第三章 暗躍する邪鬼
上層議会―。
「綾斗大将。現在スパイ容疑で監視している五人の陽光の組所属隊員はどうなった?」
源太郎元帥が言う。
「現在、須田伍長、田代上等兵、倉山上等兵、波多野一等兵、中村一等兵の五人には、邪鬼の帝に漏れてはいけない情報は伝わらないようにし、深月中将の監視をつけています」
綾斗大将が答える。
「それなら、それをそのまま続け...」
―ドゴォォォン。
「なんだ!?」
「今、深月中将から連絡が入りました!場所はここからおよそ五キロメートルのB区の廃墟、先ほどの五人がスパイで、脱出を試みたようです。敵の一人が超能力者、それによる爆発です。深月中将が現在交戦中、戦況はあまり芳しくないようです」
「今、陽光の組の隊員はどうしている?」
「深月中将以外は全員、訓練舎で訓練中です」
「他の組では、そこより近くにいる者はいないか?」
「月影の組、邦坂巴隊員が兵舎にいます」
「直ぐに向かわせろ」
「了解」
遡ること約一分。
邦坂祐はミーティングを終え、部屋に戻ったところだ。
今からどうしようか、時刻は午後三時半過ぎ、夕食まではかなり時間がある。
時刻もまだ早いため、部屋着にも着替えられない。
―ドゴォォォン。
「なんだ?」
窓から外を見てみると、B区の辺りから煙が上がっている。
急いで外に出てみると、同じ隊の四人も出て来ていた。
全員、何が起こったのかわからないという顔だった。
「とりあえず、現場へ行ってみましょう」
巴の声で兵舎を出ると、
―ウゥゥゥン。
兵舎の近くの警報器が鳴った。
『B区で侵入者との戦闘が始まりました。付近の住民は速やかに避難して下さい。繰り返します―』
火印中佐の声だ。
『邦坂巴隊は現地へ向かい、現在、交戦中の皇深月中将と協力して鎮圧せよ。繰り返す―』
B区ならここから二キロメートルほどか。
「皆さん、気をつけて下さい。深月中将が協力を要請する相手です。先程の爆発も考えると、相手も"D"だと考えられます」
約三分後。
「この辺りか」
俺が声を漏らすと、櫂が、
「あれだな」
と、ぼろぼろの廃墟を指す。
「あれは―」
上から双眼鏡で見てみると、陽月の帝の軍服を着た人が六人、中将の階級章を着けた女性が一人、五人を相手にしている。
相手の一人は"D"のようだ。
瓦礫などを爆発させている。
巴が無線で呼びかける。
「皇深月中将、応答願います。こちら邦坂巴軍曹。邦坂隊、現着しました」
『邦坂軍曹、こちら皇深月中将。敵は五人、一人は物を爆発させる超能力者、大きな物や形の複雑な物を爆発させる時ほど時間がかかり、小さな物なら一秒もかからない。他の四人は恐らく"D"ではない』
「わかりました。指示をお願いします」
『私の風魔法で瓦礫を全て吹き飛ばすから、すぐに上から落ちて来て。風のクッションを作っておくから』
「了解」
『じゃあやるよ。三、二、一...』
下方で風が吹き荒れると同時に俺たちは落下する。
着地寸前、ふわりとした感触に包まれ、着地する。
「総員、攻撃開始!」
深月中将の声で全員が動き出す。
「―っ!?」
敵は急な増援に焦るが"D"が手を挙げ、残った天井の一部を爆発させる。
「任せて!」
深月中将が叫ぶ。
爆風や瓦礫は全て空中で止まり、吹き飛ばされる―深月中将の超能力だ。
敵の全員が呪術符を出す。
「全員伏せろ!」
櫂の声だ。
指示通りにすると、
「鉄の魔法弾、生成―発射!」
自分の体の上を尖った鉄の塊が通って行ったと思うと、全ての呪術符を貫通している。
敵の近くに居た巴と通が呪術符を取り出して、腕に貼る。
すると、二人の体からオーラのようなものが出て来て...。
二人が敵に近寄る。
その速さは人間離れしていた。
これが、呪術符の力か。
敵はその速さに付いて行けず、殴られ、投げられ、他の仲間にぶつかり、共に転倒した。
残った一人の"D"が自分の周りの地面を爆発させる。
巴と通は後ろに下がる。
だが、その爆発は攻撃ではなく、近付けなくされるものだった。
敵の周囲の地面は抉られ、近付けない。
だが、敵が油断したところ、蓮が超能力を使い、敵の近くまで飛んで行って関節を極める。
他の四人は既にのびている。
これが、"D"の能力と呪術符の力...!
戦いにおいての"D"の能力や呪術符を使っているところは初めて見た。
俺が呆気にとられていると、
「兄さんも敵の拘束を」
と、巴から鋭く指示を受ける。
「りょ、了解」
急ぎ、敵の拘束にかかる。
...
「よし、終わったな」
五人目を縛り終えた。
「深月中将。この人達、どうしますか?」
「うーん...あっ、今、上層議会があったところだし、そこに持って行こうか」
すると、縛られた五人が急に浮き上がった。
「うわっ!?」
「私の風魔法だよ」
微笑みながら深月中将が答える。
風を下から吹かせて浮かせているのだという。
「あ、巴軍曹。上層議会に連絡しておいてくれる?そしたらもう帰っていいよ。新宿官舎第一号室には佐官以上しか入れないしね」
新宿官舎第一号室―上層議会が行われる場所だ。
「はい、わかりました」
数分後、新宿官舎第一号室前。
コンコン。
深月中将が扉をたたく。
「皇深月中将です。捕虜五人を連れて来ました」
「入れ」
中から声がする。
「失礼します。先程、邦坂巴隊と協力して拘束し、そのまま連れて来ました。捕虜はどうしますか?」
「後で情報を引き出す。今は地下牢に入れておけ」
源太郎元帥が答える。
横から源太郎元帥直属の部下が出て来て、捕虜を受け取る。
「交戦に至った経緯は?」
「監視していると、定刻になっても訓練舎へ向かう様子も見せなかったため、止めようと思いました。そして相手が抵抗しても問題ないよう、廃墟付近で止めると、攻撃してきたため、拘束しました」
深月中将が答えると、
「随分と好戦的なスパイだなぁ」
光中将が捕虜に呆れている。
「今日の会議はこれで終わりだ。これから、捕虜から情報を引き出す。その情報を元に、明日、もう一度会議を行う。明日は深月中将も参加すること」
「はい」
会議が終わると、火印中佐が、
「なあ、深月」
深月中将に呼びかける。
「何?正斗」
「あいつ、どうだった?」
「あいつって、新しく入った邦坂祐二等兵?」
「そうそう」
「戦闘中は全く動いてなかった。拘束はしてたけどね。どうも"D"の戦いとか呪術符を見るのが初めてだったみたいで呆然としてた」
「やっぱりか...初めて会った時、"D"について全く知らなかったし、基本装備を呪術符抜いて渡した時、何も言わなかったし。まあ、後で渡したけど」
「他の人が出したのが呪術符だってのはわかってたみたいだけど使い方は知らなかったみたい」
約一時間後、火印中佐が自室で一人呟く。
「これは大変になりそうだ」