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第十一章 戦いの始まり~終結~

「みんな、伏せろ!」

(かい)は叫んだ後、手を上に掲げ大きな声で言い放った。

光の魔法拡散弾(ライトディヒュージョンズガン)、高出力生成―発射!」

照明弾のようなものが上空へと飛んで行く。

すると、その弾が(はじ)け、中から溢れるように、純白の光が放たれ、辺り一面が真っ白になった。

目が(くら)んだ。

そして、目を閉じ、数秒後、もう一度開くと、そこはさっきまでの暗闇が嘘であったかのように明るい空間だった。

恐らく櫂の作った弾丸が効いているのだろう。上空から光が降り注いでいる。

周りを確認すると、櫂、(とおる)(れん)、そして今度は敵の姿もはっきりと捉えることができた。


「治癒……能力者…………?」

(ともえ)が呟く。

「私は普通の人間より何倍も怪我や病気の治癒が速くてね」

敵が話し出す。

「心臓を刺されたくらいでは死なないよ」

驚愕の事実だ……だが、相手が"D"でも勝機はある。

"D"の能力は脳、または脊髄の命令によって無我力を介して行使される。敵の無我力量はどの程度かわからない……なら、狙うべきは―。

敵の頭部に拳銃の弾を放つ。

「目の付け所はいいね」

と言い、手の平で弾を受け止める。

当然、手の平には弾が刺さり、血が(あふ)れ出す。

だが、意に介した様子もなく、刺さった弾をもう一方の手で(つま)み取り―この時は流石に痛そうな顔をしていたが―手を握り、その手を開くと傷は既に癒えていた。

双方、呪術符を使い、身体能力を上げる。

敵は地面に落としていた拳銃を拾い上げ、撃ちかかってくる。

ナイフや拳銃での攻撃では普通の人間なら()(かく)、こいつには致命傷を与えるには至らない。

敵の放った弾を(かわ)しつつ火界(かかい)呪を取り出し、地面に投げつける。

火界呪は爆発し、巴と敵との間に砂塵が舞い、視界が悪くなる。

懐から複数枚の呪術符を取り出し、手盾を生成、そして視界が悪い中、敵が近付いてきてもわかるようにセンサーを展開した。

毘沙門天(びしゃもんてん)呪、慈救(じく)呪、千手観音(せんじゅかんのん)呪―複数の呪術符を同時に展開しているため脳への負荷はかなり大きい。

そのため早期決着が望ましい、が、早まって敗れてしまうという結果にはなってはならない。(ゆう)たちの安否も気にかかっているところだ。

なら、勝負は砂塵が晴れるとき。

幸い敵は、突然の砂煙にあまり対処できていないようで銃を乱射している。時々、弾が飛んでくるが、それを千手観音呪で感知し、毘沙門天呪で反応し、慈救呪で止めるというように守っている。

砂煙が晴れ出し、敵の姿を捉えることができるようになってきた。

そして、敵の頭部目掛(めが)けてナイフを投げる。

(わず)かに遅れて反応した敵は、目の前で腕でナイフを受け止める―自分の視界を遮ってしまう。

その隙に敵の背後に回り込む。

反応した時にはもう遅い。

頭に火界呪を貼り、呟いた。

「爆発しろ」

首から上が(えぐ)れ、弾ける。

敵は地に倒れ伏した。


炎や光でこの空間が明るくなる。そして、奴は明るさを避け、暗い所で身を消すことができる。

恐らくここは奴がつくりだした影の空間、さらに、奴は影に隠れる、影の中を瞬間的に移動する、詳しいことはわからないが、影を味方につけることができるようだ。

だが、ここに影はない。

四対一、もう奴に勝ち目はない。

すると、奴は懐からナイフを取り出し……自分の心臓に突き立てた。

辺りが一気に真っ白になる―これは櫂の作った弾丸の光ではない。

その明るさに目を閉じてしまう。

そして次に目を開けた時には辺りは元に戻っていた、巴と(はぐ)れた場所だ。

周りを確認する。

通がいた。

蓮がいた。

櫂がいた。

恐らく影の能力者である奴がいた。

そして、巴がいた。

巴は脱力したように座り込んでいた。

巴の前には邪鬼(じゃき)の帝の隊服を身に付けた、顔が判別できないほど抉れた兵士がいた。

全員無事だったようだ。

俺は胸を撫で下ろし、巴に駆け寄った。

だが、巴は動かなかった。

「巴?」

声を掛けてみたが反応はない、じっと俯いたまま座り込んでいる。

肩を叩いた、そこで(ようや)くわかった―巴が震えていることに。

そこで初めて自覚した。自分の記憶がなくなっていることに。

以前、陽月(ようげつ)の帝で面接を受けたとき、記憶がなくなっていることはわかったはずだった……わかってたはずだった。

だがそれは論理的に考えた結果に過ぎなかったのだ。

現実を突き付けられたようで激しく衝撃を受ける。

妹が震えていることにまるで気付けないなんて。

だがこの状況で俺が(へこ)んでいては正真正銘の兄失格だ。

俺は勇気を出し、巴の肩にそっと優しく触れた。


その後、火印中佐から邪鬼の帝の当主を倒したとの連絡があり、戦いは終わりを迎えた。

地下の指令室に当主、護衛が十五人ほど、数人のオペレーターがいたそうだ。当主と護衛の内の二人、合計三人が"D"だったと聞いた。最初に火印隊と巴隊を二つに分けた攻撃は恐らく当主の植物を操る能力だったとのこと。また、三人の"D"はギリギリまで追い詰めるか、瀕死になると自殺したそうだ。

たった五人で、しかも"D"は一人だけなのに三人の"D"と当主の護衛を倒して尚、全員が涼しい顔をしている実力に俺は舌を巻いていた。

今は火印隊と車を降りた所で落ち合い、旧大津市に向かっているところだ。

部隊が別れてから連絡が何一つないのも気に掛かる。

境界拠点の方はというと、もう敵の残存兵を倒しきるくらいだという。数は多かったが一人一人の戦闘能力が低かったようだ。

巴はというと、隊長としての役割を果たしてはいるものの、いつもの力強さはない。


数分後、部隊が別れた場所が見えてきた。

そこは酷い有り様だった。

敵味方問わず、全員が地面に倒れていた。

全滅か……誰もがそう思っただろう。

その時、

「ゲホッ、ゴホッ」

酷く苦しそうな咳が聞こえてきた。

陽月の帝の隊員からだ。全員がそっちを向く。

よく見ると、その人は名古屋防衛の時に一緒だった大嶋(おおしま)(まこと)軍曹だった。

体中から血が吹き出している。

火印中佐が駆け寄ると話し出した。

「報、告……し……ま、ゲホッ、ゴホッ」

「報告なんて後でいい。黙ってろ」

辺りを見る限り、一刻を争うような状況ではない。

誰かが一方の敵と刺し違え共に死亡、最終的にもう片方の敵と大嶋軍曹が刺し違え、大嶋軍曹だけが生き残ったという様子だ。

止血をし、車まで運ぶ。

そして、他の全員の死亡を確認した後、そこを去った。


日はもう沈んでしまった。

戦いが始まるまで約七時間―。




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