第十六章 単独行動
邦坂隊の五人は窓から差し込む夕日で薄暗く長い廊下を走っていた。
最も色々なことに対応しやすい俺が前衛、急なことに対応できる蓮が中衛、後衛は一番攻撃範囲が広くどこからでも援護できる櫂だ。中衛の右側に巴、左側に通と並び、より安定した陣形になっている。
「いたぞ、侵入者だ!」
陽月の帝の隊服を着た五人の兵士、恐らくは基地の外周警備を担っていた兵だろう。
それぞれ武器を構え、殺すために攻撃を試みる。
近接武器が三人、機関銃を持っているのが二人。
三人に近付かれる前に、二人に引き金を引かれる前に、俺は空中に五つの炎の玉を生成――発射、五人は炎に包まれ蠢き、悶え、悲鳴をあげる。直後、もう既に悲鳴は止み、地に倒れていた。
俺達は顧みることなく黙々と走った。
少し走っていると、突然、俺の直ぐ後ろで大きな破壊音が響いた――天井が落ちてきた。
咄嗟に前方に回避し、崩落の下敷きになることは回避した、だが――
「みんな! 無事か!?」
崩れたところが俺のほぼ真上だったようだ。通路は断たれ、一と四に別れてしまった。
「ケホッケホッ」
誰かが咳き込むのが聞こえる。落ち着いてみると辺りはかなり埃が舞っており、薄暗いのもあわせると相当視界が悪い。
「巴、通、蓮、櫂、無事です! 兄さんは?」
「こっちも問題ない」
四人とも無事だったようで胸を撫で下ろす。
「どうする? 合流するか?」
とはいったものの、通路を塞いでいるものは不燃物で頑丈、壊すのには少しといえど時間を要する。その上、敵襲も警戒しなければならない。この丈夫な天井にはある程度の呪術が施されており、この数日間で罠に仕立てあげることやタイミングを見計らって崩せる状態にするのには些か無理がある。壊されたのは"D"の仕業とみて間違いないだろう。
なら見られている可能性が高い。
一瞬でも無防備な姿を晒すことになればそれは死を意味することになるだろう。
向こうも同じように考えたようだった。
「別の道を探します。呉々もお気をつけて」
火印隊は正面のいつも使っている出入口から敷地内へと入った。
入って直ぐのところで、夜になり太陽の光りも期待できずに暗くなっていた室内に電気の明かりが照らされた。
自動で電気がつくシステムではなかった。だから、見られている、もしくは近くに――
「皆さん、はじめまして。ぼくはトウキ、よろしく」
俺の視線三十メートルほど先に、普通の生活を送っていたなら今頃中学校入学の準備でもしていたであろう兵士にしては小さな少年が立っていた。
だが、身に付けていたものは黒と青の隊服だった。
「ぼくと遊ばない?」
そう言って、右手を振りかざす。
「なんだ……これは?」
途端に目の前に闇を帯びた野獣、謂わば魔獣のようなモノが形どられる、それも何匹も。
「魔物使いだね」
時雨が呟く。
「この程度のモノが幾つ増えようと問題ない」
魔獣の群れに向かって上から結界を降り下ろし、圧死させる。
「ええー!すごいなぁ。だけどこれは、どうかな?」
次はさっきの魔獣よりも一回りも二回りも大きいモノが生み出される。恐竜、と言えば誰もが想像するモノが狂化されているのを考えると一番しっくりくる。
流石にこれを押し潰すのは一苦労だろう。そしてこれがもし幾つも出せるのなら一体一体を相手していても切りがない。
トウキを見据え、剣を抜こうとする。
すると、
「正斗は先に行った方がいい」
背後から声がした、氷華の声だ。
「俺達が出会った"D"はこれで四人目だ。情報じゃあ全部で十五、まだまだ全然足りない」
翔も声を出す。
「邦坂隊や綾斗、深月がどうなってるかわからないし先に行って」
時雨も言う。
「だけどおまえらは俺がいなくて大丈夫なのか?」
「大丈夫に決まってるじゃないですか。全くあなたはいつもいつも……」
絢香も行けと言った。
「わかった。じゃあ先に行く」
「あれ? 一人いなくなっちゃうの?」
続けて
「でも逃がさないよ~」
「はっ、黙れ餓鬼が」
魔獣が襲いかかってくるのを全て結界で防ぐ。
「そこの坊っちゃん、痛い目みても知らねぇぞ?」
翔がトウキと零距離まで近付き、刀を振るった。
真っ暗な廊下を炎で照らし走る。
施設長は何処にいるのかわからない。だから境界拠点で一度通信を行った通信室に向かった。
次の角を曲がれば目的地は目の前。壁に背中をつけ、曲がった先を確認する。何もない、誰もいない。
角を曲がる。
通信室への扉にあと少しのところで、視線の先に何やら靄のようなものが立ち込め、収縮し、姿が形成されていく。
人だった。それも、何度かあの施設で目にしたことのある――。
「中には我らが長はいらっしゃいません」
話し出す。
「なら何処にいる?」
「特に口封じはされてませんし私に勝てたら教えてあげてもいいですが?」
そいつは言った、勝てば教えると。
「へぇ。それならやるしかないな」
空に炎を生成し、戦闘体勢に入った。




