魔鋼騎戦記フェアリア 第1章魔鋼騎士Ep3訓練!あの戦車を撃て!Act4
ミハルとミリアの前に張り出された搭乗割には、今後運命を共にする者達の名が記されていた。
搭乗割には、
車長 リーン・マーガネット少尉
操縦手 ラミル・バンガール兵長・先任
前方機銃・無線手 キャミー・マコダニア一等兵
砲手 ミハル・シマダ一等兵
装填手 ミリア・クルーガン二等兵
ー 本当に・・・曹長の言った通りなんだ!
「どうしましょう!私が装填手だなんて。
私が陸戦騎乗りだなんて。戦車学校も行っていない私が!」
ミリアは、パニクっている。
「まあまあ、ミリア落ち着いて」
ミハルは宥め様と声を掛ける。
「こっ、これが落ち着いていられますかぁ!
いきなり戦車乗りだなんて、聞いてませんようっ!」
ー ミリア、嬉しいのか、困っているのか、どっちなんだろ?
「ねえ、ミリア。嬉しいのか、嫌なのか。どっちなの?」
ミハルがミリアの肩を掴んで訊くと、
「嬉しいに決まってるじゃないですか。
だって、先輩と一緒に居られるんですから、先輩と一緒に闘えるんですから!」
そう言ってミハルに抱き付くミリアに、
「そう。良かったじゃない。私もミリアと一緒なら心強いわ」
ミハルの言葉で、ミリアは涙目になって、
「感動です!光栄ですっ、先輩!」
嬉し涙で、顔をくしゃくしゃにして抱き付いた。
「まあ!ミリア。貴女ってそっちの気があるのかしら?」
突然、リーン少尉が声を掛けてきたので、慌ててミリアがミハルから離れて敬礼し、
「あ、ありません。そんな気なんて。ありませんから!」
ミリアが動揺して、敬語を忘れて答えるのを微笑み返す少尉が。
「冗談ですよ、ミリア。
それより、搭乗割を観てくれたかしら。装填手、引き受けてくれる?」
少尉に訊かれると、
「は、はい。私なんかで良ければ。・・・宜しくお願いします!」
頭を下げて、了承する。
「少尉、私からもお願いして宜しいでしょうか?」
ミハルはリーン少尉に向って話しかけて、
「曹長の教官配置を、車長席でお願いしたいのです。
少尉には申し訳ないのですが、少尉には別の車両で敵方として標的を受け持って頂きたいのです」
「・・・。私に的になれと・・・そう言うのね、ミハル。それは、貴女の考えなの?」
「はい。そうです」
ミハルはリーン少尉の瞳を見詰て答える。
「そう、解りました。
明日の訓練から、実戦並みにやりましょう。実弾射撃訓練も兼ねてね」
リーン少尉は微笑を湛えて認めてくれた。
「ありがとうございます。
何としても曹長が居られる内に、慣熟訓練を終わらせたいのです」
ミハルが決意を述べると、
「解っているわ。
あと3日、いえ後2日しかないものね。
明日は納得がいくまで何度でも繰り返し訓練するから、覚悟しておきなさい!」
そう言って、リーン少尉は搭乗員室を出て行った。
「あの、先輩。小隊長に意見具申するなんて、凄いです」
ミリアが瞳を輝かせてミハルを見る。
「うん。私も砲手として出きるだけの事を覚えたいから。
実弾射撃訓練なら、動標的も撃って感覚を身に着けておきたいからね」
ミハルは自分の手を見詰ながら答える。
ー そう・・・私が砲手として戦ったあの日以来の実弾射撃。
この手でもう一度敵と撃ち合う事が出来るのか・・・確かめたい。
あの日、私の照準器の中で見た悲劇を乗り越える為には・・・
ミハルの手は、あの日の恐怖を思い出して、微かに震えていた。
「・・・ぱい、先輩!どうしたんですか?」
ミリアに声を掛けられて、我に返った。
「あ、ごめん。ぼーっとしてた。何かな?」
「もーっ、先輩。あのですね。今夜、一緒に寝てもいいですか?」
ミリアはうるうる瞳をさせて、ミハルにお願いする。
「は?私と?」
「はい、何故か興奮して・・・寝られそうに無いのです。
私、先輩と一緒なら寝られそうな気がして。駄目ですか?」
「え?あっ、・・と。解ったわ。ミリアがそうしたいのなら。でも、私はノーマルですからね」
「は?私もノーマル人間です。その気はないですから!」
「あはははっ、安心したわ。」
ミハルは笑ってミリアのおでこをつんっと突いた。
「もー。先輩っていじめっ子だったんですね。
では、布団を持って来ますから。先に横になっててくださいね!」
ミリアは嬉しそうに整備員室に荷物を取りに戻って行った。
ー ミリアさんも女の子だもんね。私ってそんなに慕われ易くないのに。
私だって誰かに頼りたいのに・・・駄目だよねマモル。
私、お姉ちゃんなのに。しっかりしないといけないよね・・・
ミハルは、弟のマモルが何時も懐いてくれていた事を思い出して、温かい心になっていた。
「ミハル・・・ちょっと付き合えよ」
不意に声をかけられる。ユーリ大尉を送ってきたラミルが戻って来たようだ。
入り口で手招きされたミハルがラミルの傍へ行くと。
「お帰りなさい。ラミルさん」
「ああ、ミハル。
ちょっと今聞いたんだが、私が先任って、どう言う事なんだ?」
「え、いえ?私もさっき搭乗割を観て知ったところなんです」
バスクッチが抜けた搭乗員割を。
「そうか・・・いきなり先任って言われてもな。
下士官でもないし、実戦経験が有る訳でもないのにな。
兵の最上位ってだけで、先任って言われてもぴんっとこないよ」
「ははは。そうですね」
困っているラミルに、相槌をするミハル。
「それにな、ミハル。
リーン少尉だって実戦に出ちゃいないし。
古参って言っても1年にも満たない私が先任を務めて、
本当に戦闘に出て生き残れるか心配なんだ・・・」
ー 生き残れる?
そう・・・だよね。
心配を抱えて闘うのって、それだけで不利だものね。
ラミルさんの心はあの日の前の私と同じ・・・
搭乗員室から出て話す内に、屋外へと出ていた二人の上には、いつの間にか星明りが堕ちている。
「ラミルさん、私も・・・私も同じです。
いきなり砲手になって、たった2日で射撃訓練を終えろって言われても、
とても曹長みたいには扱えっこ無い。
でも、私達は兵隊です。軍人なのです。
上からの命令には逆らえない。
それがどんな理不尽な命令だとしても・・・」
ー そう、あの戦闘の時も、私達は逆らう事が出来なかった。
あんな酷い命令だったのに・・・そして皆、その命令の為に死んでしまった・・・
ミハルはラミルに手を震わせながら、
「だけど、ラミルさん。
私達は生き残る為にも、出来る限りの事をしましょう。今、出来る全ての事を」
ミハルの決意に頷いて、
「ミハルの言う通りだな。
全力で私も訓練するよ。理不尽な命令の為に死んで堪るかってね!」
ラミルはミハルの手を握って約束した。
「はい、私も全てを出し切る様に頑張ります」
握られた2人の手は、お互いの熱い想いが込められていた。
そんな2人の姿を、リーン少尉は入り口の影から見ていた。
「ラミルに話して良かった。
あの2人はきっと、私の想像を超える力を出してくれる。
これでやっと搭乗員が一つに纏ったわ。バスクッチ・・これで良かったのよね」
リーン少尉は一人、指揮官室へ戻っていく時、ふいに外へ出たくなった。
古城の見張台に登り、空に広がる星を見上げて想いを口遊む。
「ユーリ姉様、私・・・私は指揮官として、皆の命を預かっているというのに。
その重圧に耐えられなくなってしまわないか不安です。
こんな姿を誰にも見せられないのが辛いです」
リーンの瞳から、涙が零れ落ちる。
リーンは城壁を掴んで歯を食い縛る。
崩れ落ちそうになる体を支えて・・・
「誰かに話したい。
本当は私も恐い。
此処から逃げ出したいくらい恐い。
私の判断一つで小隊全員の命が危険に晒されてしまう事が恐い。
皆の運命を預かる事の重圧で壊れてしまいそう・・・」
星空を見上げて、リーンは誰にも見せられない涙を恐怖を払いのける様に零し続けた。
リーンの涙に、ミハルは決意を誓う。
そして、砲手としての訓練が始まった。再び敵戦車を撃つ為に。
次回Act5
君は訓練に何を求めるのか?