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第十八章 終戦の幕開け

懐から拳銃を取り出して二発撃ち込む。

しかし、魔術とやらに弾かれてしまう。

弱点がないように見える魔術だが、頬を汗が通っているのを見ると行使は(いささ)か辛いようだ。なら、狙うのは一つ、無我(むが)力切れ。

「湧き起これ、陽炎(かげろう)!」

辺りを地面から湧き出る炎で満たす。

「無駄ですよ」

と、一つ笑い炎を()き消そうとする。

(ほとん)ど消え掛かったところで勝負を仕掛けた。

効率よく無我力を減らすには超能力を使い続けさせるのが最も速い。タイマン勝負だ。

拳を握り、自分を奮い立たせ、火力を一段階、いや二段階ほど上げる。廊下が炎で満たされるほどに。

「何っ!?」

「ついてこれるかな?」

「小癪なっ!」

叫び、向こうも魔術をフルで回転させてくる。

自分まで炎になってしまいそうなほどに力を回す。

そして、二人の力が完全に相殺されたとき――。

「がはっ!」

相手が吐血した。かなり効いているようだ。

だが相手はそんなことなど構わず攻撃してくる。

「私は、負けるわけには……!」

腕や足に圧力がかかり、地に膝がつく。

相手はもう恐らく死と紙一重の状態だろう。魔術の切り替えもスムーズにはできないはずだ。

屈んだ体勢から敵の心臓に狙いをつけ、鋭い炎の弾を撃った。

その弾は何にも邪魔されることなく、正確に相手の心臓を穿(うが)った。


相手は左に跳び、右手の拳銃をこちらに向けてくる。

発砲と同時に、左手を二枚の何やら光るものが飛び出した。

――コインだ。

たかがコイン、されどコイン。辺りどころによっては気絶もあり得る。

銃弾を(かわ)し、冷静に二枚のコインを拳銃で弾く。

空中に浮いた体は弾を避け辛い。相手に向かって銃弾を三発撃つ。

一発目を腕に仕込ませたナイフで弾き、壁を蹴って二発目三発目を躱す。

相手の着地とともに拳銃を投げ捨て、懐からナイフを取り出して一気に近付いた。

ナイフとナイフの衝突音が鳴り響く。そのまま、競り合った状態で敵の背後に結界をつくる。

ナイフを弾き、もう一度距離をつめる。

当然相手は下がろうとする。だが結界が阻み、下がるスペースなどない。

「何!?」

初めてポーカーフェイスを崩した。

続けてナイフを振る。それに合わせて相手も振るが、狙いを相手より少しずらしたため相手はナイフを合わせきれず、腕が空へと弾かれることになる。

その隙を狙って、

「終わりだ」

心臓を穿つ。

「はは……初めて……任務、失敗……か…………」

「筋は悪くなかったぞ」

もう息がない相手に一言だけ発した。

「さーて、通信室に行くか」


「がはっ……」

敵は胸を抑え、床に崩れ落ちる。

「止血の……魔術を……」

だが何も起こらない。もう無我力も切れてしまったのだろう。

多分、もう死ぬ。だがまだ息はある。

「一つ……いや、二つほどいいか?」

「なんでしょう?」

苦しそうに答える。

「おまえの魔術、それはどういうものだ?」

さっき思った疑問を率直にぶつける。

「簡単な話ですよ。習得型の超能力です。どんなことでも大体練習すればできるようになります」

「何で炎の消す能力なんてものを持ってた? その能力は俺みたいな″D″との戦闘にならない限り無我力消費に見合うものじゃない」

「そこまでわかってたんですか。はは……あなたとの戦闘のためですよ」

と、自嘲気味に笑みを溢す。

「長がおっしゃってました。側近である私よりも優秀な部下がいる。いや、いた、と」

次第に声が薄くなっていく。

「信じられませんでした。そして今日あなたを倒そうと思ったわけですよ。倒せば長は私が最も優秀だと認めて下さるだろうと」

成る程、そういうわけか。

勝ちにこだわっているであろうという二つ目の疑問は合点した。

「そういえば先程、勝てば長の場所を教えると言いました。我らが長は長が最も好きな場所にいらっしゃいます」

「それはどこだ?」

ゲフッ、と一つ咳を(こぼ)して言った。

「全く、対策しておいてこの様とは。長に顔向けできません」

――息を引き取った。

直後、

(ゆう)

と後ろから声がかかる。

振り返ってみると

火印(かいん)中佐」

「おまえも″D″と遭遇したか」

「はい今しがた」

と、二人は黒と青の隊服を着た″D″に目をやる。

「人の死体ってのは何度見てもあまり気分のいいものじゃないな」

「そうですね」

火印中佐は俺よりも何倍も多く人の死体を見てきているだろう。思うことも俺より多いはずだ。

「ところで、剛一(ごういち)の居場所はわかったか?」

「いえ、この″D″が中にはいないと言ってましたが」

と、一応通信室の中を確認するべく火印中佐はパネルに手をかざす。

「ほんとにいないな」

「はい。一番好きな場所にいる、とも言ってました」

「一番好きな場所……か。俺に心当たりはないな。おまえは?」

「いえ、特には……」

ない、と言いかけたところで一つの光景と可能性が脳裏をよぎった。そして、そのコンマ一秒後には走り出していた。

「おい、どうした。祐!」

「すみません、屋上を見てきます! 火印中佐には他のところをお願いできれば……」

もうぐずぐずしてはいられなかった。

「わかった。屋上は任せた!」

俺は殆ど確信を持って言えた。施設長は屋上にいると。

そして、サラマンダーの物語はクライマックスへと――。

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