第四章 炎をつくる能力
翌日、朝九時前、俺は軍の訓練舎にいる。
昨夜、巴から連絡があった。
今日は九時からここで何か訓練をするのだという。
今は俺一人、他のメンバーも直ぐに来るだろう。
ガチャッ、扉の開く音がする―櫂が来た。
こっちに気付いたようで声をかけてくる。
「おはよう、祐君」
「ああ、おはよう。それより、今日ここで何をするのか聞いてるか?」
「聞いてない。勿体ぶる必要ないのにね」
と、苦笑いで答える。
「だな」
そこで他の三人が入って来た。
「お二人とも、おはようございます」
「おはよう、祐クン、櫂クン」
「おはよう」
巴、蓮、通が立て続けに挨拶をしてくる。
「おはよう、皆」
「巴さん、蓮さん、通君、おはよう」
ここで巴が口を開く。
「それでは早速、本題に入りましょうか。今日の本題は、まず、兄さんが呪術符を使えるかどうかです。使えないなら皆で教えます。次に、兄さんの能力の紹介と練習です。同じ隊のメンバーとして一度見ておいた方がよいでしょう」
巴が淡々と話す。
「それでは一つ目、兄さんは呪術符が使えますか?」
「使えない」
正直に答える。
「やはり、火印中佐から聞いた通りですか...。ではまず、呪術符の種類に関してですが...」
巴が説明を始める。
呪術符には自分の体に貼って使うものと、物に貼って使うもの、貼らずに使うもの、貼らずにも使えるものがある。
まず、体に貼って使うものは、昨日見た、身体能力を上げる呪術符だ。
その中でも、全身体能力を上げるもの、走力を上げるもの、跳躍力を上げるもの、腕力を上げるものなど様々だ。
次に、物に貼って使うものは、設置型トラップのようなものがメインだ。
具体的には地雷やセンサーの働きをする。
最後に、貼らずにも使えるものは、基本的に投げて使う。
相手に投げて爆発させて攻撃するもの、手前に投げて防壁を張るものなどがある。
但しこれらは、貼って使うこともできる。
相手に貼って爆発させる、手に貼って手盾にするなど様々だ。
「それでは実際に使ってみましょうか。通さん、使ってみて頂けますか?」
「了解」
すると、通は袖から呪術符を取り出し、前方へ投げた。
「爆ぜろ!火界呪!!」
通が叫ぶと、前方で呪術符が爆発した。
「このように、声を発するか、心の中で強く思うかで呪術を発動することができます。それでは兄さんもやってみて下さい。そうですね...まずは危険度の低い、身体能力上昇の呪術である毘沙門天呪から」
「わかった」
少し緊張しつつ、懐から呪術符を取り出す。
「興れ!毘沙門天呪!!」
体に貼って、叫ぶ。
すると、体から、まるで煙のように、オーラのようなものが湧き出て来る。
「その状態で動いてみて下さい」
一歩踏み出す―体が軽い。
走ってみる―一度地面を蹴っただけでかなり進む。
これが...呪術...。
俺が感激に浸っていると巴が、
「効果が強い呪術ほど効果時間は短く、効果が弱い呪術ほど効果時間は長い、今、兄さんが使っている呪術は全身体能力を上げるものでかなり強力なため、効果時間は三十秒ほどです。多少個人差はありますが。また、使用者が呪術符を剥がすと、そこで効果が切れ、その呪術符は使えなくなります。尚、使用者以外は解呪しない限り剥がせません」
と、説明を加える。
それなら戦いの最中に急に剥がれる心配もないな、と、思っていると、体の周りのオーラのようなものが消え、元に戻る。
呪術の効果が切れたのだ。
「それでは、他の呪術符も使ってみましょうか」
設置型トラップの降三世明王呪、一定範囲内に人が入って来たのを感知する千手観音呪、先程、通が使った火界呪、防壁を展開する慈救呪、一通り使うと巴が口を開く。
「一通り終わりましたね、では、次に兄さんの能力の行使です、と、言いたいところですが、兄さんは能力行使には何が必要かご存知ですか?」
「えっと...前、火印中佐が言ってた強く念じること、か?」
「そうですね...私は"D"でないのでその辺りのことはよくわかりませんが...、櫂さん、説明代わって貰っていいですか?」
「わかった」
コクン、と櫂が頷く。
「"D"の能力行使には強く念じることも大切だよ。だけど、それ以上に"D"が生まれ持っている無我力というものが必要になる。能力を使うごとに無我力を消費していく。無我力量は人それぞれ、無我力を使った後は時間と共に回復する。無我力が無くなると能力が使えなくなり、体が無我力の回復にほぼ全てのエネルギーを使うため、体に力が入らなくなり、倒れ、気を失う。最悪の場合、死に至るという研究結果も出ている」
能力の使い方によっては死ぬかもしれないという事実に驚く。
「あと、無我力量は鍛えると増えるよ」
櫂が補足説明する。
「それでは、兄さん。実際に使って頂けますか?」
巴が言う。
「お、おう。わかった」
返事はするが、死ぬかもしれないと聞くとつい、体が震える。
「大丈夫だよ、無我力はそんなに直ぐになくなったりはしない」
と、蓮が言う。
「そうか」
少し安心する。
すると、手の平から火の玉が出てくる。
「ふうっ、出来たぞ」
全員が安堵の表情だ。
「そのまま続けて下さい。大きくしたり、小さくしたりは出来ますか?」
「わかった、やってみる」
言われた通りにやってみる。
サイズを変えようとしても変わらない、なら...
「おしっ、できた」
サイズを変えるのではなく、火力を上げたり下げたりする感覚だ。
「では、その火の玉を投げたり飛ばしたりすることは?」
この火は辺りの気温を上げるし、紙なども燃やせるだろう。
だが、手で触っても熱くないし、体も熱いとは感じてない。
だから、何度か掴もうと試みたが、形がはっきりとせず、掴むことができない。
その為、投げることは不可能だろう。
なら...飛ばすか。
頭の中で、手の中にある火の玉が放物線を描いて前方に飛んでいくのを想像する。
すると、火の玉が前に飛んでいき、消えた。
「こんな感じか?」
「そうです。では、数を増やしたり、体と離れた所に生成したり、玉の速度を上げたりすることは?」
「一気にハードル上がったなぁ...」
「でも、さっきのことを初めてなのに一回で出来たんだから出来ると思うよ」
櫂が言う。
蓮も頷いている。
世辞かもしれないが、能力を使いこなせている二人が言ってくれると出来る気がしてくる。
「よしっ」
集中する。
手を挙げ、頭上に複数の炎を生成―数は六つ。
そして、それを前方の地面の同じ場所へ飛ばす―不意打ちなら躱せない位の速さで。
ドドドドドドォォォン
「凄い...」
全員が唖然としている。
「これなら、実戦でも使えるでしょう。でも、どうしてここまで簡単に生成量などを制御出来るのですか?櫂さんの時なんて二週間以上もかかったのに...」
巴が不思議そうに聞いてくる。
その横で櫂は穴があったら入りたいと言わんばかりの顔をしている。
「なんでだろうな...火の出し方、使い方が、体でわかっているような...、それより、俺からも一つ、質問いいか?」
「あっ、はい。私に答えられることなら」
「この炎、熱いか?三人も答えてくれると嬉しい」
手の平に炎をつくりつつ言う。
それに対し、全員が口を揃えて、熱い、と答えた。
まあ、それが普通だろう。
だが、何故、俺だけが熱くないのか、即ち、体が熱く感じないのか。
ただ単に、能力を使うことで免疫のようなものが付いただけなのだろうか。
自分の能力について一人考えた。