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第十九章 通

 遠くから戦闘音が聞こえてくる。それも色んな方向から。邦坂くにざかともえはもうとてもじっとしていられる状態ではなかった。

 兄の記憶を取り戻すと言っておいてもし大事があれば元も子もない。

 焦る気持ちを抑えて子声で呟く。

「兄さん……」

「巴さん、何か言った?」

 隣を走るとおるが気にかけたようにして声をかけてくる。

「あ、いえ……何も。すみません」

「別に謝る必要なんてないよ」

 どことなく気弱で自罰的になっている巴を安心させるように言う。

「兄弟が心配な理由はよくわかるから」

 なんとなく気付かれていたのだろう。

 通には確か、血こそつながってはいないものの、とても仲の良い兄がいた。昔何かあったのかもしれない。そのセリフは巴をひどく落ち着かせるものだった。

ゆう君ならきっと大丈夫、実力は本物だ」

 そのとき、

「わあっ」

 突然のれんの声。

 刹那。二手に分かれてその後この道を通るとよまれていたのか、またも天井が崩れた。

「ケホッケホッ、皆さん無事ですか!?」

「うわっ、ボクは大丈夫!」

「僕も大丈夫だ」

 すぐ横から蓮とかいの声が聞こえる。

「僕は――やっぱりね、大丈夫じゃなさそうだよ」

 瓦礫をまたいで聞こえてくる通の声。

 前衛が櫂、中衛が巴と通、後衛が蓮という陣形だった。通常ならこの別れ方はおかしい。直前の蓮の悲鳴のことも踏まえて考えると出る答えは一つ、通が蓮の手を引っ張って自分が身代わりになったということ。異常な反応速度と今の「やっぱりか」という言葉を考えても通はこのことが起きると半ば予想しており、わかってて起こした行動ということ。

 通の前には一人の、黒と青の隊服を身に着けた女性が立っていた。

「先に行って、もしかしたら足止めにしかならないかもしれないけど。いや」

 瓦礫をまたいでも聞こえる声で言う。そしてボソリと、

「もう――決めたじゃないか」

 そして、次は向こうにも聞こえる声で、

「彼女は僕が倒す」

 と、言った。

「わかりました。任せます」

 やると言った相手には任せる。余計な心配は横槍に過ぎない。

 遠くなる三人の足音響く。

「へえ、”D”でもないあなたが私に勝つですって? 面白いこと言うじゃない」

 ”D”でないことがバレている。既に素性は調べられているのだろう。

「ああ、そうだ」

「それはこれを見てからでも言える?」

 ニヤリと一つ笑う。

 そして、右腕を変貌へんぼうさせていく。

「何故、お前がその能力を……」

「ははは! いいねえ、その反応!!」

 間違うはずはない。彼女が使った能力は今は亡き通の姉のものだった。

「そうか、ここの連中は知らないのか。”D”を殺すとな、行き場を失った能力は大概殺した奴に受け継がれるのさ!」

「あの日、まさか、お前が……!」

 抑えきれない殺意が剝き出しになっていく。

「お前は、僕が殺す」

「はっ! この能力の強さは知ってんだろ。かつて陽月ようげつみかどで対人戦最強とうたわれた水無月あやの能力だってなあ!」

「なにも知らないお前なんかに、負けるはずがない」

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