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第1話

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「エルグリンデにようこそ、白丈空太はくじょうそらたさん」

 漆黒の空間にぽつんと佇む一脚の椅子とそこに腰掛ける人物。それが俺に話しかけたのだろうか。

 瞬きすることも忘れて、俺は彼女を見つめていた。

 目の前に、女神がいた。

 息を呑むほどの美貌。言葉では言い表せられないほどの美しさと柔和な笑みを浮かべ、。神々しい雰囲気を纏う彼女は、まさに女神としか言い表せれなかった。

「……ぁ…」

「臆することはありません。どうぞ、なんでもおっしゃってください」

 女神に言われたように喋ろうとするが、声が出ない。息がつまり、喉がやけに乾く。生唾を飲み込みながら、絞り出すように、俺は口を開いた。

「ファミチキください」

 それが俺の異世界生活の始まりだった。


  ◇◆◇


 事の起こりはは十数分前に遡る。

 極力、用がない限り外に出ない生活をしていた俺は、ちょっと空腹感を感じてコンビニに行こうと思いたち、家を出た。


 近所のコンビニは二件、セブンとファミマだ。

 個人的にはセブンの揚げ鶏は至高の一品だが、たまにはジャンクな味わいのファミチキも悪くないと思い、今日の気分でファミマに行くことにした。この選択が、全ての始まりだったのだろう。

 道中特に問題もなく目当てのコンビニに辿り着き、さて、あとはレジに直行してファミマを買うだけだとばかりにコンビニの自動ドアをくぐった瞬間、俺は、女神がいる謎の空間にコンビニに入店した格好のままで立っていた。


「エルグリンデにようこそ、白丈空太さん」

「いや壊れたレコードかお前は」

 こんなこと言ってはみるが、俺だって流行りの携帯小説なんかはよく読む。お約束、テンプレ、いわゆる、異世界転生とかそういうのだろう。


「お前は何もんだ? 俺の名前は知っているみたいだけどさ」

「私はカルナ、エルグリンデの女神です」

「で、その女神さまが俺に何のようですかい?」

 大体の流れはわかっているが、わざとわからないふりをしてみる。そうした方がより細かい説明があるだろうという打算のもとにやっている演技だ。こっちにデメリットはないしな。

「とりあえず、あなたは異世界に行くことが決定しました。気まぐれで選んだんで正直あなたじゃなくても良かったけど、まあノルマだし、諦めて?」

 最初は漂っていた神々しさが言葉を発する事に消えていき、最後の一言を発した時には、もうそこらを舞うホコリほども神々しさはなく、単にちょっと見た目のいいだけのウザイやつに成り下がった。こんなの女神じゃないや。さっきの女神さまを返してくれ。


「ふざけるなよクソアマがぁ!」

 ポケットに入ってた家の鍵を投げつけた。

 テンプレ的に理不尽なことを言われるのは覚悟していたが、流石にキレた。人の人生を営業ノルマ扱いされたら感情的になっても仕方ないと思う。

 鍵が当たった額をさすりながら女神(仮)はなだめすかすように話しだした。

「まあまあ落ち着いて。もちろん異世界移動特典は用意してありますから、テンプレでしょ?」

「まあそうだけどさ」

「と、いうわけで、はい、DX変身ベルトです」

 手渡されたそれをまじまじと見ると、どう見ても仮面ライダーの変身ベルトだった。

「ふざけるなよクソアマぁ!」

 今度はポケットに何故か入ってたガムの包み紙を投げつけた。しかも吐き捨てたガム入り。なんで入ってたかは俺も知らない。多分ポイ捨てするのは嫌だったけどゴミ箱が見つからなくてそのままポケットにって流れだろう。


 もうね、キレて当然だよね。

 人生ムチャクチャにされた挙句、特典は子供向けのおもちゃだったらもうキレるしかない。

「待って待って!それ本物だから!本当に変身できるやつだから!」

「はぁ?」

 何言ってんだこのクサレ女神は。

「えっと、一応いろいろ説明しなきゃだから説明するわね」

 女神の話を要約するとこうだ。


 1:行く世界は7つの海と3つの大陸で構成された世界である。

 2:文化レベルは中世後期である。

 3:魔法が生活レベルに浸透した世界である。一般的に生活に役立つ魔法は誰でも扱える。

 4:チート能力を与えた転生者が女神たちの意図から外れて暴走、旧魔王を退けて魔王に就任して好き勝手やってる。


「というわけなの」

「なるほどな。で、このDX変身ベルトはなんだよ」

 はたからしたら意味もなく変身ベルト渡されてるだけだ。ちっちゃい子や、おっきなお友達ではないんだから。

「だから特典アイテムよ。望みのチート能力を与える方針でやってたら失敗したから、その対策として、強力だけど性能が画一的な規格品を与えることにしたの。今までは各担当女神が好き勝手にあげてたからね」

「それはつまりあれか? 自分の好みの奴がやってきたら」

「めちゃくちゃにチートあげちゃった娘がいたわねぇ」

「で、そのチート能力いっぱいもらった奴はどうなった?」

「今は魔王やってるわよ」

「そいつがすべての原因かぁああああ!」

 元凶がこいつらの管理不足だと知って俺は慟哭した。なんでこんな駄女神どもの尻拭いをさせられるんだ、俺は。

「で、特典アイテムなんだけど、2つほど種類があるの。選べはしないんだけどね」

「種類? ベルトだけじゃないのか?」

 仮面ライダーといえば変身ベルトという方程式が確立してしまっていて他のと言われても全く思いつかない。そして、種類があるのに選べない理由もわからない。

「そこもまあざっくりと説明するわ」

 女神の話をまとめると、特典として渡している変身アイテムは次の2つだそうだ。


 1:ベルト型。一番種類が豊富で腰に巻くだけで使える取り回しやすさが売り。弱点は、生身の本人に戦闘能力がない限り、変身するまでは無防備である点。わずかとは言え、ベルトを巻き、変身するまでの隙があるため、奇襲されたらどうにかして変身するまでの時間を稼がなければいけない点だ。

 2:武器一体型。変身しなくても戦闘可能だが、常に手に持っていたりすぐに取り出せるようにしておかないといざというとき使えないのが弱点。武器一体型はそれで1カテゴリで、形の違いから発生する戦い方の差はあれど基本性能は変わらないらしい。


「じゃあ次はどういうベルトがあるかっていう説明よ」

 これもざっくり要約する。この女神はやけに話が長いし時々ループするのが悪い癖だな。


 1:デッキ型。カードケースと変身ベルトが一体になったタイプ。カードケースをベルトに装着することで変身できる。

 カード自体は豊富だが、最初期に作られたためフォームチェンジができない。試験的なカードが多いなど少し取り扱いにくい。

 2:カード挿入型。カードをスロットに挿入することで変身できる。

 フォームチェンジが可能で、これはモンスターから生成される【コアカード】を使うことでそのモンスターの能力を取り入れ、その能力を扱うフォームになれる。

 弱点はベルトとカードケースが別になるため、カードケースからカードを取り出す隙が大きくなりがちな点。

 3:同時挿入型。カード挿入型を発展させたタイプで、特徴は変身するのに複数枚のカードを使用すること。

 挿入するカードに攻撃方法、属性、補助能力などを担当させることで戦略の多様化と性能の向上を図ったタイプ。

 問題点は、使うカードが増えると組み合わせが多様化しすぎて使いにくい点と、カードの組み合わせに相性が存在するため、組み合わせの把握が非常に大変な点だ。

 以上に共通する点として、武器はカードから召喚するしかないという点だ。これは、武器一体型との差別化のためらしい。


 そして、このベルトなどには、それぞれどのタイプが向いているか適性があり、女神が渡すベルトは最も適性が高かったものを渡しているらしい。俺に与えられたのはカード挿入型だ。

「で、変身アイテムなんだけど、全部カードに統一してあるわ。ベルトとかにはモンスターの持つ魔力を集めて解析することでカードを作る機能が備わっているわ」

「つまり、敵を倒していけば戦闘に使えるアイテムが手に入るってことか?」

「そのとおり、察しがいいわね。モンスターから手に入るカードには種類があって、コアカード、ウェポンカード、アビリティカードの3種類があるわ」

 名前から察しはつくがそれぞれの概要を挙げていこう。


 コアカード:少し前にちょっと出たが、フォームチェンジして、モンスターの能力を使うために使うカードだ。デッキ型は使えないためそもそも生成されないようにされている。

 ウェポンカード:武器を生成するカード。これは全ての変身アイテムで生成される。

 武器一体型では必要ないように思うが、追加生成して投擲武器にしたり、盾などを生成するのにも使うため、生成されるようになっている。

 ベースとなったモンスターが持つ牙や爪など、体の一部をモチーフに生成される。

 アビリティカード:コアカードほどではないがモンスターの能力を扱うことができるカード。モンスターは、基本的に複数の能力を持っているためひとつの能力を使いたいがためにフォームチェンジするのは無駄が大きいし、取り回しが悪い。

 その無駄を省くために、能力を分割して、フォームチェンジせずとも使うためのカードがアビリティカードだ。

 例えば、能力で空を飛び、炎を吐くモンスターがいたとすると、アビリティカードは空を飛ぶための能力と、炎を吐く能力の二つになるわけだ。

 ただし、分割した分、能力の出力が落ちているため、100%の能力を使うにはフォームチェンジしなければならない。デッキ型はフォームチェンジできない分の出力をアビリティカードに回しているため、ほかのタイプに比べると、アビリティカードで使える能力は強力になるらしい。それでも、精々70%止まりらしいが。


 そして、この3つ以外にもカードが存在する。それが基本形態用カード【ベースカード】だ。


 フォームチェンジ、つまり変身して、モンスターの持つ能力を十全に扱うには、コアカードを用いて変身する必要がある。しかし、コアカードから直接変身することはできない。

 理由は、コアカードはモンスター由来でベルトは神々謹製のシロモノである点が原因だ。

 いくらベルト側がカードを生成するとは言え、ベースになっているのはモンスターの魔力、基本となっているモノのフォーマットが違うため、うまく装備するアーマーに落とし込むことができないのだ。そのため、コアカードからの直接変身はできなくなっている。

 コアカードを使うためには、コアカードとベルトとを仲介するためのカードを経由して変身するしかない。コアカードの仲介、カード使用の基礎となる形態が基本形態だ。

 基本形態に変身するために必要なカードであるベースカード、こいつはコアカードとの仲介役としてだけではなく、基本的なステータスや戦闘スタイルを左右するカードでもある。


 いくつか例を挙げていこう。

 例えばこれ、【ソード】のカードは、カードスロットが3つ、能力は武器(刀剣)生成でステータスは速度が低めで防御が高めだが、全体のステータスにあまり差のないバランス型。

 続いて【ガン】のカード。カードスロットは2つ、能力は武器(銃器)の生成と射撃に必要な能力の補助。ステータスは攻撃力が高く防御が低い攻撃型。

【フェザー】のカードは飛行能力と羽根を射出することで攻撃できる能力を与える。カードスロットはひとつしかない。ステータスは速度が高く、ほかが低いスピードタイプだ。

 その他にも様々があるが、能力の違いは当然として、ほかの違いは概ねカードスロットとステータス傾向ぐらいだ。

 なお、共通して存在する項目である身体能力の向上と、アーマーの生成は能力として数えていない。また、カードスロットの数も共通して存在するコアカード挿入用スロットはカウントしていない。


 俺は、女神に提示された多種多様なカードを手に取りながら選んでいく。今後の命運を左右する可能性が高い選択だ。慎重にならないわけがない。

 そして、ある一枚のカードを手にした瞬間、ゾクンと、俺の背筋に悪寒が走った。何かが訴え掛ける感覚。「これだ」と誰かが囁きかけるような、そんな感覚があった。

「なぁ女神」

「はいはい、なんですかぁ?」

「この大量のカードの違いって一体なんだ?」

「基本的な情報は全部書いてあるとおりよ。馬鹿なんじゃないの?」

「じゃあ、こいつはなんだ?」

 俺は手にしたカードを女神に見せる。

「ああ、【ブランク】カードね。武器なし、特別すごい能力もない。唯一の特徴はカードスロットが多い点ね。10個もあってどうしろって話だけど」

「いや、ほかに何かあるだろ。吐けよ、女神」

 女神は言葉を詰まらせると、しばし逡巡して皮肉げな笑みを浮かべた。

「……ホント、随分と察しがいいわね。ええそうよ、それには他にはない唯一の特徴があるわよ。

 まず、前提としてカードは全て使っていくうちに成長していくわ。それは変身する力を与えてきた誰もがそのうち気づくことよ。

 でも、それはもう成長傾向が決まったうえでの成長。【ソード】なら剣が主に成長し、【ガン】なら銃が強くなっていく、すべてのカードには育ちやすい能力がある。これはすべてのカードが何かしらの属性を与えられている以上、避けられないことよ。

 そしてその【ブランク】カードはその名のとおり空っぽ、唯一【なんの属性もない】ことが属性になっているカードなのよ」


 なんの属性もない。成長傾向が決まっていないということは…。

「つまり、好きなように育てられるカードってわけか」

「ええ、ただ、その分成長上限が全カードで一番高くて、成長するのに必要な経験も多い、大器晩成というには遅すぎるような癖の強いカードよ。正直、全く勧めないわ」

「いいや、俺はこれにする。なんというか、ピンときたんだ」

 手にした瞬間ゾクッときたあの感覚は俺の錯覚ではない確信していた。

 女神は俺が【ブランク】を選び、それを変える意志がないことを察したのか、ため息を一つ吐くと、表情を変えた。纏う空気や表情が最初に会った時の神々しさを持つ『女神』のものになる。

「そう……では【ブランク】のカードとともに、いってらっしゃい。良い人生を」

 女神がそう言うと同時に、俺の背後に巨大な門が現れた。

「ああ、じゃあな。クソ女神」

 門に手を当て、ゆっくりと開く。門の向こうへ一歩、また一歩、歩みを進める。

「…ぃ……な…」

 後ろから門の閉まる音に紛れて女神の声が聞こえた気がした。


◇◆◇


 そして門を潜った先は、雲の上でしたとさ。


「ふざけるなよクソアマがァああああ!!!」

 今までの仕返しにとばかりに、上空からのスタートされた。あのクソ女神、根に持ってやがったな。次にあったら鼻くそぶつけてやる。

 そんなことをぼやいても仕方がない。この状況をどうするかを早急に考えねば俺は死ぬだろう。

 向こうの都合よくわからんが、いちいち異世界に呼び出すのもノーリスク、ノーコストではないはずだ。むざむざ出オチ的に殺すわけがない。ただ、常識から言ってこの高度から落ちて生身で耐えられる状況が思いつかないし、耐えられるとも思わない。

【ブランク】が持つデータ上の能力は共通項目である身体能力の向上、そして変身すると生成されるアーマー、これにかけるしかない。


 腰にバックルを当てると、自動的にベルトが腰に巻かれる。ベルトのカードスロットにベースカードを入れて叫んだ。

「変身!」

『ブランク』

 無機質な電子音声が響き、俺の体は光に包まれた。


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