第十七章 単独戦闘
「兄さんは恐らく通信室に向かったと思います。私たちもそこへ向かいましょう」
「ここから一番近いのはこの建物を出て第二官舎の西門から入って地下を通りこの建物に戻ってくるルートだな」
櫂が確かめるようにして話す。
「そうだね。陣形はどうする?」
蓮が問う。
「祐君がいなかったときの形でいいんじゃない? 櫂君が前、真ん中が巴さんと僕、後ろが蓮さんの」
通が提案する。
「それがいいですね。では行きましょうか」
そして、外に向かった。
敵が衝撃波で攻撃してくる。
それを横に躱し、壁を蹴って近付く。そして、炎を纏った腕で殴りかかる。
だが、何か障壁に阻まれる。火印中佐の結界とは少し違うようで、こちらのはただ超能力で生成した壁といった様子だ。
一度距離をとり、空中に複数の火の鳥を造形し、放つ。
「舞え、フェニックス!」
火の鳥が相手の″D″を襲いにかかる。
だが、相手は顔色一つ変えることなく指を鳴らす。
すると、炎が気化した。
驚愕の表情は恐らく隠しきれていなかっただろう。だが、なるべく平静を装い、思ったことを口にしてみる。
「千里眼の能力者というのもお前か?」
「何故そうお思いに?」
「能力にあまりに一貫性がないからな」
大体の″D″は例えば俺なら炎を生成、櫂なら魔法弾生成、蓮なら飛行、といったように、一つしか能力を持ち合わせていない。少し特殊な例でいえば深月中将がそれにあたる。風をつくることもできれば消すこともできる、操ることだってできる。陽月の帝では多様なことができる″D″の能力を″魔法″と称し、深月中将の場合は風魔法の能力者とされている。だが、この場合も能力の方向性は同じである。
しかし、今回は全く別物だ。
障壁があった。炎が消えた。
炎が消えた理由は検討がつかない。相手が炎を消す能力を用いない限りは。
″D″が生成するものは通常のものとはかなり異なる。その証拠の一つに俺の炎の生成は酸素を必要としていない、全て無我力で賄っている。
だから、炎が消えた理由は酸素がなくなる類いのものではない。
そのため、空気魔法の″D″で、障壁は空気の層による防御とは考え辛い。
今見た二つの能力は紛れもなく別物だ。
「ええ、そうですよ。あなたは洞察力がいい」
また、彼の容姿を見る限り、戦士や兵士といった感想は持てない。動きやすそうとはいえないようなコート、一般的に使用されていそうで何時でも障害になりうるような眼鏡、片手には本さえ持っている。
続けて話した。
「私は純粋な魔術師ですよ」
今まで使っていたものは魔術だったという。それが具体的にはどういったものなのかはわからないが、とりあえずは色んなことが満遍なくできる、という認識で間違いないだろう。
「そういうあなたはわかりやすい。まあ……、いえ、余計なことは話さないでおきましょう」
と、歯切れ悪く、後に何か話そうとしたが切ってしまう。
「なんだ?」
「それも勝てたら教えてあげますよ」
もう一度繰り返した。
俺には彼が、俺と戦うことや俺に勝つことに執着しすぎている気がしてならなかった。
「さーて、剛一はどこにいるかな」
暗い廊下を一人で歩く。
特にあてがあったわけではないのでとりあえず、情報集めに通信室に行くことにする。
通信室に続く階段を登る。
さっきまであんなに敵がいたのに全然出てこないな、などと考えていた矢先――。
――!?
背後で銃声がした。
咄嗟に振り返り、結界をつくる。一つの銃弾が弾かれた。
「誰だ」
一応呼び掛けてみる。返事を期待したものではなかったが。
すると、次は足元からクナイが飛んできた。
一歩下がり身を翻して躱す。
すぐさま袖から火界呪を取り出し、クナイが飛んできた方に投げる。だが、爆発を命じる前に切り裂かれた。
それなら、物理的な威力のあるものを。
懐から拳銃を取り出し同じ方へと乱射する。しかし、その銃弾は空しく壁にぶつかる。もうそこにはいないということだ。
初めの発泡からクナイまでの時間がおよそ二秒、そしてまた距離を詰めてくるはずだ。なら――
「千手観音呪!」
自分の背後で展開する。一定範囲内に何かが入るのを捉えるこの呪術符はしっかりと敵を感知した。
ナイフで切りかかってくるのを避け、自分の目で敵の姿を捉える。
しっかりとは捉えられなかった。だが、闇に何かが動いているのがわかった。
――擬態化の能力か。
これはまだ直感の範疇だが、敵は恐らく背景に擬態できるのだろう。その予想が当たっていれば――。
辺り一面に結界をはりめぐらす、床、天井含めて。敵と背景とを遮断した。
「ちっ。不意討ちは失敗か。なら正面から殺すまで」
若い男が現れた。
結界という知らないものへは擬態できないのだろう。
「ようやく姿を現したな。だが能力が封じられた上で俺に勝てるか?」
「戦いの中相手の心配か、笑わせる。陽月の帝の中佐、火印正斗を殺すのが俺の仕事。無論、勝てる」
拳銃をしまい、腰の剣に手をかけようとしたが、さっき折れてしまったためもうそこには剣はない。
拳銃を構え、戦闘体勢に入った。




