険だとしらせているみたいに・・・
前進する事を躊躇うリーンに、
「バスクッチ車から早く前進する様に言って来てますが?」
キャミーは何も知らずリーンに伝えた。
「う、うん。解ったキャミー」
マイクロフォンを押して答えるリーンが、
最後の確認の為もう一度敵陣地の奥、市街地手前を双眼鏡で見る。
そこにはやや大きな土塁が見えるだけだった。
ー もし、隠されているのが重砲なら、直撃さえ喰らわなければ何とかなる
ぐずぐず動かないリーン達に痺れを切らしたのか、遂にバスクッチ車が動き出した。
「バスクッチ車が右舷方向に動き出しました。中尉、我々はどうしますか?」
ラミルが舵を切って動き出したバスクッチ車を見て、命令を求めてくる。
「ラミル、右舷に向う。バスクッチ車を追い越して!」
とうとうリーンは前へ進む決断を下した。
そして・・・
「ミハル、お願いがあるの。砲塔を市街地へ向けておいて。嫌な予感がするから」
リーンが呟く様にミハルに頼む。
「そう・・・ですね。私も感じていますから。
リーン中尉と同じ様に、不吉な予感を・・・」
2人がお互いの聖宝石を握って不安を募らせている時、
リーンが見つけていた土塁から長大な砲身が突き出てくる。
その砲身が側面を見せつつあるMMT-6を狙って徐々に左へと向きを変えていった。
リーンの決断が下されて、前進を始めたMMT-6。
その側面方向から油断を突いて現れる巨大な砲身。
そのまま撃たれてしまうのか、それとも反撃が間に合うのか?
次回 強敵の出現
君は大切な約束を守れるのか、現れた強敵を眼前にしても・・・