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第十二章 戦いの始まり

旧滋賀県を出たところで、火印(かいん)隊の車から連絡があった。

その内容は名古屋拠点には戻らず、境界拠点に向かうとのこと。

その時の火印中佐の声はいつもの冷静さを失い、焦りを帯びていた。


境界拠点に到着すると、大嶋(おおしま)軍曹は医務室に連れて行かれ、俺以外の邦坂(くにざか)隊のメンバーは拠点内の一室で待機とされ、俺は火印隊の方々と共にとある部屋に入った。

「ここは……指令室?」

正面には大きなモニター、(いく)つかの入力機器とその前に座る数人のオペレーター、そして中央の椅子に座るのは――。

「来たか、正斗」

(すめらぎ)綾斗(あやと)中将、今作戦の陽光(ようこう)の組の指揮官が火印中佐に声を掛けた。

綾斗中将の声を聞くのは初めてだが、それでも少し焦りや怒りを覚えているのがわかる。

両隣には(ひかる)中将、深月(みつき)中将が立っている。

「邦坂二等兵は事情を知っているのか?」

「いや、伝えていない」

二人が話を始める。

「邦坂二等兵、つい一時間ほど前にこのような文書がある仮面を被った人物から送られてきた」

そう話始めると、正面のモニターにその文書が表示された。

内容は、綾斗中将、光中将、火印中佐以外の上層議会のメンバーを全員殺したというものだった。

何故、自分にこのようなものを見せられているのかはわからなかった。だが一つ引っ掛かることがあった。

それは、仮面を被っているという点だ。

「父上達が殺されたとの確認がとれた。奴は陽月(ようげつ)の帝の本拠点である新宿の通信室から文書を送ってきた。通信を繋ぎ、奴を見ることはできたが、仮面を被っており、何も話さなかった。そのかわりこんなものを送りつけてきた」

そう言うと、今度は別の文書が表示される。

『邦坂(ゆう)を連れてこい』

「心当たりは?」

あまりにも驚くべきことで、しかも全く意味のわからないことであったため(しば)し固まっていたが、慌てて答える。

「いえ、ありません」

少しの静寂が訪れた。

たっぷり十秒ほど経ったところで綾斗中将が言った。

「それでは新宿と通信を繋ぐ」

そう言うとオペレーターが機器を操作し始めた。

それと同時に火印隊の火印中佐以外の四人が俺への注意を強めたのがわかる。

すると、仮面をつけた人物がモニターに現れた。

嫌な予感が当たった。その仮面はとても見慣れたものだった。

「――っ! 施設長」

そう呟くと部屋中の人の視線が俺に集まった。

「どういうことだ?」

綾斗中将が話を切り出す。

「奴は先日まで自分が囚われていた施設の長です」

怒りと憎しみを隠せていない声色で答える。

その男は部下に俺の捕獲を命じた、つまり俺の両親を殺した。そして記憶を()り替えた。

『久しいな』

奴が一言、声を発した。

部屋中にどよめきが起こる。だが、直後、それは初めて話したことに対する驚きではなかったと知る。

綾斗中将が、光中将が、深月中将が、火印中佐が、光牙(こうが)大佐が、闇導(あんどう)大佐が、氷華(ひょうか)少佐が、時雨(しぐれ)中尉が、皇家と関係の深い人全員が驚きの声を上げた。

『えっ――!?』

一瞬の驚きの後、怒りの表情に変わる。

剛一(ごういち)! おまえは何を!!」

綾斗中将が叫ぶ。

剛一、俺は彼の声をまだ一度しか聞いたことがなかった。そのため、声が皇剛一大佐のものと一致していることに気が付けなかった。

剛一大佐と初めて話したとき、どこかでその声の主と話したことがあるように感じたわけがわかった。

『何って、憎い上層議会の奴らを殺してやったのさ。奴らは自分達が超能力を使えない、大した力を持っていない割に超能力を持って生まれなかった息子を道具のように扱った。理由としては充分だ』

仮面を取りつつ、皮肉のように笑いながら答える。

『解放される良いチャンスだったよ。そして俺は支配する側に回る。お前らみたいな無能はいらない。ここに俺の国をつくる!!』

そこで通信が切られた。

どうやらこの戦いは奴が仕向けたものだったようだ。考えてみると、敵兵の熟練度は然程(さほど)高くもなく、決着もあっさりとしたものだった。奴が邪鬼(じゃき)の帝に誤った情報を送ったのだろう。

「してやられたな……」

光中将が呟く。

「一方的に宣言して通信を切ったということはこちらと交渉する気もないし、戦力的にみても余裕があるのだろう……だが、その戦力はどこから……?」

綾斗中将が話しているのが終わったところで口を挟む。

「以前、自分がいた施設で訓練された兵だと思います。数は十五人、恐らく全員が"D"です」


その後三十分ほどで話は終わった。

今から一時間後に綾斗中将、深月中将、火印隊、邦坂隊で新宿に戻り、奪還する。

いつ、ここが襲われるかはわからない、それもこの位置では剛一側、邪鬼の帝、両方を警戒しなければならない。そのため、指揮官を光中将とし、ほとんどの兵をここに残していく。

話の内容を頭の中でまとめつつ、()のところへ向かった。


戦いは終わったのではない。

今、戦いの火蓋は切られたのだ――。

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