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第二章 邦坂巴隊

ホームルームの終わりを告げるチャイムが鳴る。

「これで終わりか」

そう(つぶや)く。

俺は昨日から学校に通っている。

三日前、火印(かいん)中佐は俺を月影の組の一員と言った。

軍に所属する者は学校に行かなくてよいらしいが、入隊するまでに手続きが要るようだ。

今は手続き終了待ちとこの国での生活に慣れるのを兼ねて学校に通っている。

学校は新宿第一高校(しんじゅくだいいちこうこう)、俺が元々住んでいたのは横浜らしいが、今は電車もあまり動いていないため、四年前の知り合いに会うこともないだろう。

俺は表向きには四年前の誘拐事件からの無事生還ということになっており、記憶や俺が"D"であることに関しては知られていない。

もし、四年前の知り合いと会うことになればそれが世間に知られるということになる。

「帰るか」

兵舎までの道を辿る。

時刻は四時頃、この時間帯は兵舎の辺りは人影がなく、整然としている。

恐らく、兵士はまだ訓練を受けているのだろう。

しかし、今日は一人の私服の少年がいた。

年は俺と同じ位だろうか。

その少年がこっちに向かって歩いてくる。

「ドンッ」

すれ違い際に肩が当たる―いや、当てられた。

「おい、こらてめぇ」

―あ、不良だ。俺は理解する。

無視して通りすぎるが、後ろから背中を殴られる。

「...っ!」

振り向くと少年はもう片方の手で殴りかかってきている。

反撃に出ようと思ったが、俺は軍人、相手は一般人、無闇に手を出すわけにはいかない。

逃げることにした俺は間合いをとる。

だが、一瞬でその間合いがつめられ、殴りかかってくる。

「ちっ...」

逃げるのが無理だと思った俺は相手の手を肘で受け止め、もう片方の手で殴りかかる。

しかし、相手もその手を肘で受け止める。

一、二、三、追撃もかわされる。

―こいつ、中々やるな...。

(しば)し戦いは続く。

そこで、

「そこまでだ」

鋭い声が辺りに響く。

動きを止め、声のした方を向くと、火印中佐が立っていた。

「ええと、火印...中佐?」

俺がそう言うと、

(とおる)、どうだった?」

と、不良少年に向かって言う。

「えっ!?」

俺が拍子抜けた声を出していると、火印中佐が、

「行くぞ。(ゆう)、おまえも来い」


「ここだ」

火印中佐が部屋のドアを開ける。

連れて来られたのは至って普通の会議室。

一体、今から何をするのだろうか。

「祐、少し肩の力を抜け」

火印中佐が言う。

「今からするのは事務的なことだけだ」

「ああ、そうですか」

安心して肩の力を抜く。

「本題に入る前にこいつを紹介しておこう」

そう言ってさっきの不良少年を指す。

「こいつは水無月(みなづき)通小尉。月影(げつえい)(くみ)邦坂(くにざか)(ともえ)隊に所属している。年は十六、おまえと同い年だ」

「水無月通です。よろしく」

「こちらこそ、宜しくお願いします」

慌てて返事を返す。

「さっき、通がおまえを襲ったのは俺の命令だ。おまえがどの程度の格闘術を持っているか知りたくてな」

そう言われて、ようやく状況を把握する。

「で、通。祐の実力はどの程度だった?」

「僕と同じか、少し上かでしょう。先ほどの殴り合いではほぼ互角でしたが、彼は僕を一般人だと思って相手していたはずなので本気ではなかったと思います」

「そうか...なら、格闘術に関しては問題ないな」

そう言って俺の方を向く。

「それでは本題に入る。軍への入隊手続きが終了した。これでおまえは正式に月影の組の一員だ。邦坂巴隊に配属される。階級は二等兵、だが、"D"には小尉以上の階級が与えられることが多い。暫くすると上がるかもしれない。それと、明日からは学校に行かなくていい。明日は十五時から邦坂隊のミーティング、それだけだ。場所に関してはどの隊も隊長に任せてある。あとで巴にでも聞いておけ。質問は?」

「いえ、ありません」

「なら、解散だ。通も今日は帰っていいぞ」

と、言いつつ、部屋を出て行った。

「ねぇ」

通が話しかけて来る。

「同じ隊だね。これからよろしく」

「あっ、宜しくお願いします」

「階級が上だからって敬語なんか使わないでよ。同い年だしさ、他のメンバーもきっとそう言うよ。それに"D"なんでしょう?階級もすぐに上がるよ」

「じゃあ...よろしく」


次の日、今は午前十時頃。

俺は今朝、自室に届いた郵便物を眺めている。

火印中佐からだった。

「目を通しておくように」

と、添えられていた。

陽月(ようげつ)(みかど)に関する資料だ。

資料の半分以上は以前聞いたことと同じだった。

新しくわかったことは軍の兵士は全員で四千人にも満たないということだ。邪鬼(じゃき)の帝には推定で五千人近くいるとのことだ。

陽光(ようこう)の組には約二千人、月光(げっこう)の組には約千五百人、月影の組には僅か百人ほどだ。

だが、“D“の人数は月影の組が一番多いようだ。

陽光の組に二人、(すめらぎ)綾斗(あやと)大将、皇深月(みつき)中将、主家の人のようだ。

月光の組に一人、皇(ひかる)中将、前に会った人か。

月影の組に四人、火印正斗中佐、武藤(むとう)(かい)小尉、進道(しんどう)(れん)小尉、そして俺、昨日会った通は“D“ではないようだ。

このことから“D“はかなり珍しい存在であることがわかる。

これなら俺がさらわれたのにも合点がいく。

資料を読み終えた俺は昼食をとりに兵舎の食堂に向かった。


道中―

ん?誰だあれ?

巴が同い年位の少女と二人で前を歩いている。

二人とも食堂に向かっているようだ。

あっ!

そこで、ミーティングの場所を聞いておかなければならなかったことを思い出す。

後ろから声をかける。

「巴、こんにちは」

巴が足を止め、振り返り、挨拶を返してくる。

「あっ。兄さん、こんにちは」

それと同時にもう一人の少女も振り向く。

少女は髪は薄い青色で短く、おとなしい、落ち着いた雰囲気だ。

「えっと...巴、彼女は?」

「蓮さんはまだ兄さんと会ったことありませんでしたね。こちらが私の双子の兄、祐です」

「邦坂祐です。...あなたは?」

「ボクは進道蓮。巴とは同じ隊なんだ。よろしく」

手を差し出され、それを握る。

「こちらこそ、よろしく」

「ところで、祐クンは今からどこへ?」

「食堂だけど」

「奇遇だね。ボク達も今から食堂に行こうとしていたところなんだ。一緒にどう?」

「えっ、まあいいけど」

「ならよかった。巴もいいよね?」

「はい、私も構いません」

「決まりまだね。じゃあ三人で食堂行こっか」

蓮は見た目に反し活動的なようだ。


「なあ、巴。さっき聞こうとしていたことなんだけど...」

今は三人で食堂で昼食をとっている。

「はい、何ですか?」

「今日を部隊ミーティングってどこであるんだ?」

「えっ!?」

ここで声を上げたのは巴ではなく蓮。

「祐クン同じ隊だったの!?」

「はい、今日、ミーティングで紹介しようと思っていましたが。兄さんとは昨日から同じ隊です」

少し嬉しそうに答える巴。

「へぇ、そうだったんだ」

どうやら彼女は同じ隊だと知って接していたのではないらしい。

恐らく彼女は誰とでも気軽に話せ、仲良くなれる人なのだろう。

「ミーティングの話でしたね。ミーティングはいつも兵舎の私の部屋でしています。会議室でする必要もありませんし」

「巴の部屋って何処にあるんだ?」

「ええっ!?知らなかったんですか!?隣の部屋ですよ!」

「ええっ!?」

初耳だ。

「その反応...血の繋がりを感じる」

蓮の一言で我に帰った巴が説明する。

「コホン、緊急時でも部隊で集まり安いように部屋が部隊ごとに固まっていることが多いんです」

「そうだったのか...」

昼食を食べ終え、三人で兵舎に戻る。

その時、確かに巴は隣の部屋に入って行き、蓮はその隣の部屋に入って行った。


午後二時五十分、俺は部屋を出た。

すると、巴とは反対側の隣の部屋から通が出て来た。

「やあ」

「なんかよくわからないけど、(だま)された気分だ...」

「どうしたの?」

「いや、通は悪くない...それより、通のお隣さんって...」

「同じ隊の武藤櫂だよ」

やっぱり、心の中でそう思う。

巴の部屋のインターホンを押すとすぐに巴が出てきた。


「では、皆さん揃ったことですし、早速始めましょうか。まず、蓮さんと通さんはもう知っているようですが、新しく部隊に仲間が加わることになりました」

そう言うと巴は俺を見た。

挨拶しろ、ということか。

「邦坂祐です。階級は二等兵。"D"です。宜しくお願いします」

俺が"D"であることは秘密になっているが通が知っていることを考えると言っても問題ないだろう。と、いうより同じ隊なら言っておかなければならない。

「彼は私の双子の兄で炎を生成する能力者です。このことを知っているのは上層(じょうそう)議会(ぎかい)の方々と火印中佐の隊の方々、あとは私達だけなので決して外には漏らさないように」

上層議会とは主家の当主と名家の当主、陽光の組、月光の組、月影の組の代表それぞれ一名ずつ、合計八人で構成された陽月の帝の最高権力を持つ機関だ。

「なんで祐クンの能力は機密なんだい?」

ここで口を開いたのは蓮だ。

「ボクの飛行(ひこう)能力が発見されたときは機密にならなかったけど...」

「それは能力の危険度の違いが原因です」

蓮の率直な疑問に答える。

「兄さんはまだ能力に関して完全に把握しきれていません。そのんな状態でこのような能力があると世間に知られれば社会現象になりかねません。蓮さんは入隊前する前のことなので知らないかもしれませんが、櫂さんの魔法(まほう)(だん)の生成能力が発見された時にもこのような措置がとられています」

「なるほど」

ここで、巴は何かを思い出した表情になり言った。

「そういえば櫂さん、まだ兄さんと面識がなかったと思いますが」

そう言われ、ずっと座って話を聞いていた少年が立ち上がった。

「武藤櫂です。階級は小尉。よろしく」

ぺこりと頭を下げられたので、俺も「よろしく」と言い頭を下げた。

月影の組の部隊は基本、五人で一つの部隊だからこれで全員だろう。

「皆さん他に何かありますか?」

今度は誰も声を上げなかった。

「今日のミーティングでは他に話すことはないのでこれで解散とします。明日以降の予定は、今、会議中の火印中佐から会議後に連絡があると思いますので、追って連絡します」

どうも月影の組は他の組と違い、スケジュールが毎日異なるようだ。


同時刻、上層議会の会議が行われていた。

皇家当主・皇源太郎(げんたろう)元帥が重々しく言った。

「今日の議題は近頃不穏な動きを見せている邪鬼の帝についてだ」














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