第十五章 火印隊
「ちっ」
向かって来るのは三人の"D"。
一人はつくっているのか、亜空間から召喚しているのかわからないが、多くの剣や槍を呼び起こして飛ばしてくる。
一人は氷の生成能力者のようだ。氷で武器をや盾をつくり、打ち合ったり、時には氷を放ち攻撃してくることもある。
一人は背中に羽のようなものがあり、それを動かすことで飛んだりしている。
一人が剣を放つ。それを躱すと近寄ってきた氷と打ち合うことになる。打ち合っていると死角、時には上空から第三の矛が襲ってくる。
その連携は厭らしいほどに完璧だ。
時間を稼いで四人が他の敵を倒してくれるのを待つか……
今は剣で敵の殆んどの攻撃を捌き、逃したものを結界で対処している、五分五分といったところだ。
今よりも力を出せば詰めにいけるだろうが相手もこれ以上どの程度の力を持っているかわからない。四人が他の敵を倒しきるのも時間の問題だろう。なら、敵が他方にいかない程度に相手をし、好機があれば詰めにいくことにするか。
どういうわけか、敵七人はそれぞれ助け合って死なないように戦っている。殺すことより殺されないことの方が優先のようだ。
戦闘が始まってから暫く経つが均衡状態が続いている。このままでは埒が明かない、どうするべきか綾斗大将の顔を窺う。
すると綾斗大将の口が動いた。
唇を読むと「五人で先に行け」、五人とは邦坂隊のことだろう。
俺は敵それぞれの目の前で火を爆発させる。
僅か、敵が怯んだ隙に合図する、前進。
他の四人は俺が綾斗大将とやり取りしていたのが見えたようで前に進む。
敵が我に返ったときには既に敵の位置を通り越していた。
何人かはこちらへ攻撃しようとしてくる、が、風の壁に阻まれ、無に終わる。振り返ると後方の深月中将と目が合った――。
剣で氷の剣と打ち合う。下段から切り上がり降り下ろされ中段に入る。正斗はその全てを弾き、距離をつめようとすると相手は距離をとろうとする。が、正斗は敵の背後に結界をつくり下がらせない。
正斗と敵の距離を広げれば大量の剣と槍が降り下ろされる。近くに仲間がいることを考えれば広範囲の攻撃を惜しみ無く行使することはできないだろう。
氷の"D"は急ぎ氷の壁を生成する。真正面から一対一で打ち合っても勝てないとわかっているのだろう。正斗は結界を敵に近付け圧死を狙うが敵はそれを察して自ら氷の壁を壊す。
一見正斗の大チャンスに見えたが敵は僅かな時間を稼ぐだけでよかったようだ、背後には羽のはえた"D"がいた。
挟み撃ちにされ、羽付きが殴りかかってくる。それを躱し腕を切り落とす好機かと思えた。そして切りかかる、が、
「Make scale」
そう呟いた。
Make scale ――日本語で、鱗生成。
羽付きの皮膚にごつごつと変化が加わる。
直後、甲高い破壊音が辺りに響いた。
正斗の持っていた剣が折れた。
ここだ、正斗はそう確信した。
この三人の"D"以外でここにいる敵兵はもう残り片手で数えられるほどだった。四人ならそのくらいの数なら一人でも一瞬にして倒すことができる。だから敵の"D"をより自分に引き付けるよう動いた。
先が折れた剣を羽付きに投げつけて牽制し、距離をとろうとする。敵は鱗で弾き、氷の"D"が氷槍を生成し飛ばしてくる。ギリギリのところでバランスを崩しながら避けたように見せかける。
正にそこが決めての打ち所であった、相手にとって最大の攻撃チャンスだった。
敵は自分たちの側に持ち込み、相手を焦らし、ミスをさせたと思っているだろう。だがそれはフェイクだ。
少し離れたところに大量の剣と槍が生み出される、その数およそ三十。そしてそれが容赦なく撃ち出される。
だが正斗には回避する術があり、決め手もあった。
懐から拳銃を取り出し、油断している三人に乱射する。回避行動をとらなかったことにより、敵は捨て身の攻撃だと思うだろう。
剣槍が自分の場所に届くまであと十メートル――五メートル――一メートル、今だ。
自分の周りに結界を張り巡らす。
次の瞬間、辺りは甲高い金属音で包まれる。剣槍が硬いもの――結界に一つ残らずぶつかり、そして消えていく。
刹那、正斗は相手に一気に距離をつめた。
三人ともが阿吽の呼吸で一気に地を蹴り、後退する。だがそれは予想していた。
「やれ!」
叫んだときには既にそれぞれ三人の後ろにたっていた翔、絢香、時雨が剣を振り上げ、終わっていた。
氷華も最後の一人をやり終わったようでこちらを向いて頷いている。
「ようし、終わったな。さて次に行くか」
先を促すと
「なによ終わったなって、苦戦してたじゃないですか」
と、絢香が一言付け足す。
「そうだな、助かったよ」
気のない声で適当に返事をする。
「作戦だったかもしれませんが私達がいなかったら……」
「はいはいそこまで~」
翔がふざけたような声で止めに入る。
「ははは」
時雨の笑い声がとぶ。
氷華はいつも通り無口だ。
正斗は心の中で思った、いつも通り長くなりそうだ。




