第六章 戦いの始まり~開戦~
三日後、朝、境界拠点中央棟―。
「三日経ったけど今日は敵、攻めてくるかな~」
光中将が一人呟く。
「どう?敵は来てる?」
見張りの兵に聞く。
「いえ、敵の姿は見えません」
「じゃあ、まだ来ないのかな……」
そう言いつつ、西の方を見る。
すると、光中将は表情を変え、言い放った。
「総員、臨戦態勢!直ちに迎撃の準備!!」
「中将、敵の姿はまだ見えません。どうし……」
「幻術だ。恐らくそういった能力者がいるのだろう。敵との距離はもう二百メートルもない」
見張りの兵の言葉を遮って言う。
敵の影が薄く見え始める。
「私の幻術を破るとは、中々の力だねぇ」
敵の指揮官が呟く。
「古木大尉、どうしますか?」
部下が尋ねる。
「私の幻術はばれてしまうともう効果がなくなるけど、今ならまだ不意打ちが効きそうだからねぇ。総員、突撃」
「深月!!」
『わかった!』
通信で南棟にいる深月中将に呼び掛ける。
「なんだっ!この風……うわぁぁっ!!」
敵兵が暴風によって飛ばされる。
敵の隊列が崩れる。
「総員、戦闘開始!」
光中将はそう叫び、
「僕はあの幻術の術者を倒しに行く。こっちの指揮は任せていい?」
『わかった。請け負おう』
北棟にいる綾斗大将は返事をし、他の所に連絡をする。
「正斗。戦いが始まった。敵に幻術を使う奴がいる。そっちにも何か仕掛けているかもしれん。十分に気を付けろ」
『わかった。で、こっちはどうしようか』
「敵の数が少ない。待機をおすすめする」
『じゃあそうしよう』
連絡を切り、考える。
それにしても敵の数が少ない。
三、四百人ほどだ。
陽動か?だが、突撃は失敗した、注意は引けていない。
陽動なら撤退するはずだ。
そこで、一人の兵が来た。
「報告します!北門を守っていた兵五十人が一瞬にして全滅、全員射殺されました。敵の姿は見えません!!」
「何っ!?」
有り得ない、一瞬で、物事が一気に進んでしまうなんて……。
いや、有り得ない力の持ち主ならこの世にいる、"D"だ!
「総員、戦闘態せ……」
ドゴォォォン。
言い終わらない内にすぐ近くで爆発が起こる。
「っ!?」
一瞬で物事が進んでしまう。
敵の"D"の能力はなんだ?
一瞬で何もかもができる速さを持つ―これはない。
これなら人が気付かずとも近付いた時点で千手観音呪が反応する。
なら、普通の速さでも一瞬にできる、即ち、一瞬を拡大する能力。
だが、どうやって……?
「そうか。時を止める能力か!」
パァァァン。
近くにいた兵が撃たれ、倒れる。
「正解です」
そこには拳銃を構え、邪鬼の帝の隊服を着た、黒いマントの纏った黒髪の少女が立っていた。
「あなたは油断していた。拠点の中にいて、いきなり目の前に敵は現れない、と。高い階級に身を任せ、玉座にでも座った気になって」
俺はまだ何も準備ができていない。
それに反し、敵は既に銃を構えている。
「終わりです」
敵が銃の引き金を引く。
弾が俺に向かって飛んで来る。
その腕は悪くない、が、
「相手が悪かったな」
弾道が逸れる。
「何っ!?」
もう二発撃たれるが結果は同じ、全て外れる。
「何故だ!貴様っ!"D"か!!」
「俺の能力はものを曲げることができる。弾道を曲げさせてもらった」
敵は焦る、が、
「だがそんな能力、私の時を止める能力の前では無意味」
時を止める。
「これで終わりです」
そう言い、綾斗大将を撃つ。
「まだわからないか、自分の無力さが」
そう言い、弾道を逸らす。
「貴様っ!何故動ける、私の時の中で!!」
「おまえが時を止める瞬間に空間を曲げ、時の支配から逃れたんだ」
「―っ!」
銃を乱射するがその時にはもう遅い。
綾斗大将は敵の背後にいた。
腕には毘沙門天呪が貼られている。
「遅いな。強力な能力に身を任せ、ろくに訓練も受けていなかったのだろう。怠けた自分と油断した自分を恨め」
敵の背中を殴り、押さえつける。
「"D"の能力に関してはまだわからないことばかりだ。殺しはしな……」
カリッ、という音と共に敵が意識を失い、死ぬ。
そして再び、時が動き出す。
「口内に毒を仕込んでいたか」
綾斗大将が敵が死んでいるのを確認していると、連絡が入る。
『兄さん、先程の爆発は?』
深月中将からだ。
「問題ない。敵が入って来たが処理した。だが兵はほぼ全滅した。百人ほど回してくれ」
その知らせに深月中将は驚愕の声を上げる。
『全滅!?この短い間に!?敵の数は!?どこから!?』
取り乱し、いつもの口調ではなくなる。
「敵は"D"が一人、時を止める能力者だった」
『ああ……』
深月中将はそれで全てを察する。
『そんな能力……出鱈目な……』
「そんなに強い能力を持った"D"を最前線に出してくるのだから敵にはもっと危険な能力の持つ"D"がいてもおかしくない。十分に気を付けろ」
その忠告に深月中将は「わかった」と返事をし、呟く。
「気を付けないと」