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第七章 戦いの始まり~変動~

その頃、前線では―

「皇光中将、そんなに前に出られては危険です」

部下が言う。

「なら、君たちにあの幻術の術者が倒せるか? 見破ることも出来なかったのに?」

「それは…………」

口籠る。

「出来ない奴は口を出すな」

そう言い、毘沙門天呪を腕に貼り、敵兵を倒しつつ術者の方へ向かう。

そして銃を構え、発砲。

だがその攻撃は(かわ)される。どうやら術者も身体能力を上昇させているようだ。

「私が術者だってどうしてばれてしまったのかねぇ」

背後から声がする。

振り返ると、そこには邪鬼の帝の隊服を着た人物が立っていた。

三十代中盤だろうか、といった男だが、その薄気味悪い雰囲気からか、もしくは、長さが疎らで、ぐちゃぐちゃとした髪からか、かなり老けて見える。

「さあね、僕に勝てたら教えてあげるよ」

「古木大尉、援護します」

その男の部下らしき人物が数人、声を上げる。

だが、「こんな奴私一人で十分だからねぇ。あっち攻めておいて」と境界拠点を指す。

「へぇ、後悔しても知らないよ」

そう言い、地面を蹴り、敵―古木に近付く。

古木の装備はもう既に透視して確認した。

古木は刃物を持っていない。幻術があれば近付かれない、とでも思ったていたか。

古木が腕に呪術符を貼ると手盾の形をしたバリアが出現する。

―五発といったところか。

古木との距離はおよそ三メートル。

僕が撃った弾がバリアに命中、そしてあと四発、同じところに当てる。

すると、そこからバリアに亀裂が入る。

「何っ!?」

古木は驚愕の声を上げている。その隙を狙い、至近距離まで近付く。

そして、銃を持っていない方の手―左手で殴り付ける。

毘沙門天呪で強化されたその攻撃はバリアごと古木を吹き飛ばした。

そして古木に向かって銃を三発、狙いは右肩と両足。

古木の身体能力上昇効果は既に切れているようで狙い通り当たった。

二人の実力差は歴然としていた。

「投降しろ。殺したりはしない」

そう言うが、古木は頷かなかった。

「クソがぁぁぁぁぁ!!!」

そう叫び……

普通ならここで殺されることを前提に攻撃してくるだろう。

だが古木はそうしなかった。

自殺した。

古木の持っていた呪術符の中に発火作用のあるものがあったのだろう。一瞬にして炎が全身を包み、焼け死に、塵となった。

その時だった。

端末に連絡が入った。

その連絡は優勢だと思っていた状況が一気に危うくなり得るものだった。


連絡を受け、急ぎ、境界拠点まで戻る。

連絡は名古屋拠点が攻められている、とのことだった。

「兄さん!! 名古屋の状況は?」

綾斗大将に尋ねる。

「千五百ほどの邪鬼の帝兵が攻めて来たとのことだ。現在、月影の組が交戦中だが、これほどの人数差があっては状況も悪いらしい」

「もっと詳しいことがわかれば……」

「そこで、おまえの能力の出番という訳だ。名古屋まで見るのにどのくらいかかる?」

「ここからだと少なくとも一分はかかるかなぁ」

僕の能力、それは、一言で言うと目が良い。

遠くの物から細かな物まで見ることができる。ただし、遠くの物ほど見るのに時間がかかるし、距離にも限界がある。

透視や普通なら見ることができない電波なども見ようと思えば見ることができる。

幻術はこの能力で見破った。

そして無我力の出所を辿り、術者を特定した。

「始めてくれ」

約一分後―

「見えた。名古屋拠点」

「どうなってる?」

「まだ拠点内に侵入されてはないよ。敵兵は拠点の外にいる。戦いの痕跡はあるけど今は戦ってない。どうも正斗が拠点の周りに結界をつくって全員が中にいるみたい。敵は結界に手子摺(てこず)ってるようだけどあの人数で一斉攻撃されたら多分正斗も耐えられない。敵にも何人か"D"がいそうな感じ」

「具体的な人数や能力は?」

「そこまではなんとも……」

「そうか、ありがとう。もういいぞ」

ふう、と溜め息をついて深呼吸する。

長距離を見る時は体力の消耗が激しい。

「裏取りのための部隊を相手の陽動に利用されてしまうとはな……」

最初の三、四百人ほどでの攻撃は攻めていると見せかけることが大切だった。言わば捨て駒だ。

邪鬼の帝の兵は全員で五千人ほど、四百と千五百を引いても三千は残る。

陽月の帝の兵は全員で三千六百人ほど、さっきの戦いでの死傷者を考えると邪鬼の帝の残った人数とほぼ同じ。

つまり、名古屋に救援を送れば境界拠点が非常に落とされやすくなるということだ。

だが、光が言っていたように名古屋の守りはいつ破られても可笑(おか)しくない。

救援はまず向かわせざるを得ないだろう。

それなら月影の組と救援部隊で敵を挟み撃ちにするくらいか。

救援の人数をどこまで絞れるかだな、正斗が大規模に能力を使うことで一人で敵を防いでいる、これに習うと……深月か!

「深月!」

完全に聞き手に回っていた深月が急に自分の名前を呼ばれ、少し驚く。

「今から五人から十人ほどの隊で名古屋に向かってくれ」

深月はそれだけで自分がなぜ呼ばれたかを理解する。

「わかった!」

そう言い、部屋を飛び出そうとする。

するとそこで部屋にいた少佐の男が声を上げた。

「大将!(わず)か数人で中将を敵が大勢いる戦場に送り出すなどどういうことですか。死んだりすれ……」

だがそれを遮って、綾斗が声を発した。

「ならおまえが敵をどうにかできるのか?それとも代案があるのか?」

「それは……」

口籠る。

「出来ないなら口を出すな」

そしてこう付け加えた。

「深月は死なない。まだ死ねない。そうだろう?」

部屋の出入り口付近に立っていた深月に問いかける。

「うん。私は死なないし死ねない」

深月は明るく、だがどこか悲しげな笑みを浮かべて出ていった。

綾斗はその悲しげな笑みの理由を知っていた、それが深月の決意を意味することも。

「兄さん。全然関係ないことだけどいいかな?」

「なんだ?」

「僕と兄さんって似てるのかな?」

「さて、どうだかな」



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