第十四章 黒と青の隊服
およそ四十分後、境界拠点の正面の入り口付近に俺を含む十二人が揃っていた。
物音一つ立てるのも躊躇うほどの緊迫感が漂っている。
それを切り裂くようにして綾斗大将が話し出した。
「揃っているな、では行くか」
綾斗大将、深月中将も剣を手に持っていた。
綾斗大将と火印隊、深月中将と邦坂隊に分かれて呪術式四輪車に乗り込む。
そしてゆっくりと、少し、凹凸のある道を、真っ直ぐに進みだした。
「見られてるね」
新宿へ向かう山中、突然深月中将が小さな声で呟いた。
感覚を研ぎ澄ませてみると、何処からか視線を感じる。だが周囲には木々が茂っており、居場所の特定など出来そうにもない。
一瞬、森に火をつけることを思い付いたが、近くには幾つか小さな集落があることを思い出す。まあなくてもこんなことしなかっただろうが。
「あ、大丈夫っぽい」
たっぷり十秒ほど経った後にまた、呟いた。
「正斗が森の中に幾つか結界をつくったんだと思う」
確かにもう森の中に人の気配は感じない、上手く撒けたようだ。
十分ほど走ったところで車から降りた。
車から降り、向かったのは新宿の陽月の帝の新宿拠点が見える少し離れたビル。
屋上から双眼鏡を覗くと、中は見えないが、外回りは見ることができた。
いつも通り、兵が警備についている、いや、その数がいつもよりもかなり多い。
「今作戦の人員編成は殆んど剛一に任せたからな……新宿においていった兵のほぼ全員に剛一の息が掛かってたということだな」
と言う綾斗大将に火印中佐が
「邪鬼の帝と戦うとき障害となり凶となってたか、あるいは今凶となったか……まだましな方を選べたか」
「外にあの人数がいるなら中にいる兵は少ないだろう」
「なら一点突破だな」
「それが最善だろう。だが最も危惧するべき相手はあの施設の"D"だ」
「誘き出すのもありだが奴らは陽月の帝との関係が薄い。誘き出す手立てがない」
「成る可く敵の虚を衝きたい。陽動、そして侵入だ」
「あの人数がいて扉も閉まってる。地下通路も封鎖されてい……」
火印中佐の言葉を遮って
「いや、将官以上しか知らない通路が一つだけある」
「もっと早く言えよ」
「すまなかったな」
「で、どこだ?」
「彼処の地下三階の駐車場だ。そこから基地内の中央塔の地下第二会議室に繋がっている」
と、隣の隣、その隣の建物を指して言う。
「わかった。俺の隊で正面から攻める。そっちは七人で行ってくれ」
「引き受けた。では後でな」
そして二手に分かれ、俺達は地下通路があるという建物に向かった。
俺達の隊が侵入に加わった理由は恐らく二つ、
一つ目は単に火印中佐の能力が少数対多数に向いているからだ、
二つ目は敵が陽動に気付いたとしても蓮――飛行能力者がいる可能性を考えれば通常以上に空を警戒する必要ができる。
これを一瞬の内に考え判断した二人は俺よりもずっと強いのだろう、などと考えているとその建物に到着した。
上層議会の方々が殺されたというのに街はいつもの賑わいをもっている。今何が起こっているのか、街の人には知る由もないのだから。
その建物に入り、階段をかけ降り、少し走った先で、
「着いたぞ」
綾斗大将が言った。
ここは何の変わりもない至って普通の駐車場。
綾斗大将が懐から見たことがない呪術符を取り出し、B‐4と書かれた壁に貼り何か唱えた。
すると、呪術符が薄く光り出し、その光が壁へと伝わる。
静かに壁が動き出した。
次に、重たそうな金属扉が現れた。
それにコードが入力される。
最後に、扉が開き、通路が現れた。
「急げ、直ぐに扉を閉める」
全員が通路に入り、扉が閉められた。
これで退路がなくなったことになる、だが、ここで逃げることになるときは負けたときだ。退路は必要なかった。
敵がいないことを確認して走り出す。
既に全員が毘沙門天呪を使っていた。
そのせいか直ぐに次の扉が現れた、いや、扉というより隔壁といった方が正しいだろうか。
その隔壁を越し、次の隔壁が見えたとき綾斗大将が連絡をとった。
火印中佐の方は少し前に戦いが始まったのだという。
千手観音呪で隔壁の先に敵がいないことを確認して横のパネルにパスワードが入力された。
その先は地下の会議室のようだった。
俺は軍の施設の内、殆んどの部屋に入ったことがないため確信はもてなかったが、恐らく基地内の中央塔の第二会議室なのだろう。
そのときだった。突然ドアが開かれた。
そして部屋に入ってきたのは七人の、黒と青の隊服を着た兵士――あの施設の兵士だ。
「どーもどーもお待ちしておりました」
中には、名前こそ知らないが、見たことのある顔もあった。
「どうしてこっちの居場所がわかった? 参考までに聞かせてくれるかな」
綾斗大将が問いかけた。
「いやーこちらには千里眼の能力者がおりましてねー」
真ん中の男が愉しそうに答える。異常なまでに余裕がある笑みで。
「ほんで私には別にあなたたちに恨みはないんですけどねー。ま、命令なんで仕方ないんですわ」
続けて言った。
「死んでもらいますよ」
そして攻撃態勢に入った。
全員が身構えた。
――戦闘開始
「流石に邪鬼の帝のときよりきついな~」
戦いながら俺が言うと
「うん。でも私達の敵じゃない」
氷華が返してくる。
「まあそうだな」
地上の敵の数はもう既に五十を切っていただろう。
地下のことを心配する必要はなかった。なにせ綾斗がいるのだから。深月だっている。それに……
「祐はどこまで強くなれるかな」
俺、火印正斗は邦坂祐の本当の力があんなものではないと知っていた。
超能力の面だけでみると陽月の帝で最高と言っても過言ではないくらいの力があると。
だが本人はそれに気付いていなかった――
「お? おでましか?」
視線の先には三人の、黒と青の隊服を着た兵士がいた。




